都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「山沢栄子 私の現代」 東京都写真美術館
東京都写真美術館
「山沢栄子 私の現代」
2019/11/12~2020/1/26

東京都写真美術館で開催中の「山沢栄子 私の現代」を見てきました。
1899年に大阪で生まれ、20代にしてアメリカで写真を学んだ山沢栄子は、帰国後もポートレートや抽象写真などを手掛け、半世紀以上に渡り幅広く写真家として活動しました。
その山沢の生誕120年を期して行われているのが「私の現代」と題する回顧展で、1970年から1980年にかけての代表作を中心に、約140点の作品が出展されていました。
まず目を引くのが、山沢の写真家としての「集大成」(解説より)である「What I Am Doing」シリーズ、全28点でした。いずれも1986年の最後の新作個展に出品されたもので、山沢自らが1976年以降の作品を選び、新作と合わせてシリーズ化しました。ここではカラーとモノクロの写真がわけて展示されていて、現像用のリールや、撮影のためのガラスフィルターなどの写真機材も写していました。
何よりも印象に深いのは、もはや造形実験と呼んで良いほど、モチーフの形が抽象化しつつ、さも彫刻のように立ち上がっていることで、まさに「カメラで描く抽象画」(解説より)のような様相を見せていることでした。そしてコンセプチュアルな表現ながらも、時にリールを写した作品などは、あたかも人の顔を表しているかのようで、ユーモアな視点も感じられました。こうした抽象一辺倒ではない表現も、山沢の写真の大いな魅力かもしれません。
比較的早い段階の写真集、「遠近」も面白いのではないでしょうか。これらは山沢が戦後、再渡米した「ニューヨーク6ヶ月の目」なる見出しからはじまった連作で、1943年から1962年の間に制作された写真、77点を収録しました。アメリカの何気ない都市の風景や行き交う人々、さらに樹木、さらにはカップを重ねてリンゴを置いた光景など、風景から静物までを幅広く表現していて、中には後の「What I Am Doing」を彷彿させる抽象的な作品もありました。

「仔犬」1958年 写真集「遠近」より *会場外、撮影可能バナー
ここで思いがけないほど惹かれたのが馬や犬などの動物を写した作品でした。中でも「仔犬」は、まさに仔犬が前足を木にかけては、やや寂しげに、つぶらな瞳で彼方を見やる姿を写していて、どことなく寂しげな雰囲気も滲み出ていました。原題は「help」とされていましたが、この仔犬は、一体、何に助けを求めていたのでしょうか。飼い主を必死に待ち焦がれるような姿に愛おしさを感じてなりませんでした。
アメリカより帰国後、1931年に大阪へスタジオを開くと、山沢は主に財界人や文化人のポートレイト写真で成功を収めました。残念ながら当時の写真の多くは戦争で失われてしまいましたが、結果的には戦後も広告向けの写真などを手掛けつつ、1960年頃にはスタジオを閉じて、自作の制作活動に集中するようになりました。
この他、会場では20世紀前半のアメリカの写真も紹介されていて、若き山沢が身を置いた同国の写真シーンの一端も伺うことが出来ました。山沢は約1年間、サンフランシスコでスティーグリッツに私淑し、抽象表現を志向した若き写真家、コンスエロ・カナガに師事していました。また帰国前にはファッション雑誌の写真家の元で働いた経験もあり、それも戦後に商業写真のビジネスを始める1つの切っ掛けになりました。
実のところ私自身、何ら山沢に対する知識もなく、ほぼ犬の写真に引かれて出向いた展覧会でしたが、抽象、具象を問わずに作品は魅惑的で、大いに感銘させられました。それに同館の公式Twitterでも紹介されている、山沢の力強い「言葉」にも共感する面が少なくありません。また1人、好きな写真家と出会えた気がしました。
ラストには晩年の山沢へのインタビュー映像も公開されていました。短い内容でしたが、山沢の作品制作に対するスタンスも伝わってくるかもしれません。
「山沢栄子 私の現代/赤々舎」
1月2日(木)と3日(金)、及び開館記念日の1月21日(火)は無料で観覧出来ます。
2020年1月26日まで開催されています。おすすめします。
「山沢栄子 私の現代」 東京都写真美術館(@topmuseum)
会期:2019年11月12日(火)~2020年1月26日(日)
休館:月曜日。*但し1月13日(月・祝)は開館し、1月14日(火)は休館。年末年始(12月29日〜1月1日)。
時間:10:00~28:00
*木・金曜は20時まで開館。1月2日(木)と3日(金)の開館は18時まで。
料金:一般700(560)円、学生600(480)円、中高生・65歳以上500(400)円。
*( )は20名以上の団体料金。
*1月2日(木)と3日(金)は無料。1月21日(火)は開館記念日のため無料。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
「山沢栄子 私の現代」
2019/11/12~2020/1/26

東京都写真美術館で開催中の「山沢栄子 私の現代」を見てきました。
1899年に大阪で生まれ、20代にしてアメリカで写真を学んだ山沢栄子は、帰国後もポートレートや抽象写真などを手掛け、半世紀以上に渡り幅広く写真家として活動しました。
その山沢の生誕120年を期して行われているのが「私の現代」と題する回顧展で、1970年から1980年にかけての代表作を中心に、約140点の作品が出展されていました。
まず目を引くのが、山沢の写真家としての「集大成」(解説より)である「What I Am Doing」シリーズ、全28点でした。いずれも1986年の最後の新作個展に出品されたもので、山沢自らが1976年以降の作品を選び、新作と合わせてシリーズ化しました。ここではカラーとモノクロの写真がわけて展示されていて、現像用のリールや、撮影のためのガラスフィルターなどの写真機材も写していました。
何よりも印象に深いのは、もはや造形実験と呼んで良いほど、モチーフの形が抽象化しつつ、さも彫刻のように立ち上がっていることで、まさに「カメラで描く抽象画」(解説より)のような様相を見せていることでした。そしてコンセプチュアルな表現ながらも、時にリールを写した作品などは、あたかも人の顔を表しているかのようで、ユーモアな視点も感じられました。こうした抽象一辺倒ではない表現も、山沢の写真の大いな魅力かもしれません。
比較的早い段階の写真集、「遠近」も面白いのではないでしょうか。これらは山沢が戦後、再渡米した「ニューヨーク6ヶ月の目」なる見出しからはじまった連作で、1943年から1962年の間に制作された写真、77点を収録しました。アメリカの何気ない都市の風景や行き交う人々、さらに樹木、さらにはカップを重ねてリンゴを置いた光景など、風景から静物までを幅広く表現していて、中には後の「What I Am Doing」を彷彿させる抽象的な作品もありました。

「仔犬」1958年 写真集「遠近」より *会場外、撮影可能バナー
ここで思いがけないほど惹かれたのが馬や犬などの動物を写した作品でした。中でも「仔犬」は、まさに仔犬が前足を木にかけては、やや寂しげに、つぶらな瞳で彼方を見やる姿を写していて、どことなく寂しげな雰囲気も滲み出ていました。原題は「help」とされていましたが、この仔犬は、一体、何に助けを求めていたのでしょうか。飼い主を必死に待ち焦がれるような姿に愛おしさを感じてなりませんでした。
アメリカより帰国後、1931年に大阪へスタジオを開くと、山沢は主に財界人や文化人のポートレイト写真で成功を収めました。残念ながら当時の写真の多くは戦争で失われてしまいましたが、結果的には戦後も広告向けの写真などを手掛けつつ、1960年頃にはスタジオを閉じて、自作の制作活動に集中するようになりました。
この他、会場では20世紀前半のアメリカの写真も紹介されていて、若き山沢が身を置いた同国の写真シーンの一端も伺うことが出来ました。山沢は約1年間、サンフランシスコでスティーグリッツに私淑し、抽象表現を志向した若き写真家、コンスエロ・カナガに師事していました。また帰国前にはファッション雑誌の写真家の元で働いた経験もあり、それも戦後に商業写真のビジネスを始める1つの切っ掛けになりました。
【山沢栄子 私の現代】名言集私の長い準備時代も過ぎた、今どうしても自分はやりたい。ただその一念だつた。反対を受けた時人間は強くなるものだ。私は無茶に勇気が出てきて、やろう!出来るか出来ないかわからないことをやつた。https://t.co/DA1K9LiHCC#東京都写真美術館 pic.twitter.com/G1XU1qfuz0
— 東京都写真美術館 (@topmuseum) December 3, 2019
実のところ私自身、何ら山沢に対する知識もなく、ほぼ犬の写真に引かれて出向いた展覧会でしたが、抽象、具象を問わずに作品は魅惑的で、大いに感銘させられました。それに同館の公式Twitterでも紹介されている、山沢の力強い「言葉」にも共感する面が少なくありません。また1人、好きな写真家と出会えた気がしました。
ラストには晩年の山沢へのインタビュー映像も公開されていました。短い内容でしたが、山沢の作品制作に対するスタンスも伝わってくるかもしれません。

1月2日(木)と3日(金)、及び開館記念日の1月21日(火)は無料で観覧出来ます。
2020年1月26日まで開催されています。おすすめします。
「山沢栄子 私の現代」 東京都写真美術館(@topmuseum)
会期:2019年11月12日(火)~2020年1月26日(日)
休館:月曜日。*但し1月13日(月・祝)は開館し、1月14日(火)は休館。年末年始(12月29日〜1月1日)。
時間:10:00~28:00
*木・金曜は20時まで開館。1月2日(木)と3日(金)の開館は18時まで。
料金:一般700(560)円、学生600(480)円、中高生・65歳以上500(400)円。
*( )は20名以上の団体料金。
*1月2日(木)と3日(金)は無料。1月21日(火)は開館記念日のため無料。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
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