都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「伊庭靖子展 まなざしのあわい」 東京都美術館
東京都美術館
「伊庭靖子展 まなざしのあわい」
2019/7/20~10/9
東京都美術館で開催中の「伊庭靖子展 まなざしのあわい」を見てきました。
1967年に京都で生まれた画家、伊庭靖子は、自ら撮影した写真を元に、主にクッションや陶器、それに寝具などをモチーフとした絵画を描き続けてきました。
冒頭に展示されたのは、伊庭の代表作として知られるクッションや寝具を表した10点の油彩画で、2003年頃から2010年にかけて制作されたものでした。いずれもまばゆい光に包まれたかのように輝き、クッションの装飾模様も鮮やかに浮かび上がっていて、ふわふわとした弾力までが表現されているかのようでした。どこか写実的でありながらも、触知的とも言える手触り感が見られるのも特徴で、思わず手で確かめたくなるほどでした。
一方で油彩と共に水彩で表した器の作品は、リアルに器そのものを再現するというよりも、器を包む光の移ろいが繊細に示されていて、幻想的な味わいすら感じられました。また一部の作品ではモチーフから視点が少し離れ、全体の光や空気を捉えているようで、器から異なった向きに影がのびているなど、複雑な空間が広がっていました。
ハイライトはアクリルボックスを取り込んだ連作と言えるかもしれません。2016年頃より伊庭は、透明なアクリルボックスの中に陶器などのモチーフを入れ、周囲の映り込んだ風景を描く絵画を制作していて、中には今回の展覧会のために東京都美術館を舞台とした作品もありました。
アクリルボックスに反射する多様な光ゆえか、手前と向こう側の景色が陶器と共に溶け合うように表されていて、幾重にもレイヤーを築いていました。例えば真昼の明るい日差しの中、戸外を眺めてはぼんやりと立ち上がる風景を目の当たりにするかのような感覚に近いかもしれません。
目の前に事物があるはずながらも、不思議と空間に飲まれては、消えゆくような錯覚にもとらわれました。白昼夢とするのは言い過ぎでしょうか。
ラストには驚くべき新作が待ち構えていました。それが「depth #2019」と題した映像のインスタレーションで、暗室の前後に2面のスクリーンがあり、1面は無数の粒子がひたすらに動く映像、もう1つには奥行きをモノクロームで示すデプス・マップと呼ばれる映像が映されていました。
後者では人の影やおそらく屋外と思しき風景が流れるように展開していて、何とか視覚的に状況を把握出来るものの、前者はどれだけ見ても何ら映像が浮び上らず、何が映されているのか想像もつきませんでした。一体、どういうわけなのでしょうか。
答えは立体視でした。つまりは粒子を立体視、すなわち左右の目の視差を利用して物を立体的に見る方法で捉えると、何らかの「透明感のある空間」(解説より)現れる仕掛けになっているわけでした。そしてそれはデプス・マップの映像の内容とも連動しているそうです。ただ私は立体視が苦手なため、粒子から空間を捉えることは叶いませんでした。
さて伊庭靖子の個展として振り返りたいのが、2009年に神奈川県立近代美術館鎌倉で行われた「伊庭靖子 - まばゆさの在処 - 」でした。当時、私も鎌倉へ行き、透明感や清潔感に溢れたクッションや器の絵画に大いに惹かれたことを覚えています。しかしながら以来、不思議とまとまった形で作品を見る機会がありませんでした。実に今回の展示は美術館として10年ぶりの開催となります。
単なる回顧展と捉えるよりも、旧作から新作への展開を通して、伊庭の空間へのスタンスの変遷、言い換えれば視野の広がりを辿るような展覧会と言えるかもしれません。絵画における変わらない魅力を感じつつも、最新の映像作品など、チャレンジングとも受け止められる制作の「今」を知ることも出来ました。
会場は東京都美術館内のギャラリーA・B・Cのフロアです。ちょうど「コートールド美術館展」を開催している企画展示室の出口横に入口があります。そして「コートールド美術館展」の観覧券(半券可)を提示すると、一般当日料金から300円引きの500円になります。ワンコインで入場が可能です。
私も「コートールド美術館展」を観覧した後、あわせて「伊庭靖子展」を見てきました。是非ともお見逃しなきようにおすすめします。
間もなく会期末です。10月9日まで開催されています。*一部の展示室の撮影が出来ます。掲載写真は全て撮影可能作品。
「伊庭靖子展 まなざしのあわい」 東京都美術館(@tobikan_jp)
会期:2019年7月20日(土)~10月9日(水)
時間:9:30~17:30
*毎週金曜日は20時まで開館。
*7月26日(金)、8月2日(金)、9日(金)、16日(金)、23日(金)、30日(金)は21時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日、8月13日(火)、9月17日(火)、9月24日(火)。但し8月12日(月・休)、9月9日(月)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開館。
料金:一般800円、大学生・専門学校生400円、65歳以上500円、高校生以下無料。
*20名以上の団体は一般600円。
*9月16日(月・祝)は「敬老の日」により65歳以上が無料。
*10月1日(火)は「都民の日」により無料。
*毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
「伊庭靖子展 まなざしのあわい」
2019/7/20~10/9
東京都美術館で開催中の「伊庭靖子展 まなざしのあわい」を見てきました。
1967年に京都で生まれた画家、伊庭靖子は、自ら撮影した写真を元に、主にクッションや陶器、それに寝具などをモチーフとした絵画を描き続けてきました。
冒頭に展示されたのは、伊庭の代表作として知られるクッションや寝具を表した10点の油彩画で、2003年頃から2010年にかけて制作されたものでした。いずれもまばゆい光に包まれたかのように輝き、クッションの装飾模様も鮮やかに浮かび上がっていて、ふわふわとした弾力までが表現されているかのようでした。どこか写実的でありながらも、触知的とも言える手触り感が見られるのも特徴で、思わず手で確かめたくなるほどでした。
一方で油彩と共に水彩で表した器の作品は、リアルに器そのものを再現するというよりも、器を包む光の移ろいが繊細に示されていて、幻想的な味わいすら感じられました。また一部の作品ではモチーフから視点が少し離れ、全体の光や空気を捉えているようで、器から異なった向きに影がのびているなど、複雑な空間が広がっていました。
ハイライトはアクリルボックスを取り込んだ連作と言えるかもしれません。2016年頃より伊庭は、透明なアクリルボックスの中に陶器などのモチーフを入れ、周囲の映り込んだ風景を描く絵画を制作していて、中には今回の展覧会のために東京都美術館を舞台とした作品もありました。
アクリルボックスに反射する多様な光ゆえか、手前と向こう側の景色が陶器と共に溶け合うように表されていて、幾重にもレイヤーを築いていました。例えば真昼の明るい日差しの中、戸外を眺めてはぼんやりと立ち上がる風景を目の当たりにするかのような感覚に近いかもしれません。
目の前に事物があるはずながらも、不思議と空間に飲まれては、消えゆくような錯覚にもとらわれました。白昼夢とするのは言い過ぎでしょうか。
ラストには驚くべき新作が待ち構えていました。それが「depth #2019」と題した映像のインスタレーションで、暗室の前後に2面のスクリーンがあり、1面は無数の粒子がひたすらに動く映像、もう1つには奥行きをモノクロームで示すデプス・マップと呼ばれる映像が映されていました。
後者では人の影やおそらく屋外と思しき風景が流れるように展開していて、何とか視覚的に状況を把握出来るものの、前者はどれだけ見ても何ら映像が浮び上らず、何が映されているのか想像もつきませんでした。一体、どういうわけなのでしょうか。
答えは立体視でした。つまりは粒子を立体視、すなわち左右の目の視差を利用して物を立体的に見る方法で捉えると、何らかの「透明感のある空間」(解説より)現れる仕掛けになっているわけでした。そしてそれはデプス・マップの映像の内容とも連動しているそうです。ただ私は立体視が苦手なため、粒子から空間を捉えることは叶いませんでした。
さて伊庭靖子の個展として振り返りたいのが、2009年に神奈川県立近代美術館鎌倉で行われた「伊庭靖子 - まばゆさの在処 - 」でした。当時、私も鎌倉へ行き、透明感や清潔感に溢れたクッションや器の絵画に大いに惹かれたことを覚えています。しかしながら以来、不思議とまとまった形で作品を見る機会がありませんでした。実に今回の展示は美術館として10年ぶりの開催となります。
単なる回顧展と捉えるよりも、旧作から新作への展開を通して、伊庭の空間へのスタンスの変遷、言い換えれば視野の広がりを辿るような展覧会と言えるかもしれません。絵画における変わらない魅力を感じつつも、最新の映像作品など、チャレンジングとも受け止められる制作の「今」を知ることも出来ました。
会場は東京都美術館内のギャラリーA・B・Cのフロアです。ちょうど「コートールド美術館展」を開催している企画展示室の出口横に入口があります。そして「コートールド美術館展」の観覧券(半券可)を提示すると、一般当日料金から300円引きの500円になります。ワンコインで入場が可能です。
【#伊庭靖子展 図録】「伊庭靖子展 まなざしのあわい」の会場では、展覧会図録〔価格1,950円(税込)〕を好評販売中です!本展の出品作品の全画像をはじめ、3年にわたる作家へのインタビュー、作家を初期から知る、美術評論家・清水穣氏のエッセイを所収しています。 pic.twitter.com/bl8VjV6lSz
— 東京都美術館 (@tobikan_jp) September 18, 2019
私も「コートールド美術館展」を観覧した後、あわせて「伊庭靖子展」を見てきました。是非ともお見逃しなきようにおすすめします。
間もなく会期末です。10月9日まで開催されています。*一部の展示室の撮影が出来ます。掲載写真は全て撮影可能作品。
「伊庭靖子展 まなざしのあわい」 東京都美術館(@tobikan_jp)
会期:2019年7月20日(土)~10月9日(水)
時間:9:30~17:30
*毎週金曜日は20時まで開館。
*7月26日(金)、8月2日(金)、9日(金)、16日(金)、23日(金)、30日(金)は21時まで。
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日、8月13日(火)、9月17日(火)、9月24日(火)。但し8月12日(月・休)、9月9日(月)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開館。
料金:一般800円、大学生・専門学校生400円、65歳以上500円、高校生以下無料。
*20名以上の団体は一般600円。
*9月16日(月・祝)は「敬老の日」により65歳以上が無料。
*10月1日(火)は「都民の日」により無料。
*毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土曜、翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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