「ウィレム・デ・クーニング展」 ブリヂストン美術館

ブリヂストン美術館
「ウィレム・デ・クーニング展」
2014/10/8-2015/1/12



ブリヂストン美術館で開催中の「ウィレム・デ・クーニング展」を見て来ました。

第二次大戦後のアメリカ抽象表現主義を「先導」(美術館サイトより)した画家として知られるウィレム・デ・クーニング(1904~1997)。まとまった作品による個展としては国内で約40年ぶりのことだそうです。

出品は油彩、水彩ほか、彫刻など35点。ブリヂストン美術館のスペースからすれば少なく感じるかもしれませんが、本展はあくまでもテーマ展。クーニングが主に60年代に描いた作品、とりわけ女性像に限られます。特別展ではありません。

とは言え、先にも触れたように、そもそも日本で紹介される機会の少なかった画家、30数点でも相当に見応えがあります。そして作品はアメリカのジョン・アンド・キミコ・パワーズのコレクションが中心です。ほかにもMoMA、また東京都現代美術館や広島市現代美術館からもやって来ました。

今回は6次元のナカムラクニオさんの「ナイト・アート・クルーズ」に参加しました。その内容に準じて展示を追いたいと思います。

「ウィレム・デ・クーニング展関連企画 『ナイト・アート・クルーズ』を開催しました。」@ブリヂストン美術館ブログ

まずクーニング、生まれは1904年のオランダです。同国語で「キング」を意味するクーニング、当初は夜間の学校で美術を学びます。アメリカへ渡ったのは22歳の頃です。ペンキ職人として看板描きをしながら画家を志した。かなり貧しかったそうです。そもそもアメリカへも密航者として入国しています。


「ウィレム・デ・クーニング展」会場風景

そうしたクーニングが最初の個展を開いたのは44歳の時。遅咲きと言えるのではないでしょうか。今でこそポロックと並び称されるほどの地位を確立したクーニング、しかしながら初めから華々しい成功をおさめていたわけではありません。

ポロックとの関係を少し見ましょう。有名なのが恋人のリース、元々はポロックの恋人。彼の起こした自動車事故で生き延びたモデルです。またポロックは「完全抽象」に対し、クーニングは「半抽象」、つまり「溶けた女性」を描いた。モチーフはほぼ女性です。中でもマリリン・モンローを大変に好んでいたとか。会場でも冒頭の作品は「マリリン・モンローの習作」でした。そして彼自身の女性遍歴も極めて多彩。ようはもてたわけです。「女性」というキーワードもクーニング画を見る上では重要となるかもしれません。

さらにもう一つ、クーニング画を知る上でポイントとなるのが「水」、例えば「水の中の女」と題された作品です。

クーニングの生まれた街はロッテルダム、つまり水の街でもある。アメリカでも港町で海水浴の女性を得意として描きます。水に触れては艶やかな肌の感触、はたまた水にたゆたう女性の美しき姿。それにも魅了され、さらには半ば抽象化して表した。50年代のアメリカ人女性の奔放な生き様に感化されたのではないかという指摘もありました。

女性の身体を描き続けたクーニング、その肉感的な描写も特徴と言えるのではないでしょうか。

彼は「肉食」の画家、別の言い方をすれば「ピンクの肉塊」、肉々しい人体の姿を執拗に描いています。クーニングはルーベンスにも関心があったそうです。そして肉体は時に異様なまでにねじられている。スーチンが好きだったとも伝えられています。何らかの関係があるのやもしれません。

ちなみに肉塊といえばベーコンです。彼は半具象の画家。同じように人間の肉を捉えます。ところがモチーフはほぼ男性です。クーニングは「溶けた女性」を描いたのに対し、ベーコンは「溶けなかった男性」を描いた。対比してみると面白いかもしれません。

東京都現代美術館所蔵の「無題」は国内最大のクーニング画として知られています。まさに渾然一体、モチーフは不明瞭で揺らいでいる。とは言えピンクの色面は肉体を思わせます。人体の形態の変化をさも一瞬で定着したような作品、ある意味では「未完成」にも映るかもしれません。しかしながらそこにも魅力があります。

クーニングは来日経験もあり、富士山を見ては「左右対称でつまらない。」などと述べていたそうです。なお会場では来日時の唯一の記録でもある「美術手帖」も紹介されています。(銀座のバーに女性を連れては暴れたというエピソードも残されています。)

晩年は筆致もより自在となり、朧げな色面で作品を構成するようになります。また70年代には彫刻も手がけます。ムーアの勧めによって制作したブロンズの「座る女」も目立っていました。

亡くなったのは1997年、画家92歳です。かつて70年代に日本で個展があった際にはあまり認知されなかったそうです。ひょっとすると本展こそ「クーニング再発見」の契機と成り得るのかもしれません。


「ウィレム・デ・クーニング展」会場風景

ナカムラクニオさんをして「現代美術の父」とするウィレム・デ・クーニング。確かに半抽象、「肉塊」というと取っ付きにくいかもしれませんが、透明感すらある色彩や揺らめく風景は、時にモネの晩年を思わせるように美しい。それでいて筆致にはジャズを思わせるような即興的な動きがある。またマスキングテープなどを用いた画肌の凝った質感も味わい深いもの。作品からは何とも言い難い活気、熱気が感じられます。

美術館の今後についての情報です。ブリヂストン美術館はビルの建て替えに伴い、2015年5月18日より数年間にわたって休館します。

「休館のお知らせ 2015年5月18日」@ブリヂストン美術館

しばらく寂しくなりますが、詳細については改めて来春に案内があるそうです。続報を待ちましょう。

カタログが極めて良く出来ていました。出展作の図版はもちろん、同館学芸課長の新畑氏の論文ほか、キミコ・パワーズ夫人へのインタビューも充実。現時点における日本語のクーニング本の決定版と言えるかもしれません。



2015年1月12日まで開催されています。遅くなりましたがおすすめします。

「ウィレム・デ・クーニング展」 ブリヂストン美術館
会期:2014年10月8日(水)~2015年1月12日(月)
時間:10:00~18:00(毎週金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
休館:月曜日。
料金:一般800(600)円、65歳以上600(500)円、大・高生500(400)円、中学生以下無料
 *( )内は15名以上団体料金。
 *100円割引券
住所:中央区京橋1-10-1
交通:JR線東京駅八重洲中央口徒歩5分。東京メトロ銀座線京橋駅6番出口徒歩5分。東京メトロ銀座線・東西線、都営浅草線日本橋駅B1出口徒歩5分。

注)会場風景の写真は美術館よりお借りしました。撮影は出来ません。
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