「ドローイングの可能性」 東京都現代美術館

東京都現代美術館
「ドローイングの可能性」
2020/6/2~6/21



東京都現代美術館で開催中の「ドローイングの可能性」を見てきました。

「最も根源的でシンプルな表現」(解説より)とされるドローイングも、現代においては単に平面へ線として描かれるだけでなく、言葉と深く関わったり、空間へ拡張するなどして多様に展開してきました。

そうしたドローイングの新たな方向を探るのが「ドローイングの可能性」で、書家や彫刻家、それに現代美術家など、美術を超えて幅広く活動する作家の作品が紹介されていました。

冒頭からして見入るのは、近年、自らの批評的な詩文を書として発表する書家の石川九楊でした。緻密でかつ即興的なまでに振幅する線によって象られた書は、時に建物や有機的な都市、そして9.11を連想させる崩壊のイメージを生み出していて、言葉が無限なまでのインスピレーションを引き起こしていました。それこそ現代社会の事象を書に刻み込んでいると言えるかもしれません。



「ドローイングの可能性」で面白いのは、一般的なドローイングの概念を大きく超えたかのような作品も展示されていることでした。それが木材にチェーンソーなどで切り込みを入れた彫刻で知られる戸谷成雄の作品で、とりわけキューブ状の木彫と断片を空間に展開した「視線体ー散」に目を奪われました。

ホワイトキューブの床の中央には、チェーンソーで切り込みが入った木彫が直に置かれていて、周囲の壁面には、あたかも細かく砕いた岩石のような木彫の破片が無数に散るようにくっ付いていました。そして個々の破片を辿れば、四方へと自在に広がる断片的な線が築かれているようで、空間全体にドローイングが立体として立ち上がっていました。



糸を壁に糊付けし、透視図のようなイメージを築いた盛圭太の「Bug report」も魅惑的ではないでしょうか。ホット・グルーガンで接着させた糸は、近未来的な宇宙船を思わせる構造物を描いていて、糸は所々で断線しつつ、また剥がれ落ち、床に散っていました。



これらは意図的であり、時間の経過によるものだそうですが、いわば常に状態は変化しているため、不確定とも言えるかもしれません。



太い糸と細い糸は交差しつつ、互いに接着し、また分断していて、それぞれの糸が生み出す動きや緊張感にも面白さを感じました。*盛圭太の「Bug report」は撮影可能。

赤褐色や青色などの単色で風景を描く山部泰司は、細かな線描にて水の流れる様子や樹木を表していて、目を凝らせば、細部は銅版画のように緻密でした。

既存のイメージを操作し、絵画の可能性を追求するという山部は、近年、レオナルド・ダ・ヴィンチの洪水のドローイングに着想を得た作品を描いていて、「横断流水図」においてもレオナルドを思わせる緻密な線によって、水が樹木を飲み込む光景を目にすることが出来ました。一見、長閑な山水画に思えるかもしれませんが、濁流が地を洗う姿は、まさに洪水という災害そのものでした。



この他、マティスや草間彌生、磯辺行久らの作品も展示されていて、線が生み出した多彩な表現に目を見張るものがありました。ドローイングに対する端的なイメージを解き放つ展示と言えるのではないでしょうか。


東京都現代美術館の新型コロナウイルス感染症対策の情報です。入場時に検温と手指の消毒が行われる他、マスクの着用が求められています。また来場者同士の一定の間隔があけられるよう、入場者数を制限する場合があるそうです。規制状況については公式Twitterアカウント(@MOT_art_museum)をご覧ください。

当初、3月14日から開催される予定でしたが、緊急事態宣言の発令や休業要請等で6月2日まで開幕がずれ込み、終了日も6月14日から6月21日までに変更となりました。よって次の土日で会期末を迎えます。



6月21日まで開催されています。遅くなりましたが、おすすめします。

「ドローイングの可能性」 東京都現代美術館@MOT_art_museum
会期:2020年6月2日(火)~6月21日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1200円、大学・専門学校生・65歳以上800円、中高生600円、小学生以下無料。
 *団体受付は当面停止。
 *MOTコレクションも観覧可。
 *同時開催の企画展とのセット券もあり。
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分。都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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