都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「曜変天目茶碗と日本の美」 サントリー美術館
サントリー美術館
「藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美」
8/5-9/27
サントリー美術館で開催中の「藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美」を見てきました。
大阪は都島区、大阪城にもほど近い大川沿いに位置する藤田美術館。明治の政商、藤田傳三郎の蒐集した東洋古美術品を公開。現在では国宝9件、重文52件をはじめとする2111件の品が収められています。
その藤田美術館の所蔵品が箱根を越えてやって来ました。東京では初めてのコレクション展です。出品は約130件。また表題もチラシも曜変天目押しですが、なにも陶芸一辺倒の展示ではありません。仏教美術、絵画、墨跡、工芸などの幅広いジャンルの作品が紹介されています。
冒頭は仏教美術でした。明治初期、いわゆる廃仏毀釈により仏教美術が破壊されていく過程を目にした藤田傳三郎は、これを憂慮しては、阻止していく活動を展開していきます。端的には私財の投入です。当時、海外へ散逸しつつあった仏教美術品を積極的に購入しました。
国宝「両部大経感得図」 藤原宗弘筆 左幅 保延2年(1136) 藤田美術館
一例が「両部大経感得図」です。伝来は天理の内山永久寺。件の廃仏毀釈で廃寺となっていました。主題は大日経と金剛頂経の由来です。二幅の大作、これが実に立派で素晴らしい。特に左幅に注目です。大きな塔がほぼ中央にそびえ立ちます。扉が開いていました。中にひしめき合うのは経典の守護神です。入口にいる僧と押し問答をしているように見えます。
僧の名は龍猛です。金剛頂経を求めてやって来ました。結果的に彼は中に入り、経典を暗記。そして世に伝えたそうです。
国宝「玄奘三蔵絵」 部分 鎌倉時代(14世紀) 藤田美術館
「玄奘三蔵絵」も興味深いのではないでしょうか。主役は三蔵法師です。若くしてインドに渡ろうとした法師は須弥山に登る夢を見ます。大海原の中の須弥山。荒れ狂う波の合間には魔物のような動物もいます。とても辿り着けそうもありません。すると法師の前に蓮の花が現れました。それに乗っては山へと進み行きます。奇蹟ということかもしれません。波の描線からして繊細です。臨場感がありました。
重要文化財「地蔵菩薩立像」 快慶作 鎌倉時代(13世紀) 藤田美術館
仏像では「地蔵菩薩立像」に惹かれました。作は快慶です。一目で見て分かるのは保存状態が良いこと。着衣の色彩は鮮やかで、光背などの細かな透かし彫りにも欠落がありません。
書に驚くほど魅惑的な作品がありました。「深窓秘抄」です。勅撰和歌集から百一首の和歌を写したもの。やや丸みを帯びた仮名の姿に見惚れてしまいますが、料紙も負けてはいません。飛雲です。藍や紫の繊維を漉き込んでいます。これが実に効果的です。仮名と料紙が織りなす美の世界。まさしく和様の書の傑作としても良いかもしれません。
実業家として政財界の人物にも幅広く交流していた藤田傳三郎。社交場として茶会にも頻繁に参加していたそうです。ゆえに藤田コレクションの中核をなすのが茶道具。本展でも一つのハイライトと言えるのではないでしょうか。
世界で4例しか現存していない曜変天目のうちの一つです。水戸の徳川家から伝わったという茶碗。実のところ藤田美術館の曜変天目は私も初めて見ました。
国宝「曜変天目茶碗」 中国・南宋時代(12~13世紀) 藤田美術館
まさに器の中に宇宙が見えるとまで称される天目。ライティングの妙味もあるのでしょう。内の煌めきは思いの外に鮮やかでした。瑠璃色に散る斑紋はまるで銀河。また外側も曜変しています。微かに瞬くの星空と言っても良いかもしれません。内に比べてか弱い光。角度を変えれば違った表情を見せてきます。小さな器の中に広がる深淵な世界。中央の底部はブラックホールとしたら言い過ぎかもしれません。ただそれでも覗き込んでいると引込まれそうになります。
ほかにも「菊花天目茶碗」に「古井戸茶碗 銘 面影」、そしてノンコウこと道入作の「赤楽茶碗 銘 小町」などの優品もずらり。また本阿弥光甫の「空中信楽釣花入」も趣き深いのではないでしょうか。ゴツゴツとした独特の質感に歪み。表情は意外と豊かでした。
「大獅子図」 竹内栖鳳筆 明治35年(1902)頃 藤田美術館
竹内栖鳳の名高い「大獅子図」も藤田コレクションです。渡欧した際、当時の日本にはいなかったライオンを写生しては描いたという大作。上睨みで口を開いたライオンの迫力と言えば並大抵ではありません。またライオンの毛の感触を描き分けている点も巧みです。硬軟織り交ぜての筆さばき。これぞ技の栖鳳と言うべき一枚でした。
展示替えの情報です。全130点のうち、会期中に一度、約45点ほどの作品が入れ替わります。
「国宝曜変天目茶碗と日本の美」出品リスト(PDF)
展示替えは8月末です。よって前後期にそれぞれ各一回ずつ観覧すると、おおむね全ての作品を見ることが出来ます。
前期:8月5日(水)~8月31日(月)
後期:9月2日(水)~9月27日(日)
まさに眼福の古美術コレクション展です。館内はなかなかの盛況でした。ひょっとすると後半にかけて混雑してくるかもしれません。
[藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美 巡回予定]
福岡市美術館:2015年10月6日(火)~11月23日(月・祝)
9月27日まで開催されています。おすすめします。
「藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:8月5日(水)~9月27日(日)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
*金・土・および9月20日(日)、21日(月・祝)、22日(火・休)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
*アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
「藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美」
8/5-9/27
サントリー美術館で開催中の「藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美」を見てきました。
大阪は都島区、大阪城にもほど近い大川沿いに位置する藤田美術館。明治の政商、藤田傳三郎の蒐集した東洋古美術品を公開。現在では国宝9件、重文52件をはじめとする2111件の品が収められています。
その藤田美術館の所蔵品が箱根を越えてやって来ました。東京では初めてのコレクション展です。出品は約130件。また表題もチラシも曜変天目押しですが、なにも陶芸一辺倒の展示ではありません。仏教美術、絵画、墨跡、工芸などの幅広いジャンルの作品が紹介されています。
冒頭は仏教美術でした。明治初期、いわゆる廃仏毀釈により仏教美術が破壊されていく過程を目にした藤田傳三郎は、これを憂慮しては、阻止していく活動を展開していきます。端的には私財の投入です。当時、海外へ散逸しつつあった仏教美術品を積極的に購入しました。
国宝「両部大経感得図」 藤原宗弘筆 左幅 保延2年(1136) 藤田美術館
一例が「両部大経感得図」です。伝来は天理の内山永久寺。件の廃仏毀釈で廃寺となっていました。主題は大日経と金剛頂経の由来です。二幅の大作、これが実に立派で素晴らしい。特に左幅に注目です。大きな塔がほぼ中央にそびえ立ちます。扉が開いていました。中にひしめき合うのは経典の守護神です。入口にいる僧と押し問答をしているように見えます。
僧の名は龍猛です。金剛頂経を求めてやって来ました。結果的に彼は中に入り、経典を暗記。そして世に伝えたそうです。
国宝「玄奘三蔵絵」 部分 鎌倉時代(14世紀) 藤田美術館
「玄奘三蔵絵」も興味深いのではないでしょうか。主役は三蔵法師です。若くしてインドに渡ろうとした法師は須弥山に登る夢を見ます。大海原の中の須弥山。荒れ狂う波の合間には魔物のような動物もいます。とても辿り着けそうもありません。すると法師の前に蓮の花が現れました。それに乗っては山へと進み行きます。奇蹟ということかもしれません。波の描線からして繊細です。臨場感がありました。
重要文化財「地蔵菩薩立像」 快慶作 鎌倉時代(13世紀) 藤田美術館
仏像では「地蔵菩薩立像」に惹かれました。作は快慶です。一目で見て分かるのは保存状態が良いこと。着衣の色彩は鮮やかで、光背などの細かな透かし彫りにも欠落がありません。
書に驚くほど魅惑的な作品がありました。「深窓秘抄」です。勅撰和歌集から百一首の和歌を写したもの。やや丸みを帯びた仮名の姿に見惚れてしまいますが、料紙も負けてはいません。飛雲です。藍や紫の繊維を漉き込んでいます。これが実に効果的です。仮名と料紙が織りなす美の世界。まさしく和様の書の傑作としても良いかもしれません。
実業家として政財界の人物にも幅広く交流していた藤田傳三郎。社交場として茶会にも頻繁に参加していたそうです。ゆえに藤田コレクションの中核をなすのが茶道具。本展でも一つのハイライトと言えるのではないでしょうか。
世界で4例しか現存していない曜変天目のうちの一つです。水戸の徳川家から伝わったという茶碗。実のところ藤田美術館の曜変天目は私も初めて見ました。
国宝「曜変天目茶碗」 中国・南宋時代(12~13世紀) 藤田美術館
まさに器の中に宇宙が見えるとまで称される天目。ライティングの妙味もあるのでしょう。内の煌めきは思いの外に鮮やかでした。瑠璃色に散る斑紋はまるで銀河。また外側も曜変しています。微かに瞬くの星空と言っても良いかもしれません。内に比べてか弱い光。角度を変えれば違った表情を見せてきます。小さな器の中に広がる深淵な世界。中央の底部はブラックホールとしたら言い過ぎかもしれません。ただそれでも覗き込んでいると引込まれそうになります。
ほかにも「菊花天目茶碗」に「古井戸茶碗 銘 面影」、そしてノンコウこと道入作の「赤楽茶碗 銘 小町」などの優品もずらり。また本阿弥光甫の「空中信楽釣花入」も趣き深いのではないでしょうか。ゴツゴツとした独特の質感に歪み。表情は意外と豊かでした。
「大獅子図」 竹内栖鳳筆 明治35年(1902)頃 藤田美術館
竹内栖鳳の名高い「大獅子図」も藤田コレクションです。渡欧した際、当時の日本にはいなかったライオンを写生しては描いたという大作。上睨みで口を開いたライオンの迫力と言えば並大抵ではありません。またライオンの毛の感触を描き分けている点も巧みです。硬軟織り交ぜての筆さばき。これぞ技の栖鳳と言うべき一枚でした。
展示替えの情報です。全130点のうち、会期中に一度、約45点ほどの作品が入れ替わります。
「国宝曜変天目茶碗と日本の美」出品リスト(PDF)
展示替えは8月末です。よって前後期にそれぞれ各一回ずつ観覧すると、おおむね全ての作品を見ることが出来ます。
前期:8月5日(水)~8月31日(月)
後期:9月2日(水)~9月27日(日)
まさに眼福の古美術コレクション展です。館内はなかなかの盛況でした。ひょっとすると後半にかけて混雑してくるかもしれません。
[藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美 巡回予定]
福岡市美術館:2015年10月6日(火)~11月23日(月・祝)
9月27日まで開催されています。おすすめします。
「藤田美術館の至宝 国宝曜変天目茶碗と日本の美」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:8月5日(水)~9月27日(日)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
*金・土・および9月20日(日)、21日(月・祝)、22日(火・休)は20時まで開館。
*入館は閉館の30分前まで
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
*アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )