都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「青木野枝 霧と鉄と山と」 府中市美術館
府中市美術館
「青木野枝 霧と鉄と山と」
2019/12/14~2020/3/1
府中市美術館で開催中の「青木野枝 霧と鉄と山と」を見てきました。
1958年に生まれ、主に鉄によって「大気や水蒸気」(解説より)をモチーフとした彫刻で知られる青木野枝は、石膏や石鹸などの素材に取り組んでは、新たな表現を行なってきました。
その青木の東京では約20年ぶりの個展(*)が「霧と鉄と山」で、空間に合わせて構想された新作の他、最初期の鉄鋼の彫刻、ないしドローイングなどが出展されていました。*美術館での個展。前回は「青木野枝展ー軽やかな、鉄の森」を2000年に目黒区美術館で開催。
さて久方ぶりの大規模な展覧会ゆえに、さも回顧形式の内容を想像してしまいましたが、必ずしもそういうわけではありませんでした。確かに古くは1981年の作品に遡るなど、新旧作にて構成されていたものの、1展示室1作品ならぬ、大型の作品が空間を占めていて、全体が1つのインスタレーションのような形をとっていました。よってリストにも記載がありましたが、作品数は彫刻に限ると8点ほどでした。
青木野枝「立山/府中」 2019年
まず1階のエントランスを過ぎると、右手に微かな香りを放つオブジェが目に飛び込んできました。それが「立山/府中」で、細い4本の脚を持つ薄い鉄板の上に、カラフルな石鹸を縦へ積んだ作品でした。
青木野枝「立山/府中」 2019年
これらの石鹸はいずれも使い古しのものだけに、大きさも形も一定ではありませんが、ちょうど窓の向こうの光を受けては、まるでガラスのごとくキラキラと輝いていました。
青木野枝「立山/府中」 2019年
その鮮やかな色彩もあってか、一見、華やかな雰囲気も醸し出していましたが、実のところ青木は、この石鹸の塔に、親に先立たれた子どもが供養のために石を積み、鬼が壊しては、また菩薩に救われるという伝承で知られた、賽の河原のイメージを重ねたとしています。それを知るとまた印象も変わってくるかもしれません。
エスカレーターをあがり、2階の展示室へ進むと、まず姿を表すのが、2つの「untitled」と「原形質」の3点の作品でした。前者の「untitled」は鉄を素材に、1つは卵を銅線で括り付けていて、一方の「原形質」は石膏を用いたものでした。そして「原形質」越しに「untitled」を見やると、さも山の向こうに並ぶ樹木の光景を目にするかのようでした。
2つの新作の「霧と鉄と山」こそ展示のハイライトと言えるかもしれません。まず展示室1の「I」では、リングの形をした鉄が、ちょうど空間の中央に山のように築かれていて、通常、絵画などを展示する備え付けのガラスケースの中には、半透明の波板がおおよそ2メートル間隔ほどに吊り下がっていました。
1つ1つの鉄のリングは、天体とも言えるような球を象っていて、一部には半透明のガラス板がはめ込まれていました。ちょうど泡のように吹き上がるようなイメージも思い浮かびましたが、ケースの波板とともに眺めると、水の流れる滝に囲まれた古墳のようにも見えて、どこか瞑想を誘うような鎮魂の場が築かれている錯覚にも囚われました。
もう一方の「II」は、やはり鉄のリングを積み上げていたものの、先の「I」とは異なり、上の部分が2つの耳のように突き出ていました。また「I」のように下から上へリングが小さくなることもなく、周囲のガラスケースには何も入れられていませんでした。その独特の形はまるで動物のようにも見えなくありませんでしたが、私には地中深くより吹き上がるマグマの光景と重なりました。
青木野枝「霧と山ーII」 2019年
エントランスのエスカレーターの前に立った、「霧と山ーII」も存在感があったのではないでしょうか。ちょうど円錐に近い形をした鉄のオブジェが、天井付近にまで立ち上がっていて、透明の波板がぶら下がっていました。その光景はそれこそ霧に包まれた山のようでもありながら、不思議と仲睦まじく寄り添う2人の人間の姿にも思えました。先の「立山/府中」と同様、2019年の新作で、まさしく美術館の空間のために作られたものでした。
青木野枝「霧と山ーII」 2019年
この他、日常的なメモ書きや、チェルノブイリの事故のニュースを伝える新聞を貼った「スケッチブック」も目を引きました。また石膏による「曇天1」と「曇天2」も量感があったかもしれません。白く、また思いの外にざらついた表面は、「原形質」と同様に、粉雪を固めたかのような感触を見せていました。
青木野枝「霧と山ーII」 2019年
1階エントランス作品のみ撮影が可能でした。(2階より見下ろす形もOK。)
青木野枝「霧と山ーII」 2019年
なお青木の作品は原則、恒久設置の場合を除き、展示を終えると解体されます。そして時に鉄のパーツは倉庫に長い間保管され、別の作品に利用されたり、時にはクズ鉄としてリサイクルされることもあるそうです。
「鉄は私にとって木の枝であり、骨であり、氷である。そしていつも内部に透明な光をもっている。」 青木野枝 *出品リストより
「流れのなかにひかりのかたまり/青木野枝/左右社」
リングが幾つも連なり、さも泡のように増殖していくような作品の姿を目にすると、何かが互いに行き来しつつ、緩やかに巡るようなイメージを思い浮かびましたが、そもそも青木の制作そのものが、反復であり、また循環的な行為と呼べるのかもしれません。
2020年3月1日まで開催されています。
「青木野枝 霧と鉄と山と」 府中市美術館
会期:2019年12月14日(土)~2020年3月1日(日)
休館:月曜日。但し1月13日、2月24日は開館。年末年始(12月29日~1月3日)、1月14日(火)、2月12日(水)、2月25日(火)。
時間:10:00~17:00
*入館は閉館の30分前まで
料金:一般700(560)円、大学・高校生350(280)円、中学・小学生150(120)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*府中市内の小中学生は「学びのパスポート」で無料。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
「青木野枝 霧と鉄と山と」
2019/12/14~2020/3/1
府中市美術館で開催中の「青木野枝 霧と鉄と山と」を見てきました。
1958年に生まれ、主に鉄によって「大気や水蒸気」(解説より)をモチーフとした彫刻で知られる青木野枝は、石膏や石鹸などの素材に取り組んでは、新たな表現を行なってきました。
その青木の東京では約20年ぶりの個展(*)が「霧と鉄と山」で、空間に合わせて構想された新作の他、最初期の鉄鋼の彫刻、ないしドローイングなどが出展されていました。*美術館での個展。前回は「青木野枝展ー軽やかな、鉄の森」を2000年に目黒区美術館で開催。
さて久方ぶりの大規模な展覧会ゆえに、さも回顧形式の内容を想像してしまいましたが、必ずしもそういうわけではありませんでした。確かに古くは1981年の作品に遡るなど、新旧作にて構成されていたものの、1展示室1作品ならぬ、大型の作品が空間を占めていて、全体が1つのインスタレーションのような形をとっていました。よってリストにも記載がありましたが、作品数は彫刻に限ると8点ほどでした。
青木野枝「立山/府中」 2019年
まず1階のエントランスを過ぎると、右手に微かな香りを放つオブジェが目に飛び込んできました。それが「立山/府中」で、細い4本の脚を持つ薄い鉄板の上に、カラフルな石鹸を縦へ積んだ作品でした。
青木野枝「立山/府中」 2019年
これらの石鹸はいずれも使い古しのものだけに、大きさも形も一定ではありませんが、ちょうど窓の向こうの光を受けては、まるでガラスのごとくキラキラと輝いていました。
青木野枝「立山/府中」 2019年
その鮮やかな色彩もあってか、一見、華やかな雰囲気も醸し出していましたが、実のところ青木は、この石鹸の塔に、親に先立たれた子どもが供養のために石を積み、鬼が壊しては、また菩薩に救われるという伝承で知られた、賽の河原のイメージを重ねたとしています。それを知るとまた印象も変わってくるかもしれません。
エスカレーターをあがり、2階の展示室へ進むと、まず姿を表すのが、2つの「untitled」と「原形質」の3点の作品でした。前者の「untitled」は鉄を素材に、1つは卵を銅線で括り付けていて、一方の「原形質」は石膏を用いたものでした。そして「原形質」越しに「untitled」を見やると、さも山の向こうに並ぶ樹木の光景を目にするかのようでした。
2つの新作の「霧と鉄と山」こそ展示のハイライトと言えるかもしれません。まず展示室1の「I」では、リングの形をした鉄が、ちょうど空間の中央に山のように築かれていて、通常、絵画などを展示する備え付けのガラスケースの中には、半透明の波板がおおよそ2メートル間隔ほどに吊り下がっていました。
1つ1つの鉄のリングは、天体とも言えるような球を象っていて、一部には半透明のガラス板がはめ込まれていました。ちょうど泡のように吹き上がるようなイメージも思い浮かびましたが、ケースの波板とともに眺めると、水の流れる滝に囲まれた古墳のようにも見えて、どこか瞑想を誘うような鎮魂の場が築かれている錯覚にも囚われました。
もう一方の「II」は、やはり鉄のリングを積み上げていたものの、先の「I」とは異なり、上の部分が2つの耳のように突き出ていました。また「I」のように下から上へリングが小さくなることもなく、周囲のガラスケースには何も入れられていませんでした。その独特の形はまるで動物のようにも見えなくありませんでしたが、私には地中深くより吹き上がるマグマの光景と重なりました。
青木野枝「霧と山ーII」 2019年
エントランスのエスカレーターの前に立った、「霧と山ーII」も存在感があったのではないでしょうか。ちょうど円錐に近い形をした鉄のオブジェが、天井付近にまで立ち上がっていて、透明の波板がぶら下がっていました。その光景はそれこそ霧に包まれた山のようでもありながら、不思議と仲睦まじく寄り添う2人の人間の姿にも思えました。先の「立山/府中」と同様、2019年の新作で、まさしく美術館の空間のために作られたものでした。
青木野枝「霧と山ーII」 2019年
この他、日常的なメモ書きや、チェルノブイリの事故のニュースを伝える新聞を貼った「スケッチブック」も目を引きました。また石膏による「曇天1」と「曇天2」も量感があったかもしれません。白く、また思いの外にざらついた表面は、「原形質」と同様に、粉雪を固めたかのような感触を見せていました。
青木野枝「霧と山ーII」 2019年
1階エントランス作品のみ撮影が可能でした。(2階より見下ろす形もOK。)
青木野枝「霧と山ーII」 2019年
なお青木の作品は原則、恒久設置の場合を除き、展示を終えると解体されます。そして時に鉄のパーツは倉庫に長い間保管され、別の作品に利用されたり、時にはクズ鉄としてリサイクルされることもあるそうです。
「鉄は私にとって木の枝であり、骨であり、氷である。そしていつも内部に透明な光をもっている。」 青木野枝 *出品リストより
「流れのなかにひかりのかたまり/青木野枝/左右社」
リングが幾つも連なり、さも泡のように増殖していくような作品の姿を目にすると、何かが互いに行き来しつつ、緩やかに巡るようなイメージを思い浮かびましたが、そもそも青木の制作そのものが、反復であり、また循環的な行為と呼べるのかもしれません。
2020年3月1日まで開催されています。
「青木野枝 霧と鉄と山と」 府中市美術館
会期:2019年12月14日(土)~2020年3月1日(日)
休館:月曜日。但し1月13日、2月24日は開館。年末年始(12月29日~1月3日)、1月14日(火)、2月12日(水)、2月25日(火)。
時間:10:00~17:00
*入館は閉館の30分前まで
料金:一般700(560)円、大学・高校生350(280)円、中学・小学生150(120)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*府中市内の小中学生は「学びのパスポート」で無料。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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