「メアリー・カサット展」 横浜美術館

横浜美術館
「メアリー・カサット展」 
6/25~9/11



横浜美術館で開催中の「メアリー・カサット展」を見てきました。

アメリカのピッツバーグ郊外に生まれ、パリで活動した印象派画家、メアリー・カサット(1844〜1926)。日本国内では約35年ぶりの回顧展だそうです。

カサットは若くして画家を志します。21歳でパリへと渡りました。しかし当時の女性は国立高等美術学校へ入学することが出来ません。よって画家の私塾に入門。ジャン=レオン・ジェロームらの指導を受けます。ほかルーヴルでも巨匠たちの作品を積極的に模写します。結果的に24歳の時、サロンへの初入選を果たしました。


メアリー・カサット「バルコニーにて」 1873年 フィラデルフィア美術館

普仏戦争によってフランスを離れますが、翌年に再渡欧。イタリアやスペインを巡っては絵画の研鑽を積みます。この頃に描かれたのが「バルコニーにて」です。なにやら陽気な様で談笑する3名の人物。前の2人の女性が主役です。光が強く当たっています。特に白いドレスが際立っていました。イタリアの古典的な絵画を反映したのでしょうか。後のカサットの作品の趣きとはやや異なってもいます。

とはいえ、かなり早い段階でカサットは印象派の画風を確立しました。きっかけはドガとの出会いです。ドガの勧めにより印象派展に出品。第4回展以降、第7回を除き、毎回の印象派展に参加します。


メアリー・カサット「桟敷席にて」 1878年 ボストン美術館

「桟敷席にて」はどうでしょうか。オペラグラスで舞台を見やる女性。深い黒のドレスを着ています。まるでマネの描く黒のようです。桟敷席には多くの人がいますが、形態は必ずしも明らかではありません。筆触は激しく、殴り書きのような部分もあります。女性の横顔はどこか得意げです。好奇心に溢れているようにも見えます。面白いのは奥の男でした。身を乗り出してはオペラグラスでこちらを見やっています。彼女は見て、また見られているわけです。視線が空間を作っています。

母子を描いた作品が目立っていました。例えばチラシ表紙を飾る「眠たい子どもを沐浴させる母親」です。第5回印象派展への出品作。母が子を膝の上に抱いています。子はむずかっているのかもしれません。やや口を尖らしています。母の右手の先にあるにはタライです。スポンジを絞っています。筆は大胆。特に白に青を混ぜた色味が個性的です。独特の透明感があります。


メアリー・カサット「果実をとろうとする子ども」 1893年 ヴァージニア美術館

「果実をとろうとする子ども」も母子がモチーフです。リンゴかもしれません。実をつけた木の下で母が裸の赤ん坊を抱いています。ちょうど枝に手を伸ばしてはもぎ取ろうとしています。背景の緑は深い。相当に色を重ねています。母の衣服も同様です。何より興味深いのは赤ん坊の身体、ないし肌の感触でした。やや赤の強い肌色です。肉感的とも言えるのではないでしょうか。

さて印象派画家の展覧会です。てっきり油彩画ばかりと思いきや、意外と版画が多く出ていました。と言うのもドガやピサロらとともに銅版画にチャレンジ。時に実験的な技法を用いた版画を残しているのです。


メアリー・カサット「沐浴する女性」 1890-91年  ブリンマー・カレッジ

中でも魅惑的なのが多色刷り銅版画の連作でした。全10点組です。「手紙」や「仮縫い」、そして「沐浴する女性」など、いずれも女性の日常を描いています。細い線描や平面的な構成が特徴的です。どこか近代日本画を連想させます。実際にカサットは日本の浮世絵に影響を受けていました。

カサットはほかの印象派画家と同様、浮世絵展で感銘を受けたり、日本の美術品をコレクションしたこともあったそうです。うち一枚が喜多川相悦の「秋草花図屏風」でした。カサット家の旧蔵。可憐な草花が画面を支配します。自宅に飾っていたのかもしれません。

全てカサットの作品ばかりではないのもポイントです。カサットが強いシンパシーを感じていたドガをはじめ、ピサロ、さらにはモリゾやエリザベス・ジェーン・ガードナーブクロー、メアリー・フェアチャイルド・マクモニーズらといった、同時代の女性の画家の作品も展示されています。


メアリー・カサット「夏の日」 1894年 テラ・アメリカ美術基金

アメリカからパリへ渡り、画家としての人生を切り開いたメアリー・カサット。表現は特に油彩画において力強い。熱を帯びています。参照されたドガやピサロの方がよほどに繊細に思えるほどでした。



続く常設展も女性に着目した展示でした。近現代、ないし日本画を問わず、女性の作家の作品がずらりと並んでいます。田中敦子、福田美蘭、辰野登恵子、松井冬子、小西真奈、また上村松園や小倉遊亀と続きます。見応えは十分でした。



9月11日まで開催されています。なお横浜展終了後は、京都国立近代美術館(9/27~12/4)へと巡回します。

「メアリー・カサット展」 横浜美術館@yokobi_tweet
会期:6月25日(土)~9月11日(日)
休館:木曜日。但し8月11日(木・祝)は開館。
時間:10:00~18:00
 *9月2日(金)は20:30まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1600(1400)円、大学・高校生1100(900)円、中学生600(400)円。小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体。要事前予約。
 *毎週土曜日は高校生以下無料。
 *当日に限り、横浜美術館コレクション展も観覧可。
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
交通:みなとみらい線みなとみらい駅5番出口から徒歩5分。JR線、横浜市営地下鉄線桜木町駅より徒歩約10分。
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