「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」 国立新美術館

国立新美術館
「アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」
7/13~10/10 



国立新美術館で開催中の「アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」 を見てきました。

1817年、イタリアのヴェネツィアに設立されたアカデミア美術館。元は同地のアカデミーが管理していたヴェネツィア派の絵画コレクションに由来します。またナポレオンの占領時代には、市内で取り外された祭壇画を収集していたそうです。

現在の所蔵作品は約2000点です。うち中核となる14世紀から17世紀のヴェネツィア・ルネサンス絵画、約60点がやって来ました。


ジョヴァンニ・ベッリーニ「聖母子(赤い智天使の聖母)」 1485-90年 

冒頭はルネサンスの夜明け。ヴェネツィアでのルネサンス美術はフィレンツェにやや遅れること1440年頃に始まりました。ベッリーニの「聖母子」が見事です。しっかり目を見つめあって寄り添う聖母子の姿。あどけないイエスはマリアの膝の上に座っています。マリアの手はかなり大きい。ちょうどイエスの身体を挟み込むように支えています。目立つのは上空の天使です。通称「赤い智天使」の名が示すように、姿形が全て赤く染まっています。後景の描写が緻密でした。山が連なり、川が流れ、家々の並ぶ様子が細かに描かれています。

クリヴェッリは対で2点です。「聖セヴァスティアヌス」に惹かれました。多くの矢で射抜かれたセヴァスティアヌス。目は虚ろで、口は半開き。もはや生気はありません。一部の矢は身体を突き抜けていました。如何にも痛々しい。背後のタペストリーらしき草花の模様が魅惑的です。まるでモリスの描くデザインのようでした。

お告げを聞くマリアを正面から捉えています。アントネッロ・デ・サリバの「受胎告知の聖母」です。書物を前に、やや右手を上げては、静かに佇むマリア。青いヴェールをまとっています。手前からかなり強い光が当たっているのでしょうか。陰影はドラマティックなまでに強い。口をややすぼめては横を見やる表情にはどこか余裕が感じられます。


ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「聖母子(アルベルティーニの聖母)」 1560年頃

ティツィアーノの「聖母子」も慈愛に満ちていました。右手で裸のイエスを支えるのがマリアです。表情にやや硬さがあるものの、左手をイエスに差し出しては心を通わせています。筆致はやや粗く、ぼんやりとした光が全てを包み込みます。やや小ぶりの作品です。おそらくは個人の注文によって制作されたと考えられているそうです。


ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「受胎告知」 1563-65年頃 サン・サルヴァドール聖堂

チラシ表紙を飾るのもティツィアーノです。名は「受胎告知」。高さ4メートル超にも及ぶ祭壇画です。サン・サルヴァドール聖堂を飾っていました。予想以上に大きい。迫力があります。天井高のある新美術館だからこそ実現した展示と言えるかもしれません。

構図からして劇的です。舞台上、左からやってきたのが大天使です。マリアは驚いたのか身を屈めています。手前のガラスの花瓶には百合が活けられていました。天は裂け、聖霊の白い鳩が降りています。周囲の天使のポーズも時にアクロバティックで動きがありました。全体を覆う金褐色の色彩も美しい。作品から数メートル離れて見ると一際輝いて見えました。受胎告知の瞬間そのものを見事に捉えています。

さてティツィアーノに次ぐのがティントレット、そしてヴェロネーゼでした。


ヤコポ・ティントレット(本名ヤコポ・ロブスティ)「聖母被昇天」 1550年頃

ティントレットの「聖母被昇天」も充実しています。かつてヴェネツィアにあったサン・スティン聖堂を飾った祭壇画です。使徒たちの囲む中、石棺から聖母が手を広げては天へ昇る様子を描いています。使徒たちは皆、驚き、慄いては、聖母を仰ぎ見ていました。色彩は全般的に明るい。特に着衣の赤が目に付きます。強い光を示しているのでしょうか。白いハイライトも効果的でした。

パオロ・ヴェロネーゼも優品揃いです。作品は工房作を含めて全部で5点。工房作の「羊飼いの礼拝」も華麗で美しい。天は透き通るように青く、聖家族を囲む羊飼いたちも優美です。造形や色彩の感覚がかのラファエロに由来するというのにも頷けます。


パオロ・ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ)「レパントの海戦の寓意」 1572-73年頃

同じくヴェロネーゼの「レパントの海戦の寓意」はどうでしょうか。1571年、時の神聖同盟軍がオスマン帝国に勝利した戦い記念して描かれた一枚、当初はより大きな作品だったと言われています。

ともかく目を引くのは無数の船団です。両軍入り混じってのまさに総力戦。たくさんの兵士が乗っています。よく見ると矢を放っています。一部では火の手もあがっていました。空は白い雲と黒い雲に分かれています。右の雲の下がオスマン帝国軍です。行く末を暗示しているのでしょう。一方の同盟軍には白い光が差し込んでいます。

上空にいるのは聖母やヴェネツィアの守護聖人たちです。さらにスペインやローマの聖人らもいます。その固い結束を表しているようです。


ヤコポ・バッサーノ(本名ヤコポ・ダル・ポンテ)「悔悛する聖ヒエロニムスと天上に顕れる聖母子」 1569年

バッサーノにも見入る作品がありました。「悔悛する聖ヒエロニムスと天上に顕れる聖母子」です。暗がりの荒野の中、ヒエロニムスが瞑想する様子を描いています。前には十字架のイエス、空には聖母子が浮かんでいました。野山しかり、自然の表現に臨場感があるのが目を引きます。バッサーノは一時、ヴェネツィアで過ごしたものの、生涯の大半をその北西の小都市で活動しました。彼が見ていた田舎の景色そのものもモチーフとして取り込まれていたのかもしれません。

ティントレット、ヴェロネーゼ、バッサーノは1580年代の終わりから90年代にかけて他界します。その後のヴェネツィア絵画は3名のスタイルを受け継ぐ後継者の時代に入りました。さらに世代を降って活動したのが、ティツィアーノの作品に学んだパドヴァニーノです。

「オルフェウスとエウリュディケ」も力作ではないでしょうか。ギリシャ神話の1シーン、ちょうどオルフェウスがエウリュディケを地上に連れ戻そうとする様子を描いています。背景は暗く、どこかバロック絵画を思わせます。とは言え、衣服の色彩感にはヴェネツィア派の影響を見ることも出来なくはありません。エウリュディケはやや顔を赤らめてもいます。幾分と官能的でした。


ベルナルディーノ・リチーニオ「バルツォ帽をかぶった女性の肖像」 1530-40年頃

展示は基本的にヴェネツィア派を時代に沿って追っていますが、彼らの得意とした肖像画をまとめて見るセクションもありました。また意外なことにアカデミア美術館のコレクションがまとめて来日したのは初めてのことだそうです。

現在、国立新美術館では1階でルノワール展、2階でヴェネツィア展が行われています。ルノワールの方はかなり賑わっているようですが、ヴェネツィア展は今のところ混雑とは無縁です。空いている環境でじっくりと楽しむことが出来ました。

10月10日まで開催されています。

「日伊国交樹立150周年特別展 アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」@accademia2016) 国立新美術館@NACT_PR
会期:7月13日(水)~10月10日(月・祝)
休館:火曜日。但し8月16日(火)は開館
時間:10:00~18:00
 *毎週金曜日は夜20時まで開館。
 *8月6日(土)、13日(土)、20日(土)は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料
 * ( )内は20名以上の団体料金。
 *9月17日(土)~19日(月・祝)は高校生無料観覧日。(要学生証)
住所:港区六本木7-22-2
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