「村野藤吾の建築」 目黒区美術館

目黒区美術館
「村野藤吾の建築ー模型が語る豊饒な世界」 
7/11-9/13



目黒区美術館で開催中の「村野藤吾の建築ー模型が語る豊饒な世界」を見てきました。

「戦前戦後を通して幅広く多様な建築を数多く設計」(公式サイトより)したという村野藤吾(1891-1984)。目黒界隈ではまさに区の拠点、現在の目黒区総合庁舎(旧千代田生命本社ビル)を手がけた建築家でもあります。

村野の業績を文字通り建築模型から見定める展覧会です。出品は模型80件。全て京都工芸繊維大学美術工芸資料館に寄託されたものです。ほかにも図面、建築写真、さらには一部の建築物の備品までを網羅しています。

一階エントランスホールの建築模型のみ撮影が出来ました。

冒頭は東京の建築です。もちろん目立つのは目黒区総合庁舎。1966年に千代田生命本社ビルとして建てられ、後に区に売却。改修工事を経て、2003年に同区の庁舎となった建物です。


「千代田生命本社ビル 現:目黒区総合庁舎」 1966年・2003年改修
東京都目黒区 鉄骨鉄筋コンクリート造 現存
模型:小野直紀 2006年制作 1:200


端正な格子状の外観が目を引きますが、これらはいずれもバルコニー。元々はアルミ鋳物の縦格子だったそうです。彫は深くともどこか軽快な印象さえ与えます。村野の戦後を代表する建築物でもあります。


「読売会館・そごう東京店 現:読売会館・ビックカメラ有楽町店」 1957年
東京都千代田区 鉄骨鉄筋コンクリート造 現存
模型:松岡祐亮 2013年制作 1:200


都内近辺にお住まいの方は一度は足を踏み入れたことがあるのではないでしょうか。有楽町の読売会館、現在のビックカメラ有楽町店です。竣工は1957年。かつてそごう東京店として使われていました。特徴的なのは三角形の敷地であるということです。実際に現地へ行くと、確かに南から北に開ける三角形をしていることが分かりますが、それを村野は巧みに利用。水平線を際立たせた外観も流れるようで美しいもの。また西側外壁は今でこそ金属パネルに覆われていますが、当初は小さな四角い小片によるモザイクタイルが敷き詰められていたそうです。


「日本生命日比谷ビル(日生劇場)」 1963年
東京都千代田区 鉄骨鉄筋コンクリート造 現存
模型:平井直樹・永田拓章 2006年制作 1:200


同じく有楽町の日生劇場も村野の設計でした。模型では分かりませんが、外装は万成石が敷き詰められ、一転して重厚かつ非日常的な雰囲気を演出しています。実は私も何度か利用したことがありますが、曲線を利用した内部空間も独特で印象深いもの。天井のアコヤ貝もあるのか、どこか有機的とは言えないでしょうか。生き物の中に飲み込まれたかのような不思議な感覚を受けたものでした。

東京に続くのは美術館、教会・修道院、住宅、庁舎、娯楽・集会施設にオフィスビル、交通などです。これらのテーマ別に村野建築の模型が示されます。戦前、戦後は問いません。

美術館では個人コレクションを公開する施設を多く設計したそうです。うち糸魚川の谷村美術館には驚きました。竣工はほぼ最晩年の1983年。遺作とも言われています。敦煌の石窟寺をイメージしたそうですが、ともかく外観が個性的です。日本庭園の中央部に、半円、立方体の箱状の建物が無骨なまでに連なります。何ら形状し難い特異なフォルム。一体、内部はどのような空間が広がっているのでしょうか。想像すら付きません。

住宅は戦前に手がけたものが目立ちます。純和風の建築もありました。その中で異質なのは1939年の「川崎航空機工業岐阜工場社宅」。戦闘機を生産する軍需工場の社宅です。三角の大きな屋根の長屋が立ち並んでいます。ちなみにこの建築は村野の生前に刊行された作品集には掲載されていないそうです。

なお「川崎航空機工業岐阜工場社宅」は一部、現存していますが、ほかには既に失われたものや計画のみで実現しなかった建築の模型も少なからず出ています。その辺も興味深いポイントと言えそうです。


「森五商店東京支店(近三ビルヂング)」 1931年・1956年増築・1959年増築・1992年改修
東京都中央区 鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造 現存
模型:鷹野友美 2006年制作 1:100


80件を細かに挙げていくとキリがありませんが、その分、逆に一点一点の建築模型に見応えがあります。スケールが大きいのは「甲南女子大学」。さらに「新高輪プリンスホテル」では模型のほかにホテル内の備品も展示されています。また「近鉄橿原神宮前駅」や「横浜市庁舎」も村野の手によるもの。展覧会タイトルに「豊穣」、ないし「幅広く多様な」とありますが、まさしく特徴をとても一言で表せないほどに幅広い。凄まじいまでの創作力です。


「日本興業銀行本店 現:みずほ銀行本店」 1974年
東京都千代田区 鉄骨造・鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造 現存
模型:老松穂波 2007年制作 1:200


一切の奇を衒わずに、ひたすら丹念に模型を見せる「村野藤吾の建築」展。言葉は適切ではないかもしれませんが、今回ほど実直に建築に向き合う建築展も少ないのではないでしょうか。なお模型は京都工芸繊維大学の学生が図面から起こして作ったものだそうです。いずれも緻密な再現です。思わず頭が下がります。

ところで初めにも触れたように村野藤吾は目黒区総合庁舎の設計者です。美術館の最寄りは目黒駅。一方で総合庁舎があるのは中目黒駅です。直接、電車で行くことは叶いませんが、直線距離で測れば南北に1.1キロほど。道なりでも1.4キロです。歩けてしまいます。

よって今回は区役所も見学してきました。美術館からは目黒川沿いを北上。山手通りへ出た後、駒沢通りとの交差点を左折します。そこからやや坂道です。少しあがった右手に庁舎は位置します。ゆっくり歩いて約20分ほどでした。


目黒区総合庁舎外観

外観はご覧の通りです。縦に長いスリットが連続します。格子は全部で8900もあるそうです。保険会社時代にアルミ鋳物の上へアクリル樹脂が塗装されました。また屋上にも同様に格子の先端が上へ突き出しています。そしてこの格子のバルコニーによって室内に光がもたらされるそうです。


南口玄関棟エントランスホール

南口玄関からエントランスホールへ進みました。床も壁も白い大理石ばりです。奥行きがかなりあり、また広く、さらに天井も高い。イベントでも開催出来るのではないでしょうか。その反面に両側の窓は意外なほど低い位置にあります。そこから入る光は間接照明のようです。また上には明かり取りの窓があります。ステンドグラスが施されていました。


エントランスホール天井のガラスモザイク(作野旦平)

ホールは左右非対称です。確かに右側の方が余裕をもって作られています。またこのスペースには当初、エミリオ・グレコの彫像が置かれていたそうです。


本館螺旋階段

本館の螺旋階段も村野の設計です。良く見ると一段目が浮いているように見えます。素材は鋼鉄製。手すりやポリカーボネート製の板は後に取り付けられたものです。ただし村野のデザインを損なわないよう、螺旋の曲線を写した形で設置されています。


本館と別館の渡り廊下

本館と別館の渡り廊下が何やらSFに登場する宇宙船内部のようでした。搭乗ブリッジのイメージもあるようですが、縦に細く長いガラスから仄かな光が差し込んできます。


茶庭と茶室(外から)

内部に茶室と茶庭があるのには驚きました。まさしく純和風。茶室は京間で4畳半あるそうです。庁舎のモダンな外観からすれば想像もつかないスペースです。なお和室と茶室は登録団体のみ利用可能です。立ち入りは出来ません。(しじゅうからの間のみ平日8:30~17:00の間、見学出来ます。)



ほかにもエレベータホールやレストラン前の白タイルなど、庁舎内の随所に村野のデザインを見ることが出来ました。なお入口受付にあるリーフレット、「目黒区総合庁舎 村野藤吾の建築意匠」が大変有用です。見学の大いに参考になります。しかも無料です。是非手にとってみて下さい。


目黒区総合庁舎中庭池方向

目黒区美術館の「村野藤吾の建築」展。少し歩いて目黒区総合庁舎とあわせて見に行くのも良いのではないでしょうか。村野の建築世界を存分に堪能出来ました。

9月13日まで開催されています。

「村野藤吾の建築ー模型が語る豊饒な世界」 目黒区美術館@mmatinside
会期:7月11日(土)~9月13日(日)
休館:月曜日。但し7/20(月)は開館し、7/21(火)は休館。
時間:10:00~18:00
料金:一般800(600)円、大高生・65歳以上600(500)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:目黒区目黒2-4-36
交通:JR線、東京メトロ南北線、都営三田線、東急目黒線目黒駅より徒歩10分。
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