「ウルトラ001」 スパイラル

スパイラルガーデン港区南青山5-6-23
「エマージング・ディレクターズ・アートフェア『ウルトラ001』」
10/29-11/3



これまでにない『新しい形』のアートフェアの始まりです。南青山のスパイラルで開催中の「ウルトラ001」へ行ってきました。



一見した限りでは、お馴染みのスパイラルのステージにて、計25件の画廊ブースによる展示即売会方式のアートフェアにも思えますが、まずは上記写真、各ブースに記された名称の表記をご覧ください。通常は画廊名が主に書かれる部分に、ディレクター名、ようは新生堂の幕内政治ではなく、「幕内政治(新生堂)」と記されています。つまりはこのアートフェアの出店単位は、「現場のディレクター個人」(ちらしより)であるのです。画廊という場ではなく、あくまでもディレクターという個々の人間の手を主に介した作品が紹介されています。そこが新しいというわけです。



よって、各展示における有りがちな画廊のカラーは影を潜め、かわって25名のディレクターの感性が前面に打ち出ています。また「まさかあの画廊でこの作品が出ているとは思わなかった。」とでも言えるような、意外感の多い展示にも仕上がっていました。水野亮子(レントゲン)の寺島茜のアクリル画などはその一例に挙げられるかもしれません。ノスタルジックな物語風の静かな風景が、ぼんやりとした瑞々しい絵具で描かれていました。レントゲンらしからぬほのぼのとした作品です。

比較的手に届き易い、10万円以下の作品がメインに出ているのも特徴の一つです。個々の作品については実際に会場へ行かれることをおすすめするしかありませんが、小塚真里繪(Gallery Kozuka)の鈴木敦夫のペーパークラフトのような抽象アクリル画や、戸塚憲太郎(hpgrp GALLERY東京)の永岡大輔の細密なペン画などは深く印象に残りました。また幕内政治(新生堂)の山口英紀には要注目です。写真と思って通り過ぎると後悔します。



Yahooオークションと連動したオンライン発売なども行われているようです。率直なところ、第一回目の開催ということで、やや試行錯誤的な内容であることは否めませんが、ディレクター本人と出品作家によるギャラリートークなどがあれば、さらに「個の力」(ちらしより)を分かり易い形で引き出すことに繋がっていたのではないでしょうか。

スパイラルオークション



明日までの開催です。入場は無料です。
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「小笠原美環 - ひとりごと - 」 SCAI

SCAI THE BATHHOUSE台東区谷中6-1-23
「小笠原美環 - ひとりごと - 」
10/3-11/8



ドイツ在住で、欧州を中心に活動し続ける画家、小笠原美環(1973~)の世界を紹介します。SCAIで開催中の新作個展を見てきました。

西美の印象が強く残っていたからかもしれません。その抑制されたグレイトーンの色調と、室内に立つ女性の後ろ姿のモチーフなどを見た時に思い浮かんだのは、デンマークの画家、ハンマースホイの作品でした。実際、画廊HP上でも彼女がハンマースホイに受けた影響云々を指摘していますが、薄暗く、ストイックなまでに簡略化された室内空間、もしくはその中に半ばオブジェと化した事物感の希薄な人物像などは、確かにさもありなんと言える部分があるかもしれません。上記DMの「Hand」などは、ハンマースホイの絵画の一部分を拡大して見せているかのような印象を受けるのではないでしょうか。また空間や人物の全体ではなく、例えば下半身だけをトリミングするかのようにして切り出すのも、彼女の個性の一つです。『失われた』全体が物語性を巧みに排除しています。

とは言え、ハンマースホイに限定して見ると、その作品の魅力のイメージはあまり広がらないかもしれません。赤いドレスを着た女の子がまるで木彫人形のような赤ん坊を両手に掲げる「Puppen」は、どこか静謐なデュマスという雰囲気をたたえ、またカーテン越しの窓から差し込む光がベットを仄かに照らす「Businesshotel」は、美しくも虚無感に満ちたホッパーの絵画を、さらには純白の衣装を纏う女性が水面上をたゆたう「Floating」は、それこそミレイのオフェーリアを連想させるものがありました。上でも触れた『失われた』ものを付け加えるのは、あくまでも見る側一人一人の手に委ねられているようです。

若干のもどかしさと、後に引きずる奇妙な余韻を味わえます。今月8日までの開催です。
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