「内藤礼 信の感情」 東京都庭園美術館

東京都庭園美術館
「内藤礼 信の感情」
11/22-12-25



東京都庭園美術館で開催中の「内藤礼 信の感情」を見て来ました。

約3年間にわたり本館の改修、及び新館建設工事のため休館していた東京都庭園美術館。去る11月22日、全ての工程を終え、全面リニューアルオープンを迎えました。

そのオープニングを飾るのが現代美術作家、内藤礼の個展です。1961年に広島で生まれ、1997年にはヴェネツィア・ビエンナーレの日本館で作品を発表。近年には2010年に神奈川県立近代美術館鎌倉館でも個展を行いました。私もそれは未だ強く印象に残っています。


東京都庭園美術館本館「正面玄関ガラスレリーフ」

さて時に既成の事物を用いつつ、細微な造形物を配置することで空間を静かに変容させる内藤の手法。今回は歴史ある庭園美術館という「場」に、半ば敬意を払うかのようなインスタレーションを展開しています。


「次室」(香水塔:アンリ・ラパン)

というのも本館部分、改修はあくまでも創建当初の姿に近づけることを目標としている。何も所狭しと絵画なりが飾られていることはありません。


「大客室」(照明「ブカレスト」:ルネ・ラリック)

例えば大客室もご覧の通り。ラリック制作のシャンデリアの元に広がる長方形の客室、扉や暖炉のレジスターには装飾が施され、南窓からはテラスを見下ろすことが出来ます。ここに何ら作品があるようには見えません。


「大食堂」

それにしても何度見ても美しいもの。大食堂です。張り出した円形の窓を背に広がる空間、こちらも照明はラリックです。ガラス扉には果物のモチーフが刻まれています。円いテーブルには会食用に使われた食器でしょうか。ガラスの器が置かれていました。


「大食堂」テーブル

このように一見するだけでは「作品」として何もないように見える展示。それに加えて入口受付では内藤礼展の作品配置図が配布されません。つまり作品はどこにあるか分からないわけです。


「第一階段」(部分)

何も知らなければただ単にリニューアルした美術館を公開しているだけにも映る。もちろんそれだけでも十分に楽しめるのは庭園美術館の「場」の力に他なりませんが、しばし建物を巡っては細部の意匠、アール・デコの趣きを味わってみましょう。その何とも言い難い愉悦感。何せ3年ぶりです。久々に感じる方も多いかもしれません。

しかしながらさらにさらに建物の細部へと目を凝らしてみて下さい。すると誰かしらの気配があることに気がつきはしないでしょうか。


内藤礼「ひと」 2014年 木にアクリル絵具

「ひと」です。木彫、思わず見落としてしまうほどに小さい。いずれも立っている。そして鏡を前にしています。


内藤礼「ひと」 2014年 木にアクリル絵具

突き詰めてしまえば、この「ひと」こそ内藤の作品ですが、さも美術館が朝香宮邸の時から住んでいるかのように溶け込んでいる姿、違和感はありません。何とも愛おしくはないでしょうか。

そして「ひと」を探さんとばかりに美術館の細微な空間へより目を凝らすようになる。とすると「ひと」また現れるのです。まるで我々を待ってましたと言わんばかり。しかもほぼ必ずと言っていいほど鏡を前、あるいは背にして立っています。


内藤礼「ひと」 2014年 木にアクリル絵具

「鏡の国のアリス」ならぬ鏡の向こうの異世界を連想しました。この「ひと」は長らく鏡の向こうの世界にいて、このオープンという祝祭のためだけにひょっこり出て来たのかもしれない。サイズはまちまち、しかも微妙に体つきが異なっています。同じようで、誰一人同じではありません。

「ひと」に誘われて本館を一巡した後は、新たに建てられた新館へ移動しました。


東京都庭園美術館「新館」へのアプローチ

美しいのは新館へのアプローチ、波板ガラスです。設計のアドバイザーは新館と同じく杉本博司。光の角度如何では影が蝶やハートマークに見えるとか。アール・デコからホワイトキューブへの移行。このチューブで時代を超えていくような気にさせられます。

新館での内藤の展示はホワイトキューブ一室です。メインはアクリルのペインティング10点余。白く、朧げに、そして豊かに空間を包み込む光。僅かな虹色をしています。眼をとじて再び開けばもう光は消えているかもしれない。色と光は空間に溶け込んでいく。あくまでも微かに浮かび上がっています。


東京都庭園美術館「新館」全景 (ミュージアムショップとカフェが併設されました)

そして新館にも「ひと」はいた。ただし一人です。ただ一人だけ光を浴びにやってきた「ひと」。ともすると住処、あるいは本館と行き来する移動装置でしょうか。鏡のついた箱を背にしています。

「この展覧会を準備しているうち、いつの頃か『地鎮祭』という言葉が筆者の頭に浮かんできた。」 *内藤礼展カタログより

地鎮祭、まさしく言い得て妙ではないでしょうか。さらに今回ほど展覧会の「会」という言葉を意識させることもない。「ひと」と人が出会い、人と空間が出会い、空間と「ひと」が出会う。作品と鑑賞者と美術館という場の全てが関係性を持ちえます。そしてそのつなぐ存在にこそ「ひと」がいるわけです。


「書斎」

端的に内藤の個展として捉えると、私はかつての鎌倉館の時の方が楽しめたかもしれません。ただ今回は節目の時、歴史ある空間の魅力をさらに高めるような内容です。本館での瞑想的な展開はもちろん、光の満ちた新館の構成も含め、実に練られていると感心しました。


東京都庭園美術館「本館」館内

作品の性格上、なるべく人の少ない時間帯が良いかもしれません。なお平日に限り、本館部分の撮影も可能です。(一部、制限事項があります。)年末の慌ただしい時、なかなか難しいかもしれませんが、ここはあえて平日をおすすめします。


「殿下寝室」(展示は旧朝香宮邸資料)

なお本展は同美術館のこれまでの修復活動などを紹介する「アーキテクツ展」(本館のみ)と同時開催中です。通常展示されない家具やオリジナルの壁紙などもあわせて紹介されています。


東京都庭園美術館「本館」全景

余韻の深く残る展示です。実際、私も今回は夕方前を狙って行きましたが、館内を彷徨うこと2時間、殆ど人のいなくなった閉館間際になっても、このままずっと「ひと」と一緒に居たくなってしまいました。


内藤礼「ひと」 2014年 木にアクリル絵具

今「ひと」は何を考え、何を見て、誰に出会っているのでしょうか。

「庭園美術館へようこそ:旧朝香宮邸をめぐる6つの物語/河出書房新社」

12月25日まで開催されています。遅くなりましたがおすすめします。

「内藤礼 信の感情」 東京都庭園美術館@teienartmuseum
会期:11月22日(土)~12月25日(木)
休館:毎月第2・第4水曜日(11/26、12/10)。但し12/24は開館。
時間:10:00~18:00。12/22(月)~25(木)は20時まで開館。*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700(560)円 、大学生560(440)円、中・高校生・65歳以上350(280)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *小学生以下および都内在住在学の中学生は無料。
 *「アーキテクツ/1933/Shirokane」(本館)と共通入館券。
住所:港区白金台5-21-9
交通:都営三田線・東京メトロ南北線白金台駅1番出口より徒歩6分。JR線・東急目黒線目黒駅東口、正面口より徒歩7分。
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