「平木コレクションによる 前川千帆展」 千葉市美術館

千葉市美術館
「平木コレクションによる 前川千帆展」
2021/7/13~9/20



千葉市美術館で開催中の「平木コレクションによる 前川千帆展」を見てきました。

1888年に京都に生まれた前川千帆(まえかわせんぱん)は、漫画家として活動しながら木版画を手掛けると、恩地孝四郎や平塚運一らとともに創作版画家の「御三家」と称されるほど評価されました。

その前川の画業を振り返るのが「平木コレクションによる 前川千帆展」で、新聞雑誌の投稿から漫画の原画、版画、はたまた版木など約350点もの作品と資料が展示されていました。*前後期で展示替えあり

はじまりは前川が「時事新報」や「ホトトギス」などへ投稿した漫画で、中には現存最古のアニメーション映画とされた幸内純一との共作「なまくら刀」といった映像も展示されていました。このほか、自動車に分乗して東海道を旅する様子を描いた「東海道五十三次漫画絵巻」も面白い作品かもしれません。

前川の木版で特徴的なのは人間が多く登場することで、自転車を追っかける犬をスピード感をもって描いた「四国の風景」など動きのある作品も少なくありませんでした。これらには漫画家として活動した経験も影響しているのかもしれません。

チラシ表紙を飾る「少女」は白い帽子をかぶった2人の女性が会話する姿を描いた作品で、簡略化された脚や刷り残しのようなタッチなどに素朴な味わいが感じられました。

「野外小品」と呼ばれる一連の連作は、文字通り野外における人の生活を表現していて、凧揚げや縄跳び、それに登山する人々などを描いていました。解説に「版画ジャーナリズム」とありましたが、前川ならではの人間観察眼が発揮された作品といえるかもしれません。



新宿三越の屋上を舞台とした「屋上風景」に魅せられました。これは眼下にビルを望むデパートの屋上に集うカップルをモチーフとした作品で、水色に染まる円形の建物や手すり、そして黄色やワイン色のドレスが美しいコントラストを描いていました。また一見、素朴なタッチでありながらも、人の影や衣服の線などがニュアンスに富んでいて、前川の高い表現力を伺い知るものがありました。

私が前川の仕事で特に心を惹かれたのは、「ゴールデン・バット動物園」や「閑中閑本」といった小さな本の作品でした。そのうち「閑中閑本」は子どもたちや花、お菓子、温泉地や過去の思い出などを自由に描いた連作で、第27冊まで刊行されました。いずれも手にとって愛でたくなるような絵ばかりで、小さな画面ながらも前川の創作の集大成といえるような魅力が感じられました。

前川は作品を官展などに出品する一方、会員制の形にて個人へ頒布していたそうですが、単に版画を作るのではなく、作品を通して受け手と繋がるような関係を重視していたのでしょうか。また戦後、多くの創作版画家が抽象へと向かう中、従来と同じく人や風景など具象にこだわり続けたことにも興味を引かれました。


最後に展示替えの情報です。会期中、前後期で一部の木版の作品が入れ替わります。詳しくは出品リストをご覧ください。

「平木コレクションによる 前川千帆展」出品リスト(PDF)
前期:7月13日(火)〜8月15日(日)
後期:8月17日(火)〜9月20日(月・祝)

なお前川の画業を網羅的に紹介するのは、1977年にリッカー美術館で開催された「前川千帆名作展」以来、実に44年ぶりのことだそうです。



私もチラシを手にしてから楽しみにしていましたが、また一人、心を奪われる版画家と出会ったような気がしました。

9月20日まで開催されています。おすすめします。

「平木コレクションによる 前川千帆展」 千葉市美術館@ccma_jp
会期:2021年7月13日(火)~9月20日(月・祝)
休館:8月2日(月)、8月16日(月)、9月6日(月)。
時間:10:00~18:00。
 *入場受付は閉館の30分前まで
 *毎週金・土曜は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は前売り、市内在住の65歳以上の料金。
 *「江戸絵画と笑おう」の共通チケット
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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