都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「第21回 秘蔵の名品 アートコレクション展」 ホテルオークラ東京
ホテルオークラ東京
「第21回 秘蔵の名品 アートコレクション展 美の宴 琳派から栖鳳、大観、松園まで」
8/3-8/20
ホテルオークラ東京で開催中の「第21回 秘蔵の名品 アートコレクション展 美の宴」を見てきました。
毎年夏恒例、ホテルオークラ東京で行われるチャリティーイベントことアートコレクション展。今年で21回目を数えるに至りました。
テーマは「美の宴」。宴とは人々が集っては「懇親を深める場」(チラシより)です。そのための相応しい場ということでしょうか。今年は会場を別館のアスコットホールから、本館最大スペースを誇る平安の間へと移しました。
上村松園「舞仕度」 大正3年 ウッドワン美術館
冒頭から松園祭りです。というのも全60点中、松園は8点。出展中で最大です。例えば「舞仕度」。モデルは京都の舞妓です。右隻に鼓を持ち、どこか笑みを浮かべては話し合う女性たち。この和やかな雰囲気。控えの舞妓かもしれません。一方、左にはやや緊張した面持ちで立つ舞妓が描かれています。うっすら紫色がかった着物。菊の紋様でしょうか。これから舞うための心構えを内に秘めています。気高さを感じました。
上村松園「男舞之図」 昭和13年頃 名都美術館
「舞仕度」が静であるとすれば、「男舞之図」は動といえるかもしれません。身体をやや反りながら、左手を大きく振り上げて舞う女性の姿。立烏帽子の男装です。粋で格好が良い。ステップは軽快なのでしょう。颯爽たる所作を見せています。顔の表情には余裕が感じられました。もはや舞を薬籠中のものとしているのかもしれません。
上村松園「虫の音」 明治42年 松柏美術館
歌麿に優品がありました。「三美人」です。三味線の稽古をする芸者衆。手を休めていることから稽古の合間なのかもしれません。三者の衣裳の紋様が鮮やかで美しい。一方、松園の「虫の音」はどうでしょうか。三味線を奏でているのは翁です。楽し気な表情をしています。また縁側には仄かに色気を漂わす女性の姿。寄り添っては可憐です。そして両者の群像表現、どこか似た面があるように見えないでしょうか。時代こそ異なりますが、歌麿の美人画が松園に何かしらの影響を与えていたのかもしれません。
宴では欠かせないのは舞に音楽です。小堀鞆音の2点、「蘭陵王」と「萬歳楽」に目がとまりました。まるで舞の動きそのものを丹念に描きとめたかのような作品。画家は大変な観察眼を持っていたことでしょう。関連しての笙や琵琶の実物も目を引きました。
伊東深水の「鏡獅子」も魅惑的です。小獅子を右手でもっては踊る女性。桃色の衣裳、牡丹の花でしょうか。ともかく顔の表情は凛々しい。自信に満ちあふれています。威厳を感じるほどでした。
広島晃甫「玉乗り」 明治45年 東京藝術大学
それにしてもアートコレクション展、「秘蔵」とあるように、必ずしも有名でなくとも、意外な優品に出会えるのも嬉しいところです。例えば広島晃甫の「玉乗り」です。大正期の東京画壇で活動した画家、サーカスの光景です。青い玉に乗っては豊満な肉体を露にする女性。単純化、あるいは簡略化された身体表現とも言えるのではないでしょうか。赤い輪郭線が際立っています。
石橋光瑤「藤花孔雀之図」 昭和4年 南砺市立福光美術館
石橋光瑤の「藤花孔雀之図」にも驚きました。藤の木にとまる孔雀。目を見張るのが大きな羽です。だらりと垂らしてはこれ見よがしと羽を開いています。本作はかの竹内栖鳳の「蹴合」と同じく、昭和5年にローマで行われた日本美術展に出展されたものだそうです。(なお「蹴合」も出ています。)
下村観山の「嵐山・加茂川」に魅せられました。2幅の小品、右には桜で華やぐ嵐山の光景が描かれ、左には川床でしょうか。加茂川にて宴を楽しむ人々の姿が表されています。霞がかかかっているゆえに桜は朧げです。山桜が断片的に浮かび上がっています。一方で加茂川は夜のシルエットです。川沿いに並ぶ家々などをぼかした墨で描いています。叙情的です。この見事なまでの筆さばき。観山の画力に改めて感じ入るものがあります。
宗達派「扇面流図」 江戸時代 大倉集古館
大作の屏風では宗達派の「扇面流図」や今村紫紅の「護花鈴」、そしてアートコレクションでは比較的見る機会の多い抱一の「四季花鳥図屏風」にも注目が集まるのではないでしょうか。
ラストを飾るのは前田青邨の「唐獅子」でした。金色の空間に三頭の獅子、右隻が二頭、白と緑、たてがみは何とオレンジ色です。さらに左隻には全身を青に染めた獅子が構えています。吠えているのか大きく口を開いていました。まさしく猛々しい。たてがみは緑色でした。この色遣い、青邨は一体何に着想を得たのでしょうか。もはや奇抜とまで言える一枚です。目に焼き付きました。
さて既に各方面でアナウンスがあるように、ホテルオークラ東京の本館は本年8月末をもって一度営業を終了。2019年春の新装オープンに向けて建て替え工事に入ります。
つまり現本館での最後のアートコレクション展というわけです。展示自体は来年以降も場所を移して行われるそうですが、このオークラの空間にはほかに代え難い魅力があるもの。建物からして見納めです。ロビーでは名残惜しそうにカメラを構えては写真を撮る人の姿も目立ちました。
8月20日まで開催されています。
「第21回 秘蔵の名品 アートコレクション展 美の宴 琳派から栖鳳、大観、松園まで」 ホテルオークラ東京
会期:8月3日(月)~8月20日(木)
休館:会期中無休。
時間:9:30~18:30(入場は18時まで)*8/3のみ12時から開催。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
住所:港区虎ノ門2-10-4 ホテルオークラ東京 本館1階平安の間
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅改札口より徒歩5分。東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口より徒歩8分。
「第21回 秘蔵の名品 アートコレクション展 美の宴 琳派から栖鳳、大観、松園まで」
8/3-8/20
ホテルオークラ東京で開催中の「第21回 秘蔵の名品 アートコレクション展 美の宴」を見てきました。
毎年夏恒例、ホテルオークラ東京で行われるチャリティーイベントことアートコレクション展。今年で21回目を数えるに至りました。
テーマは「美の宴」。宴とは人々が集っては「懇親を深める場」(チラシより)です。そのための相応しい場ということでしょうか。今年は会場を別館のアスコットホールから、本館最大スペースを誇る平安の間へと移しました。
上村松園「舞仕度」 大正3年 ウッドワン美術館
冒頭から松園祭りです。というのも全60点中、松園は8点。出展中で最大です。例えば「舞仕度」。モデルは京都の舞妓です。右隻に鼓を持ち、どこか笑みを浮かべては話し合う女性たち。この和やかな雰囲気。控えの舞妓かもしれません。一方、左にはやや緊張した面持ちで立つ舞妓が描かれています。うっすら紫色がかった着物。菊の紋様でしょうか。これから舞うための心構えを内に秘めています。気高さを感じました。
上村松園「男舞之図」 昭和13年頃 名都美術館
「舞仕度」が静であるとすれば、「男舞之図」は動といえるかもしれません。身体をやや反りながら、左手を大きく振り上げて舞う女性の姿。立烏帽子の男装です。粋で格好が良い。ステップは軽快なのでしょう。颯爽たる所作を見せています。顔の表情には余裕が感じられました。もはや舞を薬籠中のものとしているのかもしれません。
上村松園「虫の音」 明治42年 松柏美術館
歌麿に優品がありました。「三美人」です。三味線の稽古をする芸者衆。手を休めていることから稽古の合間なのかもしれません。三者の衣裳の紋様が鮮やかで美しい。一方、松園の「虫の音」はどうでしょうか。三味線を奏でているのは翁です。楽し気な表情をしています。また縁側には仄かに色気を漂わす女性の姿。寄り添っては可憐です。そして両者の群像表現、どこか似た面があるように見えないでしょうか。時代こそ異なりますが、歌麿の美人画が松園に何かしらの影響を与えていたのかもしれません。
宴では欠かせないのは舞に音楽です。小堀鞆音の2点、「蘭陵王」と「萬歳楽」に目がとまりました。まるで舞の動きそのものを丹念に描きとめたかのような作品。画家は大変な観察眼を持っていたことでしょう。関連しての笙や琵琶の実物も目を引きました。
伊東深水の「鏡獅子」も魅惑的です。小獅子を右手でもっては踊る女性。桃色の衣裳、牡丹の花でしょうか。ともかく顔の表情は凛々しい。自信に満ちあふれています。威厳を感じるほどでした。
広島晃甫「玉乗り」 明治45年 東京藝術大学
それにしてもアートコレクション展、「秘蔵」とあるように、必ずしも有名でなくとも、意外な優品に出会えるのも嬉しいところです。例えば広島晃甫の「玉乗り」です。大正期の東京画壇で活動した画家、サーカスの光景です。青い玉に乗っては豊満な肉体を露にする女性。単純化、あるいは簡略化された身体表現とも言えるのではないでしょうか。赤い輪郭線が際立っています。
石橋光瑤「藤花孔雀之図」 昭和4年 南砺市立福光美術館
石橋光瑤の「藤花孔雀之図」にも驚きました。藤の木にとまる孔雀。目を見張るのが大きな羽です。だらりと垂らしてはこれ見よがしと羽を開いています。本作はかの竹内栖鳳の「蹴合」と同じく、昭和5年にローマで行われた日本美術展に出展されたものだそうです。(なお「蹴合」も出ています。)
下村観山の「嵐山・加茂川」に魅せられました。2幅の小品、右には桜で華やぐ嵐山の光景が描かれ、左には川床でしょうか。加茂川にて宴を楽しむ人々の姿が表されています。霞がかかかっているゆえに桜は朧げです。山桜が断片的に浮かび上がっています。一方で加茂川は夜のシルエットです。川沿いに並ぶ家々などをぼかした墨で描いています。叙情的です。この見事なまでの筆さばき。観山の画力に改めて感じ入るものがあります。
宗達派「扇面流図」 江戸時代 大倉集古館
大作の屏風では宗達派の「扇面流図」や今村紫紅の「護花鈴」、そしてアートコレクションでは比較的見る機会の多い抱一の「四季花鳥図屏風」にも注目が集まるのではないでしょうか。
ラストを飾るのは前田青邨の「唐獅子」でした。金色の空間に三頭の獅子、右隻が二頭、白と緑、たてがみは何とオレンジ色です。さらに左隻には全身を青に染めた獅子が構えています。吠えているのか大きく口を開いていました。まさしく猛々しい。たてがみは緑色でした。この色遣い、青邨は一体何に着想を得たのでしょうか。もはや奇抜とまで言える一枚です。目に焼き付きました。
さて既に各方面でアナウンスがあるように、ホテルオークラ東京の本館は本年8月末をもって一度営業を終了。2019年春の新装オープンに向けて建て替え工事に入ります。
つまり現本館での最後のアートコレクション展というわけです。展示自体は来年以降も場所を移して行われるそうですが、このオークラの空間にはほかに代え難い魅力があるもの。建物からして見納めです。ロビーでは名残惜しそうにカメラを構えては写真を撮る人の姿も目立ちました。
8月20日まで開催されています。
「第21回 秘蔵の名品 アートコレクション展 美の宴 琳派から栖鳳、大観、松園まで」 ホテルオークラ東京
会期:8月3日(月)~8月20日(木)
休館:会期中無休。
時間:9:30~18:30(入場は18時まで)*8/3のみ12時から開催。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
住所:港区虎ノ門2-10-4 ホテルオークラ東京 本館1階平安の間
交通:東京メトロ南北線六本木一丁目駅改札口より徒歩5分。東京メトロ日比谷線神谷町駅4b出口より徒歩8分。
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