都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「木々との対話」 東京都美術館
東京都美術館
「木々との対話ー再生をめぐる5つの風景」
7/26~10/2

東京都美術館で開催中の「木々との対話ー再生をめぐる5つの風景」を見てきました。
主に木彫の分野で活動する5名の現代美術家。各々の表現を1つの風景に見立て、美術館の内外へと至るインスタレーションを展開しています。
出品の作家は以下の通りです。
國安孝昌、須田悦弘、田窪恭治、土屋仁応、舟越桂
舟越の展示室以外は全て撮影が出来ました。

土屋仁応「竜」 2015年 個人蔵
まずは土屋仁応です。作品は13点。モチーフは小動物、ないし神話上の生き物です。いずれも愛おしくまた美しい。中でも魅惑的なのは表面の質感です。触ることはもちろん叶いませんが、ともかく生々しく、それでいて滑らかでもあります。またどことない気位を感じるのは私だけでしょうか。生き物らは皆、慎ましいまでのオーラに包まれているようにさえ見えます。

土屋仁応「森」 2012年 個人蔵
とりわけ「森」に魅せられました。モチーフは鹿でしょうか。大きな角を生やしています。首はややうつむき加減です。細い目からは僅かな光が放たれています。瞳は水晶でした。細い脚はやはり滑らかで、艶やかさえ感じさせます。仏教彫刻の技法を用いているそうです。身体の部分の装飾も繊細でした。

土屋仁応「麒麟」 2016年 作家蔵
「麒麟」もとかく美しい。写真では彩色がないようにも見えるかもしれませんが、実際には僅かに色が付いています。いずれもまだ若々しく見えるのも興味深いところです。無垢なまでの命、あるいは魂の表れを示しているのかもしれません。
続くのは田窪恭治です。まるで祭壇のような彫刻が並んでいます。制作は1980年代。かつて精力的に制作したというアッサンブラージュによる連作でした。

田窪恭治 展示風景
寄せ集め、ないし結び付けるを意味するアッサンブラージュ。元になる素材は木、しかも廃材です。それを収集してはオブジェへと転化させています。全て金箔が貼られていました。輝きは眩い。光は空間を厳かに照らしています。

田窪恭治「イノコズチ」 1985年 宇都宮美術館
3点の彫刻が互いに向き合う「イノコズチ」に目が留まりました。下に敷かれたのは鉄板。それぞれの彫刻はワイヤーで結ばれています。さも祈りを伴うような儀礼の場をイメージさせはしないでしょうか。
國安孝昌は1点、新作の「静かに行く人は、遠くへ行く。」のみ。しかしながら吹き抜けのスペースを利用した圧巻のインスタレーションを見せています。

國安孝昌「静かに行く人は、遠くへ行く。」 2016年
ともかくうず高く組み合わされたのは無数の丸太です。一体、何本あるのでしょうか。大蛇の如くとぐろを巻き、一部は天井にまで達しています。もはや建築と呼んでも良いかもしれません。

國安孝昌「静かに行く人は、遠くへ行く。」 2016年
素材は丸太だけではなく、陶ブロックも用いられています。それゆえか彫刻としての強度も伴っていました。國安の作品といえば2013年、国立新美術館のアーティストファイルでも同様の大作を見たことがありますが、それを超えるスケールではないでしょうか。あっけにとられながら、ただただ見上げるほかありませんでした。
舟越桂は彫刻、ドローイングを合わせて15点ほど。いずれも2000年以降の作品です。女性をモチーフとしながらも、時に異形と称される独特な人物の彫像を展示しています。
とりわけ印象深いのは2000年代はじめと本年、つまり最新作における表現の違いでした。というのも旧作はそれこそ異形の要素が強く、シュールとも受け取れる表現が目立つものの、それが新作では幾分影を潜めています。表情も穏やかで強い母性を感じさせました。あくまでも生身の人間、トルソーを捉えたようでもあります。

須田悦弘「バラ」 2016年
須田悦弘の彫刻を全て見つけるには多少の労力が必要かもしれません。最も目立つのは「バラ」です。白く長い回廊の先に一輪、花びらを散らした赤いバラが逆さになってぶら下がっています。さらに「ユリ」も美しい。美術館の壁面、その隙間からさも本当に生えているように置いています。

須田悦弘「ユリ」 2016年
一方で「雑草」はどうでしょうか。まさに道端に生え、誰もが気に留めないような雑草。それを須田はやはり通常は見逃してしまうような場所に展示しているのです。

須田悦弘「朝顔」 2016年
さらに須田の作品は展示室の外へ拡張しています。「朝顔」と「露草」です。出品リストに設置場所の記載があるため、探して歩く必要はないかもしれませんが、特に「露草」の演出が心憎い。思わず見つけた時に息をのんでしまいました。
拡張といえば田窪の「感覚細胞ー2016年・イチョウ」も同様です。場所は展示室の外はおろか、美術館の外、つまり屋外でした。

田窪恭治「感覚細胞ー2016年・イチョウ」 2016年
舞台は文字通りイチョウです。ちょうど美術館の北側、敷地内にそびえ立つ大イチョウ。ともすると上野公園内でさほど目立つ樹木ではないかもしれませんが、田窪はそこへあえて光を当てました。
樹木の周辺に注目です。オレンジ色のブロックが敷かれていることがわかります。これこそが田窪が近年、自らの仕事とする風景芸術です。大イチョウはかつての戦争の爆撃を受け、被災。しかしながら今もたくさんの緑をつけています。その生命を祝福するかのようにブロックで彩っているわけです。
展覧会タイトルにある木々、そして再生へ特に寄り添ったインスタレーションと言えるのではないでしょうか。眩しい太陽の光のもと、深い緑とオレンジが美しいコントラストをなしていました。

土屋仁応「子鹿」 2010年 I氏コレクション(富岡市立美術博物館寄託)
いずれの作家も力作揃いです。期待以上に楽しめました。
ポンピドゥー展の半券を提示すると一般当日の入館料が300円引きになりました。大人もワンコインの500円で観覧出来ます。
10月2日まで開催されています。おすすめします。
「木々との対話ー再生をめぐる5つの風景」 東京都美術館(@tobikan_jp)
会期:7月26日(火)~10月2日(日)
時間:9:30~17:30
*入館は閉館の30分前まで。
*毎週金曜日は20時まで開館。但し9月23日(金)、9月30日(金)を除く。
*8月5日(金)、6日(土)、12日(金)、13日(土)、9月9日(金)、10日(土)は21時まで開館。
休館:月曜日。但し9月19日(月・祝)は開館。
料金:一般800(600)円、大学生・高校生400円、65歳以上500円。高校生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
*「ポンピドゥー・センター傑作展」のチケット(半券可)提示にて一般当日料金から300円引。
*毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
*10月1日(土)は「都民の日」により無料。
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
「木々との対話ー再生をめぐる5つの風景」
7/26~10/2

東京都美術館で開催中の「木々との対話ー再生をめぐる5つの風景」を見てきました。
主に木彫の分野で活動する5名の現代美術家。各々の表現を1つの風景に見立て、美術館の内外へと至るインスタレーションを展開しています。
出品の作家は以下の通りです。
國安孝昌、須田悦弘、田窪恭治、土屋仁応、舟越桂
舟越の展示室以外は全て撮影が出来ました。

土屋仁応「竜」 2015年 個人蔵
まずは土屋仁応です。作品は13点。モチーフは小動物、ないし神話上の生き物です。いずれも愛おしくまた美しい。中でも魅惑的なのは表面の質感です。触ることはもちろん叶いませんが、ともかく生々しく、それでいて滑らかでもあります。またどことない気位を感じるのは私だけでしょうか。生き物らは皆、慎ましいまでのオーラに包まれているようにさえ見えます。

土屋仁応「森」 2012年 個人蔵
とりわけ「森」に魅せられました。モチーフは鹿でしょうか。大きな角を生やしています。首はややうつむき加減です。細い目からは僅かな光が放たれています。瞳は水晶でした。細い脚はやはり滑らかで、艶やかさえ感じさせます。仏教彫刻の技法を用いているそうです。身体の部分の装飾も繊細でした。

土屋仁応「麒麟」 2016年 作家蔵
「麒麟」もとかく美しい。写真では彩色がないようにも見えるかもしれませんが、実際には僅かに色が付いています。いずれもまだ若々しく見えるのも興味深いところです。無垢なまでの命、あるいは魂の表れを示しているのかもしれません。
続くのは田窪恭治です。まるで祭壇のような彫刻が並んでいます。制作は1980年代。かつて精力的に制作したというアッサンブラージュによる連作でした。

田窪恭治 展示風景
寄せ集め、ないし結び付けるを意味するアッサンブラージュ。元になる素材は木、しかも廃材です。それを収集してはオブジェへと転化させています。全て金箔が貼られていました。輝きは眩い。光は空間を厳かに照らしています。

田窪恭治「イノコズチ」 1985年 宇都宮美術館
3点の彫刻が互いに向き合う「イノコズチ」に目が留まりました。下に敷かれたのは鉄板。それぞれの彫刻はワイヤーで結ばれています。さも祈りを伴うような儀礼の場をイメージさせはしないでしょうか。
國安孝昌は1点、新作の「静かに行く人は、遠くへ行く。」のみ。しかしながら吹き抜けのスペースを利用した圧巻のインスタレーションを見せています。

國安孝昌「静かに行く人は、遠くへ行く。」 2016年
ともかくうず高く組み合わされたのは無数の丸太です。一体、何本あるのでしょうか。大蛇の如くとぐろを巻き、一部は天井にまで達しています。もはや建築と呼んでも良いかもしれません。

國安孝昌「静かに行く人は、遠くへ行く。」 2016年
素材は丸太だけではなく、陶ブロックも用いられています。それゆえか彫刻としての強度も伴っていました。國安の作品といえば2013年、国立新美術館のアーティストファイルでも同様の大作を見たことがありますが、それを超えるスケールではないでしょうか。あっけにとられながら、ただただ見上げるほかありませんでした。
舟越桂は彫刻、ドローイングを合わせて15点ほど。いずれも2000年以降の作品です。女性をモチーフとしながらも、時に異形と称される独特な人物の彫像を展示しています。
とりわけ印象深いのは2000年代はじめと本年、つまり最新作における表現の違いでした。というのも旧作はそれこそ異形の要素が強く、シュールとも受け取れる表現が目立つものの、それが新作では幾分影を潜めています。表情も穏やかで強い母性を感じさせました。あくまでも生身の人間、トルソーを捉えたようでもあります。

須田悦弘「バラ」 2016年
須田悦弘の彫刻を全て見つけるには多少の労力が必要かもしれません。最も目立つのは「バラ」です。白く長い回廊の先に一輪、花びらを散らした赤いバラが逆さになってぶら下がっています。さらに「ユリ」も美しい。美術館の壁面、その隙間からさも本当に生えているように置いています。

須田悦弘「ユリ」 2016年
一方で「雑草」はどうでしょうか。まさに道端に生え、誰もが気に留めないような雑草。それを須田はやはり通常は見逃してしまうような場所に展示しているのです。

須田悦弘「朝顔」 2016年
さらに須田の作品は展示室の外へ拡張しています。「朝顔」と「露草」です。出品リストに設置場所の記載があるため、探して歩く必要はないかもしれませんが、特に「露草」の演出が心憎い。思わず見つけた時に息をのんでしまいました。
拡張といえば田窪の「感覚細胞ー2016年・イチョウ」も同様です。場所は展示室の外はおろか、美術館の外、つまり屋外でした。

田窪恭治「感覚細胞ー2016年・イチョウ」 2016年
舞台は文字通りイチョウです。ちょうど美術館の北側、敷地内にそびえ立つ大イチョウ。ともすると上野公園内でさほど目立つ樹木ではないかもしれませんが、田窪はそこへあえて光を当てました。
樹木の周辺に注目です。オレンジ色のブロックが敷かれていることがわかります。これこそが田窪が近年、自らの仕事とする風景芸術です。大イチョウはかつての戦争の爆撃を受け、被災。しかしながら今もたくさんの緑をつけています。その生命を祝福するかのようにブロックで彩っているわけです。
展覧会タイトルにある木々、そして再生へ特に寄り添ったインスタレーションと言えるのではないでしょうか。眩しい太陽の光のもと、深い緑とオレンジが美しいコントラストをなしていました。

土屋仁応「子鹿」 2010年 I氏コレクション(富岡市立美術博物館寄託)
いずれの作家も力作揃いです。期待以上に楽しめました。
ポンピドゥー展の半券を提示すると一般当日の入館料が300円引きになりました。大人もワンコインの500円で観覧出来ます。
10月2日まで開催されています。おすすめします。
「木々との対話ー再生をめぐる5つの風景」 東京都美術館(@tobikan_jp)
会期:7月26日(火)~10月2日(日)
時間:9:30~17:30
*入館は閉館の30分前まで。
*毎週金曜日は20時まで開館。但し9月23日(金)、9月30日(金)を除く。
*8月5日(金)、6日(土)、12日(金)、13日(土)、9月9日(金)、10日(土)は21時まで開館。
休館:月曜日。但し9月19日(月・祝)は開館。
料金:一般800(600)円、大学生・高校生400円、65歳以上500円。高校生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
*「ポンピドゥー・センター傑作展」のチケット(半券可)提示にて一般当日料金から300円引。
*毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
*10月1日(土)は「都民の日」により無料。
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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