都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ハプスブルク展」 国立西洋美術館
国立西洋美術館
「ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」
2019/10/19~2020/1/26
国立西洋美術館で開催中の「ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」を見てきました。
スイス北東部のライン川上流域を発祥とし、13世紀末にオーストリアへ進出後、ヨーロッパを支配したハプスブルク家には、豊かな富を背景に、美術や工芸の膨大なコレクションが築かれました。
そのコレクションの一端を紹介するのが「ハプスブルク展」で、大半がオーストリア=ハンガリー二重帝国の実質的な最後の皇帝であるフランツ・ヨーゼフ1世によって作られた、ウィーン美術史美術館のコレクションでした。
ベルンハルト・シュトリーゲルとその工房、あるいは工房作「ローマ王としてのマクシミリアン1世」 1507/1508年頃 ウィーン美術史美術館
眉目秀麗な男性を描いた1枚の肖像画から展覧会が始まりました。それがベルンハルト・シュトリーゲルとその工房、あるいは工房作による「ローマ王としてのマクシミリアン1世」で、モデルはハプスブルク家に富や領土をもたらし、芸術家らを庇護しては、コレクションを築いた皇帝マクシミリアン1世でした。王冠をかぶりつつ、厚い胸板をつけた甲冑を身にしていて、細部の装飾も丁寧に表されていました。ピンク色の唇の周囲に広がった、うっすらとした髭の描写なども写実的と呼べるかもしれません。
このマクシミリアン1世が実際に着用した甲冑も出展されていました。中世最後の騎士とされ、武勇に秀でた皇帝は体格も良かったのか、明らかに甲冑自体も大きく、堂々たる姿を見せていました。そしてそうした甲冑を囲むのが、「アナニアの死、連作〈聖ペテロと聖パウロの生涯〉」などの巨大なタペストリーで、15世紀北ドイツの「角杯( グリフィンの鉤爪)」や、16世紀の中央アメリカ、及びインドとされる「ハート型容器」と合わせて公開されていました。実のところ、絵画と並んで一連の工芸品も、今回のハプスブルク展の大いな見どころと言えそうです。
絵画では肖像画が多い中、特に目立っていたのは、バロックのスペインの画家、ディエゴ・ベラスケスの作品でした。そのうちチラシに表紙を飾った「青いドレスの王女マルガリータ・テレサ」は晩年の傑作の1つとされていて、17世紀の中頃にスペインで流行したドレスを着た王女を正面から描いていました。筆は荒々しくも、ドレスの青みや布の質感を巧みに伝えていて、マルガリータの白くか細い手や、さも霧のように広がる金髪なども見事に示していました。少し離れて眺めるとぴたりとピントが合うような感覚も、ベラスケスならではの表現かもしれません。
華やかな宮廷生活を思わせる絵画にも目を奪われました。一例がヤン・トマスの「神聖ローマ皇帝レオポルト1世と皇妃マルガリータ・テレサの宮中晩餐会」で、先のベラスケス画でもモデルであったマルガリータ・テレサと、ハプスブルク家の復興にも尽力したレオポルト1世の晩餐会の光景を俯瞰した構図で表していました。多くの貴族らは、大きなテーブルを囲んでは、食事を楽しんだり、談笑したりしていて、中には長いグラスを手にしてラッパ飲みするような人物もいました。またテーブルの上に光を当て、周囲を暗くするような陰影も効果的で、宴会の賑わいが臨場感を伴って伝わってきました。この1回の晩餐にてどれほどの人が集まり、どれほどの贅が尽くされたのでしょうか。
マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブラン「フランス王妃マリー・アントワネットの肖像」 1778年 ウィーン美術史美術館
ベラスケス、ティツィアーノ、ティントレットらの肖像画の優品も並ぶ中、私がとりわけ魅せられたのが、マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブランの「フランス王妃マリー・アントワネットの肖像」でした。マリー・アントワネットの宮廷画家でもあったルブランの手掛けた肖像の大作で、大きな羽飾りを頭につけ、白と金のゴージャスなドレスに身を纏い、右手で1輪のピンクのバラを手にした王妃の姿を、実に精緻な筆と鮮やかな色彩にて表していました。
また右のテーブルの上の王冠や花瓶の花なども細かに描いていて、大きな柱のある空間しかり、宮廷の威厳までが絵画から滲み出ているようにも感じられました。ハイライトを飾る1枚と捉えても良いかもしれません。
マルティン・ファン・メイテンス(子)「皇妃マリア・テレジアの肖像」 1745-50年頃 ウィーン美術史美術館
さすがに600年にもわたる歴史を有するだけに、全ての時代の美術品を細かく紹介するのは難しいかもしれませんが、それでも冒頭のマクシミリアン1世しかり、ウィーン美術史美術館の創設者でもあるフランツ・ヨーゼフ1世の他、有力なコレクターであったルドルフ2世など、重要な人物に焦点を当て、それぞれの時代のコレクションの特徴について浮かび上がるように工夫されていました。
またルドルフ2世が銅版を所有していたデューラーの版画をはじめ、大公レオポルト・ヴィルヘルムのコレクションでもあったマンフレーディの「キリスト捕縛」など、ハプスブルク家に関係し、現在、国立西洋美術館に収蔵されている作品もあわせて出展されていました。その点も見逃せないポイントかもしれません。
会場内の状況です。10月27日の日曜日の午後に見てきました。まだ会期も早いからか、チケットブースや会場入口で待機列は一切なく、スムーズに入館出来ました。
今回の展覧会は地下の企画展示室に入場後、直ぐに地下2階の展示フロアに続くように動線が築かれています。そこでは主に甲冑や工芸品などが展示されていました。
総じて会場内には余裕がありましたが、その地下2階の展示室だけはやや混み合っていました。特に展示室右手の工芸品のケースの前には若干の列が出来ていました。
まだ始まったばかりゆえに何とも予想がつきませんが、ひょっとすると中盤以降は混雑する可能性があります。早めの観覧をおすすめします。
2020年1月26日まで開催されています。
「日本・オーストリア友好150周年記念 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」(@habs2019) 国立西洋美術館(@NMWATokyo)
会期:2019年10月19日(土)~2020年1月26日(日)
休館:月曜日。但し11月4日(月・休)、1月13日(月・祝)は開館し、11月5日(火)、12月28日(土)~1月1日(水・祝)、1月14日(火)は休館。
時間:9:30~17:30
*毎週金・土曜日は20時まで開館。但し11月30日は17時半まで。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1700(1400)円、大学生1100(1000)円、高校生700(600)円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
「ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」
2019/10/19~2020/1/26
国立西洋美術館で開催中の「ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」を見てきました。
スイス北東部のライン川上流域を発祥とし、13世紀末にオーストリアへ進出後、ヨーロッパを支配したハプスブルク家には、豊かな富を背景に、美術や工芸の膨大なコレクションが築かれました。
そのコレクションの一端を紹介するのが「ハプスブルク展」で、大半がオーストリア=ハンガリー二重帝国の実質的な最後の皇帝であるフランツ・ヨーゼフ1世によって作られた、ウィーン美術史美術館のコレクションでした。
ベルンハルト・シュトリーゲルとその工房、あるいは工房作「ローマ王としてのマクシミリアン1世」 1507/1508年頃 ウィーン美術史美術館
眉目秀麗な男性を描いた1枚の肖像画から展覧会が始まりました。それがベルンハルト・シュトリーゲルとその工房、あるいは工房作による「ローマ王としてのマクシミリアン1世」で、モデルはハプスブルク家に富や領土をもたらし、芸術家らを庇護しては、コレクションを築いた皇帝マクシミリアン1世でした。王冠をかぶりつつ、厚い胸板をつけた甲冑を身にしていて、細部の装飾も丁寧に表されていました。ピンク色の唇の周囲に広がった、うっすらとした髭の描写なども写実的と呼べるかもしれません。
このマクシミリアン1世が実際に着用した甲冑も出展されていました。中世最後の騎士とされ、武勇に秀でた皇帝は体格も良かったのか、明らかに甲冑自体も大きく、堂々たる姿を見せていました。そしてそうした甲冑を囲むのが、「アナニアの死、連作〈聖ペテロと聖パウロの生涯〉」などの巨大なタペストリーで、15世紀北ドイツの「角杯( グリフィンの鉤爪)」や、16世紀の中央アメリカ、及びインドとされる「ハート型容器」と合わせて公開されていました。実のところ、絵画と並んで一連の工芸品も、今回のハプスブルク展の大いな見どころと言えそうです。
絵画では肖像画が多い中、特に目立っていたのは、バロックのスペインの画家、ディエゴ・ベラスケスの作品でした。そのうちチラシに表紙を飾った「青いドレスの王女マルガリータ・テレサ」は晩年の傑作の1つとされていて、17世紀の中頃にスペインで流行したドレスを着た王女を正面から描いていました。筆は荒々しくも、ドレスの青みや布の質感を巧みに伝えていて、マルガリータの白くか細い手や、さも霧のように広がる金髪なども見事に示していました。少し離れて眺めるとぴたりとピントが合うような感覚も、ベラスケスならではの表現かもしれません。
華やかな宮廷生活を思わせる絵画にも目を奪われました。一例がヤン・トマスの「神聖ローマ皇帝レオポルト1世と皇妃マルガリータ・テレサの宮中晩餐会」で、先のベラスケス画でもモデルであったマルガリータ・テレサと、ハプスブルク家の復興にも尽力したレオポルト1世の晩餐会の光景を俯瞰した構図で表していました。多くの貴族らは、大きなテーブルを囲んでは、食事を楽しんだり、談笑したりしていて、中には長いグラスを手にしてラッパ飲みするような人物もいました。またテーブルの上に光を当て、周囲を暗くするような陰影も効果的で、宴会の賑わいが臨場感を伴って伝わってきました。この1回の晩餐にてどれほどの人が集まり、どれほどの贅が尽くされたのでしょうか。
マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブラン「フランス王妃マリー・アントワネットの肖像」 1778年 ウィーン美術史美術館
ベラスケス、ティツィアーノ、ティントレットらの肖像画の優品も並ぶ中、私がとりわけ魅せられたのが、マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブランの「フランス王妃マリー・アントワネットの肖像」でした。マリー・アントワネットの宮廷画家でもあったルブランの手掛けた肖像の大作で、大きな羽飾りを頭につけ、白と金のゴージャスなドレスに身を纏い、右手で1輪のピンクのバラを手にした王妃の姿を、実に精緻な筆と鮮やかな色彩にて表していました。
また右のテーブルの上の王冠や花瓶の花なども細かに描いていて、大きな柱のある空間しかり、宮廷の威厳までが絵画から滲み出ているようにも感じられました。ハイライトを飾る1枚と捉えても良いかもしれません。
マルティン・ファン・メイテンス(子)「皇妃マリア・テレジアの肖像」 1745-50年頃 ウィーン美術史美術館
さすがに600年にもわたる歴史を有するだけに、全ての時代の美術品を細かく紹介するのは難しいかもしれませんが、それでも冒頭のマクシミリアン1世しかり、ウィーン美術史美術館の創設者でもあるフランツ・ヨーゼフ1世の他、有力なコレクターであったルドルフ2世など、重要な人物に焦点を当て、それぞれの時代のコレクションの特徴について浮かび上がるように工夫されていました。
またルドルフ2世が銅版を所有していたデューラーの版画をはじめ、大公レオポルト・ヴィルヘルムのコレクションでもあったマンフレーディの「キリスト捕縛」など、ハプスブルク家に関係し、現在、国立西洋美術館に収蔵されている作品もあわせて出展されていました。その点も見逃せないポイントかもしれません。
会場内の状況です。10月27日の日曜日の午後に見てきました。まだ会期も早いからか、チケットブースや会場入口で待機列は一切なく、スムーズに入館出来ました。
今回の展覧会は地下の企画展示室に入場後、直ぐに地下2階の展示フロアに続くように動線が築かれています。そこでは主に甲冑や工芸品などが展示されていました。
総じて会場内には余裕がありましたが、その地下2階の展示室だけはやや混み合っていました。特に展示室右手の工芸品のケースの前には若干の列が出来ていました。
静寂を司る、4領の甲冑。休館日の展示室はどこか奇妙さを感じます。西洋甲冑ならではのスタイリッシュな装飾を、いろんな角度からお楽しみください。明日も9:30開館で皆様をお待ちしています。#甲冑 #鎧 pic.twitter.com/0sd40Jq6Gl
— ハプスブルク展《公式》 (@habs2019) October 28, 2019
まだ始まったばかりゆえに何とも予想がつきませんが、ひょっとすると中盤以降は混雑する可能性があります。早めの観覧をおすすめします。
2020年1月26日まで開催されています。
「日本・オーストリア友好150周年記念 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」(@habs2019) 国立西洋美術館(@NMWATokyo)
会期:2019年10月19日(土)~2020年1月26日(日)
休館:月曜日。但し11月4日(月・休)、1月13日(月・祝)は開館し、11月5日(火)、12月28日(土)~1月1日(水・祝)、1月14日(火)は休館。
時間:9:30~17:30
*毎週金・土曜日は20時まで開館。但し11月30日は17時半まで。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1700(1400)円、大学生1100(1000)円、高校生700(600)円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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