都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「躍動と回帰ー桃山の美術」 出光美術館
出光美術館
「躍動と回帰ー桃山の美術」
8/8-10/12
出光美術館で開催中の「躍動と回帰ー桃山の美術」を見てきました。
激動の時代、世の変革を反映してか、多くの「革新的」(ちらしより)な美術を生み出した桃山時代。その桃山の美術を再検討する展覧会です。
出品は全て出光美術館のコレクション。いわゆる絵画だけでなく、陶芸などの工芸品も網羅します。全100点のうち絵画は20点です。残りが工芸でした。
さていつもながらに優品揃い、もちろん名品展的な趣きもありますが、それだけでは終わらないのが展示の魅力だと言えるかもしれません。
タイトルの「躍動と回帰」が重要です。単に作品を並べるだけではなく、幾つかのキーワードを参照しながら桃山美術の特質を探る内容となっています。
「躍動」、あるいは変革。その一つにあるのが桃山陶芸における歪みと割れです。南宋の整った青磁に対し、原型こそ残るものの、歪みを伴った伊賀の角花生。異なった美意識を見ることが出来ます。また「黒織部亀甲文茶碗」はどうでしょうか。もはや整わないことを志向したかのような器。滲み出す釉薬も魅力的であります。
長谷川派「柳橋水車図屏風(左隻)」 江戸時代 *展示期間:8/8~9/6
絵画で面白い比較がありました。「宇治橋柴舟図屏風」と「柳橋水車図屏風」です。ともに江戸時代、前者は中央に柳を配し、右に橋を描いています。一方で後者は画面全体を支配するかのごとく橋を表しては、その威容を見せつけています。柳の描写はより屈曲して一種異様、さらにそもそも前者に見られた花や鳥の姿もありません。ともかく橋が力強いまでに横たわります。この豪放さこそ桃山美術の特質ではないでしょうか。
翻って「回帰」はどうでしょうか。興味深いのは、古来の和歌や蒔絵にあった日本の身近な動植物を参照していることです。一例が美濃の「鼠志野草花片輪車文額皿」です。健気な野草の描かれた皿、隣に並ぶのは鎌倉時代の鏡でしたが、そこにも同じような野草が表されています。室町時代などに重宝された牡丹や唐草などの中国趣味ではなく、言わば和様への関心の高まり。それも桃山の特質として挙げられています。
千鳥も同様でした。「織部千鳥形向付」の模様は千鳥。やはり古来より愛されてきたモチーフの一つです。ここに王朝回帰的な志向を読み取り、琳派へと至る系譜を見ることも出来ます。
等伯の「松に鴉・柳に白鷺図屏風」が目を引きました。墨の掠れや滲みを駆使しては描いた屏風絵。霞が漂う様子は幻想的とさえ言えますが、ここで等伯は中国絵画に多い叭々鳥ではなく、日本人にとってより近しい鴉をモチーフに選んでいます。
器における釉薬。ここにも桃山の特質に関する言及がありました。つまり釉薬の流れです。
歪みだけでなく、釉薬の流れ、その自在で偶然なまでの動きに美を見い出すこと。桃山の陶芸は流れの瞬間を止めてはそのまま表現することに価値を与えました。方丈記の引用もあります。「水の移ろいは生命の移ろい」。そこに聖性を見る指摘も興味深いのではないでしょうか。器を象る釉薬の流れ自体に景色を見出しています。
長次郎の黒楽と赤楽が一つずつ展示されていました。黒い艶は内へ内へ向かいながら、どこか瞑想を誘うようでもあります。そして再び織部や信楽が並びます。実は今回、志野や織部、古唐津といった桃山陶芸が約8年ぶりに一堂に公開された展覧会でもあるのです。
桃山陶芸の源流に平安・鎌倉時代から続く六古窯の壺や甕にあるとする件も意味深いものでした。実際にも桃山時代の水指しや茶筒とともに、平安後期や南北朝時代の常滑壺や信楽壺なども参照しています。
最後に一つ、思いがけない桃山の特質がありました。それは過去への視点です。いわゆる「回帰」に近いのかもしれません。例えば長谷川等意の「平家物語 屋島の合戦・大坂夏の陣図屏風」です。正直驚きました。というのも大きく異なった時代の争いの様子を右と左、一つの屏風絵に落とし込んで描いているからです。
右が屋島です。船に乗り込んでは戦う武者たち。左が大坂でした。同じように武士たちが刀を持っては戦っていますが、鉄砲や大砲が炸裂する姿も描かれています。戦いの様相も大きく変化したのでしょう。それにしても約400年離れた二つの合戦、何故に一つに表したのでしょうか。
「伊賀耳付水指」 伊賀窯 桃山時代
とかく革新性を称揚される桃山の美術を平安、鎌倉まで遡っては、その様々な魅力を引き出した「躍動と回帰」展。キャプションも力が入っていて実に読ませます。しばし時間を忘れて見入りました。
9月7日を挟んで一部の絵画に展示替えがあります。ご注意下さい。
10月12日まで開催されています。
「日本の美・発見X 躍動と回帰ー桃山の美術」 出光美術館
会期:8月8日(土)~10月12日(月・祝)
休館:月曜日。但し7月20日は開館。
時間:10:00~17:00
*毎週金曜日は19時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
「躍動と回帰ー桃山の美術」
8/8-10/12
出光美術館で開催中の「躍動と回帰ー桃山の美術」を見てきました。
激動の時代、世の変革を反映してか、多くの「革新的」(ちらしより)な美術を生み出した桃山時代。その桃山の美術を再検討する展覧会です。
出品は全て出光美術館のコレクション。いわゆる絵画だけでなく、陶芸などの工芸品も網羅します。全100点のうち絵画は20点です。残りが工芸でした。
さていつもながらに優品揃い、もちろん名品展的な趣きもありますが、それだけでは終わらないのが展示の魅力だと言えるかもしれません。
タイトルの「躍動と回帰」が重要です。単に作品を並べるだけではなく、幾つかのキーワードを参照しながら桃山美術の特質を探る内容となっています。
「躍動」、あるいは変革。その一つにあるのが桃山陶芸における歪みと割れです。南宋の整った青磁に対し、原型こそ残るものの、歪みを伴った伊賀の角花生。異なった美意識を見ることが出来ます。また「黒織部亀甲文茶碗」はどうでしょうか。もはや整わないことを志向したかのような器。滲み出す釉薬も魅力的であります。
長谷川派「柳橋水車図屏風(左隻)」 江戸時代 *展示期間:8/8~9/6
絵画で面白い比較がありました。「宇治橋柴舟図屏風」と「柳橋水車図屏風」です。ともに江戸時代、前者は中央に柳を配し、右に橋を描いています。一方で後者は画面全体を支配するかのごとく橋を表しては、その威容を見せつけています。柳の描写はより屈曲して一種異様、さらにそもそも前者に見られた花や鳥の姿もありません。ともかく橋が力強いまでに横たわります。この豪放さこそ桃山美術の特質ではないでしょうか。
翻って「回帰」はどうでしょうか。興味深いのは、古来の和歌や蒔絵にあった日本の身近な動植物を参照していることです。一例が美濃の「鼠志野草花片輪車文額皿」です。健気な野草の描かれた皿、隣に並ぶのは鎌倉時代の鏡でしたが、そこにも同じような野草が表されています。室町時代などに重宝された牡丹や唐草などの中国趣味ではなく、言わば和様への関心の高まり。それも桃山の特質として挙げられています。
千鳥も同様でした。「織部千鳥形向付」の模様は千鳥。やはり古来より愛されてきたモチーフの一つです。ここに王朝回帰的な志向を読み取り、琳派へと至る系譜を見ることも出来ます。
等伯の「松に鴉・柳に白鷺図屏風」が目を引きました。墨の掠れや滲みを駆使しては描いた屏風絵。霞が漂う様子は幻想的とさえ言えますが、ここで等伯は中国絵画に多い叭々鳥ではなく、日本人にとってより近しい鴉をモチーフに選んでいます。
器における釉薬。ここにも桃山の特質に関する言及がありました。つまり釉薬の流れです。
歪みだけでなく、釉薬の流れ、その自在で偶然なまでの動きに美を見い出すこと。桃山の陶芸は流れの瞬間を止めてはそのまま表現することに価値を与えました。方丈記の引用もあります。「水の移ろいは生命の移ろい」。そこに聖性を見る指摘も興味深いのではないでしょうか。器を象る釉薬の流れ自体に景色を見出しています。
長次郎の黒楽と赤楽が一つずつ展示されていました。黒い艶は内へ内へ向かいながら、どこか瞑想を誘うようでもあります。そして再び織部や信楽が並びます。実は今回、志野や織部、古唐津といった桃山陶芸が約8年ぶりに一堂に公開された展覧会でもあるのです。
桃山陶芸の源流に平安・鎌倉時代から続く六古窯の壺や甕にあるとする件も意味深いものでした。実際にも桃山時代の水指しや茶筒とともに、平安後期や南北朝時代の常滑壺や信楽壺なども参照しています。
最後に一つ、思いがけない桃山の特質がありました。それは過去への視点です。いわゆる「回帰」に近いのかもしれません。例えば長谷川等意の「平家物語 屋島の合戦・大坂夏の陣図屏風」です。正直驚きました。というのも大きく異なった時代の争いの様子を右と左、一つの屏風絵に落とし込んで描いているからです。
右が屋島です。船に乗り込んでは戦う武者たち。左が大坂でした。同じように武士たちが刀を持っては戦っていますが、鉄砲や大砲が炸裂する姿も描かれています。戦いの様相も大きく変化したのでしょう。それにしても約400年離れた二つの合戦、何故に一つに表したのでしょうか。
「伊賀耳付水指」 伊賀窯 桃山時代
とかく革新性を称揚される桃山の美術を平安、鎌倉まで遡っては、その様々な魅力を引き出した「躍動と回帰」展。キャプションも力が入っていて実に読ませます。しばし時間を忘れて見入りました。
9月7日を挟んで一部の絵画に展示替えがあります。ご注意下さい。
10月12日まで開催されています。
「日本の美・発見X 躍動と回帰ー桃山の美術」 出光美術館
会期:8月8日(土)~10月12日(月・祝)
休館:月曜日。但し7月20日は開館。
時間:10:00~17:00
*毎週金曜日は19時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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