都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年」速報リリース
本年、開館60周年を迎えたことでも話題の東京国立近代美術館ですが、そのメインとも言える展覧会、「美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年」の速報リリースが発表されました。
*以上、リリースより転載。
白髪一雄画の凄まじいまでにインパクトのあるチラシに仰け反った方も多いかもしれません。裏面の「美術にふるえたことがありますか?」のコピーも目を引きました。
チラシにも概要等が記載されているので上記【見どころ】と重なりますが、当然ながら作品はもとより、私として最も期待しているのが、建築家の西沢徹夫氏の協力に基づく展示室の全面リニューアルです。
リニューアルについては5/12からの所蔵作品展のページに案内があります。
西澤氏は既にクレー展などの会場デザインを担当し、その展示に定評があるのは言うまでもありません。ここは注目したいところです。
さてメモリアルの東近美、ともかく既に多様なプロジェクトが進行中です。主なものを以下へ簡単にまとめておきます。
東近美の所蔵作品展を見て、時に企画特別展を上回るほど充実していると感じたことは一度や二度ではありません。本館の1~4階の全フロアをリニューアルしての一大コレクション展「美術にぶるっ!」、まずは心待ちにしたいと思います。
「美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年」
会場:東京国立近代美術館
会期:2012年10月16日(火)~2013年1月14日(月・祝)
主催:東京国立近代美術館・NHK・NHKプロモーション
時間:午前10時から午後5時。金曜日は午後8時まで開館。(入館は閉館の30分前まで。)
休館:毎週月曜日。(祝日又は振替休日にあたる月曜日は開館し、翌日休館。)年末年始(12/28~1/1)。但し12月25日は開館。
料金:一般1300円(1100円)、大学生900円(800円)、高校生400円(300円)・中学生以下無料
*( )内は前売券料金。8月1日から会期前日まで発売。
「美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年」@東京国立近代美術館 2012/10/16~2013/1/14
【展示構成】
・第一部では、当館が収蔵するすべての重要文化財13点(1点寄託)を含む名品を一挙に公開し、日本近代美術100年の流れを概観。
・第二部では、当館が開館し、戦後日本の枠組みができた1950年代に焦点を当て、その時代と美術との関わりを探ります。
【見どころ】
1.当館が収蔵する重要文化財13点全点を一挙に公開。
60年間に築かれたコレクションの厚みと広がりを、名作の数々を通して実感いただきます。
2.60周年を機に所蔵品ギャラリーがリニューアルされます。
4階から2階の展示室(所蔵品ギャラリー)が全面リニューアルされ、本展第一部の会場として初公開されます。
居心地を重視した新たな展示空間で、作品との新鮮な出会いをお楽しみいただきます。
3.当館が誕生した1950年代に焦点を当てた第二部(1階展示室)。
50年代の芸術がもつジャンル横断的な創造性を、映像や資料を交えて検証します。
【展示構成】
・第一部では、当館が収蔵するすべての重要文化財13点(1点寄託)を含む名品を一挙に公開し、日本近代美術100年の流れを概観。
・第二部では、当館が開館し、戦後日本の枠組みができた1950年代に焦点を当て、その時代と美術との関わりを探ります。
【見どころ】
1.当館が収蔵する重要文化財13点全点を一挙に公開。
60年間に築かれたコレクションの厚みと広がりを、名作の数々を通して実感いただきます。
2.60周年を機に所蔵品ギャラリーがリニューアルされます。
4階から2階の展示室(所蔵品ギャラリー)が全面リニューアルされ、本展第一部の会場として初公開されます。
居心地を重視した新たな展示空間で、作品との新鮮な出会いをお楽しみいただきます。
3.当館が誕生した1950年代に焦点を当てた第二部(1階展示室)。
50年代の芸術がもつジャンル横断的な創造性を、映像や資料を交えて検証します。
*以上、リリースより転載。
白髪一雄画の凄まじいまでにインパクトのあるチラシに仰け反った方も多いかもしれません。裏面の「美術にふるえたことがありますか?」のコピーも目を引きました。
チラシにも概要等が記載されているので上記【見どころ】と重なりますが、当然ながら作品はもとより、私として最も期待しているのが、建築家の西沢徹夫氏の協力に基づく展示室の全面リニューアルです。
リニューアルについては5/12からの所蔵作品展のページに案内があります。
「リニューアル、カウントダウン!」(東京国立近代美術館)
*リニューアルのためのプロポーザル(西澤徹夫)
開館60周年を迎える今年、所蔵作品展は、7月30日(月)~10月15日(月)のあいだ一時お休みをいただき、全面的なリニューアルを行います。建築家の西澤徹夫さんと美術館が協同し、より魅力的な展示と、より快適な空間を作る予定です。
*リニューアルのためのプロポーザル(西澤徹夫)
開館60周年を迎える今年、所蔵作品展は、7月30日(月)~10月15日(月)のあいだ一時お休みをいただき、全面的なリニューアルを行います。建築家の西澤徹夫さんと美術館が協同し、より魅力的な展示と、より快適な空間を作る予定です。
西澤氏は既にクレー展などの会場デザインを担当し、その展示に定評があるのは言うまでもありません。ここは注目したいところです。
さてメモリアルの東近美、ともかく既に多様なプロジェクトが進行中です。主なものを以下へ簡単にまとめておきます。
東京国立近代美術館60周年記念サイト
「みんなの東近美」作品人気投票の他、各種対談記事などを掲載。60周年記念事業の核となるサイトです。
開館60周年公式TwitterとFacebookページ
こまめに展示やコレクションの情報をトピックとして更新しています。
2013年1月14日まで「誕生日は無料」
ポロック展の際にも注目されましたが、来年1月14日まで、誕生日当日(要証明書)に限り、企画展を含む美術館の観覧料が無料です。
特殊切手「東京国立近代美術館開館60周年・京都国立近代美術館開館50周年」の発行
発売は6月1日です。東京、京都のコレクションから10点の作品図版が切手化されます。
美術館前庭に「夏の家」をオープン
8月に期間限定で前庭に「夏の家」がオープンします。また8/26~9/8は夜間に特別開館し、パフォーマンス、ダンス、音楽などによる「14の夕べ」イベントが行われます。
開館記念日の12月1日(土)は入館料無料
1952年の12日1日に美術館が開館したことを記念して、同じく12月1日(土)が入場無料(企画展含む)となります。また当日は各種シンポジウムなども予定されています。
「みんなの東近美」作品人気投票の他、各種対談記事などを掲載。60周年記念事業の核となるサイトです。
開館60周年公式TwitterとFacebookページ
こまめに展示やコレクションの情報をトピックとして更新しています。
2013年1月14日まで「誕生日は無料」
ポロック展の際にも注目されましたが、来年1月14日まで、誕生日当日(要証明書)に限り、企画展を含む美術館の観覧料が無料です。
特殊切手「東京国立近代美術館開館60周年・京都国立近代美術館開館50周年」の発行
発売は6月1日です。東京、京都のコレクションから10点の作品図版が切手化されます。
美術館前庭に「夏の家」をオープン
8月に期間限定で前庭に「夏の家」がオープンします。また8/26~9/8は夜間に特別開館し、パフォーマンス、ダンス、音楽などによる「14の夕べ」イベントが行われます。
開館記念日の12月1日(土)は入館料無料
1952年の12日1日に美術館が開館したことを記念して、同じく12月1日(土)が入場無料(企画展含む)となります。また当日は各種シンポジウムなども予定されています。
東近美の所蔵作品展を見て、時に企画特別展を上回るほど充実していると感じたことは一度や二度ではありません。本館の1~4階の全フロアをリニューアルしての一大コレクション展「美術にぶるっ!」、まずは心待ちにしたいと思います。
「美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年」
会場:東京国立近代美術館
会期:2012年10月16日(火)~2013年1月14日(月・祝)
主催:東京国立近代美術館・NHK・NHKプロモーション
時間:午前10時から午後5時。金曜日は午後8時まで開館。(入館は閉館の30分前まで。)
休館:毎週月曜日。(祝日又は振替休日にあたる月曜日は開館し、翌日休館。)年末年始(12/28~1/1)。但し12月25日は開館。
料金:一般1300円(1100円)、大学生900円(800円)、高校生400円(300円)・中学生以下無料
*( )内は前売券料金。8月1日から会期前日まで発売。
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「蕭白ショック!!」後期展示がスタート!
センセーショナルなキャッチコピーでも話題の千葉市美術館の「蕭白ショック!!」。
蕭白画のインパクトこそタイトルの通りであるものの、展覧会自体は前史、及び同時代の画家を踏まえ、蕭白の個性を探ろうとする意欲的でかつ学究的な内容となっています。
「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 千葉市美術館(拙ブログ)
そのような蕭白の全貌を紹介する「蕭白ショック!!」が5月8日より後期展示に突入しました。
「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」出品目録(PDF)
*全ての作品をご覧いただく場合、4/10~4/30と5/8~5/20の両期間に1回ずつご来場ください。 (千葉市美術館サイトより)
前期の際の私の感想にも書きましたが、二つで一つの展覧会です。上記目録を見ても明らかなように出品作の殆どが入れ替わっています。
曾我蕭白「群仙図屏風」文化庁(展示期間:5/2~20)
後期の目玉としては、蕭白の代表作でかつ東博の対決展でも注目を集めた「群仙図屏風」、府中市美術館の山水に遊ぶ展でも印象深かった「月夜山水図屏風」なども挙げられるのではないでしょうか。
また今回のハイライトである三重の旧永島家伝来の障壁画も大半が入れ替わっています。そちらも見逃せません。
実は前期と後期の端境期、GW中に再度、展覧会に出かけて来ましたが、あくまでも一回のみ出かけるのであれば、後期の方がより楽しめるのではないかと思いました。
また蕭白と言えば現在、東京国立博物館で開催中の「ボストン美術館 日本美術の至宝」展でも主役をはっています。
「ボストン美術館 日本美術の至宝」 東京国立博物館(拙ブログ)
こちらでは蕭白の大作11点そろい踏み、中でも「雲龍図」に圧倒された方も多いのではないでしょうか。
「雲龍図」八面 曽我蕭白 江戸時代・宝暦13年(1763) ボストン美術館
*写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影しました。
これほど蕭白に注目が集まったこともそうありません。ここは上野と千葉を跨いで蕭白の世界にどっぷりと浸かりたいところです。
蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち
千葉市美術館、5月20日までの「蕭白ショック!!」展、お見逃しなきようおすすめします。
「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 千葉市美術館
会期:4月10日(火)~ 5月20日(日)
休館:5月1日(火)、5月7日(月)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
蕭白画のインパクトこそタイトルの通りであるものの、展覧会自体は前史、及び同時代の画家を踏まえ、蕭白の個性を探ろうとする意欲的でかつ学究的な内容となっています。
「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 千葉市美術館(拙ブログ)
そのような蕭白の全貌を紹介する「蕭白ショック!!」が5月8日より後期展示に突入しました。
「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」出品目録(PDF)
*全ての作品をご覧いただく場合、4/10~4/30と5/8~5/20の両期間に1回ずつご来場ください。 (千葉市美術館サイトより)
前期の際の私の感想にも書きましたが、二つで一つの展覧会です。上記目録を見ても明らかなように出品作の殆どが入れ替わっています。
曾我蕭白「群仙図屏風」文化庁(展示期間:5/2~20)
後期の目玉としては、蕭白の代表作でかつ東博の対決展でも注目を集めた「群仙図屏風」、府中市美術館の山水に遊ぶ展でも印象深かった「月夜山水図屏風」なども挙げられるのではないでしょうか。
また今回のハイライトである三重の旧永島家伝来の障壁画も大半が入れ替わっています。そちらも見逃せません。
実は前期と後期の端境期、GW中に再度、展覧会に出かけて来ましたが、あくまでも一回のみ出かけるのであれば、後期の方がより楽しめるのではないかと思いました。
また蕭白と言えば現在、東京国立博物館で開催中の「ボストン美術館 日本美術の至宝」展でも主役をはっています。
「ボストン美術館 日本美術の至宝」 東京国立博物館(拙ブログ)
こちらでは蕭白の大作11点そろい踏み、中でも「雲龍図」に圧倒された方も多いのではないでしょうか。
「雲龍図」八面 曽我蕭白 江戸時代・宝暦13年(1763) ボストン美術館
*写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影しました。
これほど蕭白に注目が集まったこともそうありません。ここは上野と千葉を跨いで蕭白の世界にどっぷりと浸かりたいところです。
蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち
千葉市美術館、5月20日までの「蕭白ショック!!」展、お見逃しなきようおすすめします。
「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 千葉市美術館
会期:4月10日(火)~ 5月20日(日)
休館:5月1日(火)、5月7日(月)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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「KATAGAMI Style」 三菱一号館美術館
三菱一号館美術館
「KATAGAMI Style 世界が恋した日本のデザイン」
4/6~5/27
三菱一号館美術館で開催中の「KATAGAMI Style 世界が恋した日本のデザイン」へ行って来ました。
19世紀末より20世紀初頭の西洋美術界を席巻したジャポニスム、その受容の切っ掛けに伝統的な型紙があったことをご存知でしょうか。
ちょうど三菱一号館の旧館が建った19世紀末期、江戸小紋など布地の紋様を染めるための道具、つまり型紙が、西洋へ大量に渡りました。
それを手にした西洋の画家やデザイナーたちは型紙のデザイン性に魅了され、絵画にとどまらず、ガラスや陶磁器などの工芸品、またテキスタイルから家具、建築などの様々な作品に取り入れ、応用していきます。
そうした型紙と当時の西洋美術の関係を探るのが本展覧会の目的です。
構成は以下の通りでした。
第1章 型紙の世界:日本における型紙の歴史とその展開
第2章 型紙とアーツ・アンド・クラフツ:英米圏における型紙受容の諸展開
第3章 型紙とアール・ヌーヴォー:仏語圏における型紙受容の諸展開
第4章 型紙とユーゲントシュティール:独語圏における型紙受容の諸展開
第5章 現代に生きる「KATAGAMI」デザイン:型紙に由来する現代のデザイン
始まりは「型紙のおさらい」です。古くは鎌倉から室町期にはじまり、江戸中期以降、明治初期にかけて全盛期を迎えた型紙ですが、ここでは主に江戸期以降の型紙などを紹介しています。
「黄地霞に枝垂桜と流水草花に飛鳥模様衣装」19世紀 女子美術大学美術館
また目立つのは型紙とも関係の深い沖縄の紅型です。琉球王朝時代の紅型衣装とともに、その型紙なども展示されていました。
さて第2章以降が展覧会の核心です。
章立てからも明らかなように、型紙が各国、各地域でどのように取り入れられたのかを追いかけています。
ここで登場するのはイギリス、もしくはアメリカ、またフランス、ドイツ、そしてそれに対応するアーツ・アンド・クラフツ、アール・ヌーヴォー、ユーゲント・シュティールです。
いっぺんに並べてしまうと分かりにくいかもしれませんが、ようは各地域で型紙受容の展開が変わっていくのかを比較、検討するというわけでした。
ルイス・コンフォート・ティファニーおよび工房「ぶどう文の箱」1905-20年頃 メトロポリタン美術館
例えばイギリスでは主に産業芸術、もしくは装飾芸術の分野で型紙が取り入れられます。
百貨店の商品カタログをはじめ、アメリカではティファニー工房のランプや小箱などのモチーフに型紙のデザインが使われました。
「型紙 菊」 パリ装飾美術館
またピアズリーからワイルドの「サロメ」の挿絵、「クライマックス」に型紙の「菊」がほぼそのまま用いられてるのも見逃せません。
オーブリー・ピアズリー「クライマックス」 文化学園大学図書館
ピアズリーの妖艶な世界と型紙の紋様は不思議にも調和しています。
なお展示では型紙と関連する西洋の作品がほぼ隣合わせになっているのもポイントです。見比べて楽しみ、その変化を分かりやすい形で知ることが出来ました。
フランスのアール・ヌーヴォーにおける型紙は最も「変容」していると言えるのではないでしょうか。
ナビ派のドニの絵画「家族の肖像」に型紙の紋様が取り入れられているとは思いもよりません。またガレ、ラリックなども型紙を基盤に、これまでにはない和様とも言える作品を作りだしました。
ドイツの型紙受容は非常にデザイン的でかつ抽象的です。
「型紙 乱菊」リンデン博物館、シュトゥットガルト
ドレスデンの工芸博物館には世界最大、約1万6千枚もの型紙コレクションがあるそうですが、型紙は当時の工芸改革運動やユーゲントシュティールと密接に結びつき、幅広く展開しました。
ドイツの型紙デザインで目立つのはオールオーバーなモチーフです。
左:アーデルベルト・ニーマイヤー「花器」1907-08年 ニンフェンブルク磁器製作所
右「型紙 瓢箪」ヴュルテンベルク州立博物館、シュトゥットガルト
型紙「瓢箪」からのアーデルベルト・ニーマイヤーの「花器」、また型紙「変り鹿の子」とモーザーの「パン籠」などはその一例ではないでしょうか。
「型紙 変り鹿の子」ハンブルク工芸博物館
型紙からコンポジション絵画までを展開するドイツの高いデザイン力には感心させられました。
コロマン・モーザー「パン籠」1910年 アーゼンバウム・コレクション
ラストは現在の型紙デザインです。三菱一号館お得意のテーブルセット再現展示など、家具調度品などがいくつか紹介されています。
また最後の最後、行き止まりの小部屋が非常にうまく使われていました。こちらは是非会場でご覧下さい。
ジャポニスムの展示はこれまでにも多数ありましたが、型紙にスポットを当てた展示はそうなかったかもしれません。
ペーター・ベーレンス「接吻」1898年 豊田市美術館
意外な切り口から見せる西洋の世紀末芸術、企画力が光る展覧会でした。
GW中に出かけましたが、会場はかなり賑わっていました。また一部時間帯には入場制限もかかっていたようです。作品数もかなりあります。時間に余裕を持ってお出かけください。
展覧会の公式サイトが充実しています。展示内容についての記述も豊富ですが、紋様をダウンロード出来たり、グッズの紹介と盛りだくさんです。あわせてご覧ください。
「KATAGAMI Style 世界が恋した日本のデザイン」公式サイト(@katagami2012)
5月27日までの開催です。 なお本展は東京展終了後、京都国立近代美術館(7/7~8/19)と三重県立美術館(8/28~10/14)へと巡回します。
「KATAGAMI Style 世界が恋した日本のデザイン」 三菱一号館美術館
会期:4月6日(金)~5月27日(日)
休館:毎週月曜日(但し4月30日と5月21日は開館)
時間:10:00~18:00(火・土・日・祝)、10:00~20:00(水・木・金)
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
「KATAGAMI Style 世界が恋した日本のデザイン」
4/6~5/27
三菱一号館美術館で開催中の「KATAGAMI Style 世界が恋した日本のデザイン」へ行って来ました。
19世紀末より20世紀初頭の西洋美術界を席巻したジャポニスム、その受容の切っ掛けに伝統的な型紙があったことをご存知でしょうか。
ちょうど三菱一号館の旧館が建った19世紀末期、江戸小紋など布地の紋様を染めるための道具、つまり型紙が、西洋へ大量に渡りました。
それを手にした西洋の画家やデザイナーたちは型紙のデザイン性に魅了され、絵画にとどまらず、ガラスや陶磁器などの工芸品、またテキスタイルから家具、建築などの様々な作品に取り入れ、応用していきます。
そうした型紙と当時の西洋美術の関係を探るのが本展覧会の目的です。
構成は以下の通りでした。
第1章 型紙の世界:日本における型紙の歴史とその展開
第2章 型紙とアーツ・アンド・クラフツ:英米圏における型紙受容の諸展開
第3章 型紙とアール・ヌーヴォー:仏語圏における型紙受容の諸展開
第4章 型紙とユーゲントシュティール:独語圏における型紙受容の諸展開
第5章 現代に生きる「KATAGAMI」デザイン:型紙に由来する現代のデザイン
始まりは「型紙のおさらい」です。古くは鎌倉から室町期にはじまり、江戸中期以降、明治初期にかけて全盛期を迎えた型紙ですが、ここでは主に江戸期以降の型紙などを紹介しています。
「黄地霞に枝垂桜と流水草花に飛鳥模様衣装」19世紀 女子美術大学美術館
また目立つのは型紙とも関係の深い沖縄の紅型です。琉球王朝時代の紅型衣装とともに、その型紙なども展示されていました。
さて第2章以降が展覧会の核心です。
章立てからも明らかなように、型紙が各国、各地域でどのように取り入れられたのかを追いかけています。
ここで登場するのはイギリス、もしくはアメリカ、またフランス、ドイツ、そしてそれに対応するアーツ・アンド・クラフツ、アール・ヌーヴォー、ユーゲント・シュティールです。
いっぺんに並べてしまうと分かりにくいかもしれませんが、ようは各地域で型紙受容の展開が変わっていくのかを比較、検討するというわけでした。
ルイス・コンフォート・ティファニーおよび工房「ぶどう文の箱」1905-20年頃 メトロポリタン美術館
例えばイギリスでは主に産業芸術、もしくは装飾芸術の分野で型紙が取り入れられます。
百貨店の商品カタログをはじめ、アメリカではティファニー工房のランプや小箱などのモチーフに型紙のデザインが使われました。
「型紙 菊」 パリ装飾美術館
またピアズリーからワイルドの「サロメ」の挿絵、「クライマックス」に型紙の「菊」がほぼそのまま用いられてるのも見逃せません。
オーブリー・ピアズリー「クライマックス」 文化学園大学図書館
ピアズリーの妖艶な世界と型紙の紋様は不思議にも調和しています。
なお展示では型紙と関連する西洋の作品がほぼ隣合わせになっているのもポイントです。見比べて楽しみ、その変化を分かりやすい形で知ることが出来ました。
フランスのアール・ヌーヴォーにおける型紙は最も「変容」していると言えるのではないでしょうか。
ナビ派のドニの絵画「家族の肖像」に型紙の紋様が取り入れられているとは思いもよりません。またガレ、ラリックなども型紙を基盤に、これまでにはない和様とも言える作品を作りだしました。
ドイツの型紙受容は非常にデザイン的でかつ抽象的です。
「型紙 乱菊」リンデン博物館、シュトゥットガルト
ドレスデンの工芸博物館には世界最大、約1万6千枚もの型紙コレクションがあるそうですが、型紙は当時の工芸改革運動やユーゲントシュティールと密接に結びつき、幅広く展開しました。
ドイツの型紙デザインで目立つのはオールオーバーなモチーフです。
左:アーデルベルト・ニーマイヤー「花器」1907-08年 ニンフェンブルク磁器製作所
右「型紙 瓢箪」ヴュルテンベルク州立博物館、シュトゥットガルト
型紙「瓢箪」からのアーデルベルト・ニーマイヤーの「花器」、また型紙「変り鹿の子」とモーザーの「パン籠」などはその一例ではないでしょうか。
「型紙 変り鹿の子」ハンブルク工芸博物館
型紙からコンポジション絵画までを展開するドイツの高いデザイン力には感心させられました。
コロマン・モーザー「パン籠」1910年 アーゼンバウム・コレクション
ラストは現在の型紙デザインです。三菱一号館お得意のテーブルセット再現展示など、家具調度品などがいくつか紹介されています。
また最後の最後、行き止まりの小部屋が非常にうまく使われていました。こちらは是非会場でご覧下さい。
ジャポニスムの展示はこれまでにも多数ありましたが、型紙にスポットを当てた展示はそうなかったかもしれません。
ペーター・ベーレンス「接吻」1898年 豊田市美術館
意外な切り口から見せる西洋の世紀末芸術、企画力が光る展覧会でした。
GW中に出かけましたが、会場はかなり賑わっていました。また一部時間帯には入場制限もかかっていたようです。作品数もかなりあります。時間に余裕を持ってお出かけください。
展覧会の公式サイトが充実しています。展示内容についての記述も豊富ですが、紋様をダウンロード出来たり、グッズの紹介と盛りだくさんです。あわせてご覧ください。
「KATAGAMI Style 世界が恋した日本のデザイン」公式サイト(@katagami2012)
5月27日までの開催です。 なお本展は東京展終了後、京都国立近代美術館(7/7~8/19)と三重県立美術館(8/28~10/14)へと巡回します。
「KATAGAMI Style 世界が恋した日本のデザイン」 三菱一号館美術館
会期:4月6日(金)~5月27日(日)
休館:毎週月曜日(但し4月30日と5月21日は開館)
時間:10:00~18:00(火・土・日・祝)、10:00~20:00(水・木・金)
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
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「福田平八郎と日本画モダン」展でフォトコンテスト開催!
トリミングの極致、福田平八郎の「雨」を大胆に用いたチラシでも話題の「福田平八郎と日本画モダン」展。
いよいよ今月26日より山種美術館で開催されますが、それにあわせて同館初、誰でも応募可能な「フォトコンテスト」が始まりました。
応募方法は3つ。まず一番簡単なのはfacebook上の特設ページに写真を投稿することです。
「福田平八郎と日本画モダン」フォトコンテスト応募ページ
審査員は同館の山崎館長と顧問の山下先生、さらにジャーナリストのフクヘンさんこと鈴木さんです。会期中、上記ページに投稿作品が全て掲載された上、会期終了後、お三方によって選定されたグランプリ以下、計4つの賞が授与されます。
受賞者には美術館オリジナルの「すてき」な賞品をプレゼントしていただけるとか。福田平八郎と言えば晩年の斬新極まりない構図、また半ばデザイン的な感覚が評価されるところですが、その辺を考慮しながら写真を撮影、また投稿すると良いのかもしれません。
福田平八郎「筍」1947年 山種美術館
当然ながらモチーフは風景云々を問いません。私も最近は拙いながらインスタグラムなど、写真に接する機会がとても増えましたが、これからは平八郎イメージを頭に入れながらシャッターを切ってみようと思います。
またfacebookをお持ちでない方は郵送、もしくはメールでの応募も出来ます。詳しくは下記リンク先、美術館のサイトをご参照下さい。
「福田平八郎と日本画モダン」展の関連企画 フォトコンテスト開催のお知らせ
福田平八郎「漣」1932年 大阪市立近代美術館建設準備室
なお移転後、展示以外でも意欲的な企画の続く同美術館ですが、本展でもこれまたおそらくは同館初となる「展示対談・解説動画」をWEB上で配信しています。
軽妙な語り口ながらも平八郎の魅力を鋭く抉った見応えのある内容です。こちらも是非ご覧ください。
前にも書いたことがありますが、福田平八郎は京都国立近代美術館での回顧展(2005年)に接して以来、私にとっては忘れられない画家の一人となりました。
前田青邨「おぼこ」1944年 東京国立近代美術館
また今回の山種の展示では関連の画家も紹介しながら、同時代の「モダン」な日本画の諸相を追う内容となるそうです。心待ちにしたいと思います。
そう言えば今月の山種美術館のカレンダーは福田平八郎の「芥子花」でした。
応募期限は展覧会終了日の7月22日(日)までです。この滅多にない美術館主催のコンテスト企画、まずは奮ってご応募下さい!
「特別展 生誕120年 福田平八郎と日本画モダン」
会期:2012年5月26日(土)~7月22日(日) *前期(5/26~6/24)、後期(6/26~7/22)
会場:山種美術館
主催:山種美術館・日本経済新聞社
時間:午前10時から午後5時(入館は4時30分まで)
休館:月曜日(但し7/16は開館、翌火曜日は休館)
料金:一般1200円(1000円)・大高生900円(800円)・中学生以下無料
*( )内は20名以上の団体料金、および前売り料金。
*障害者手帳、被爆者手帳をご提示の方、およびその介助者(1名)は無料。
【参考エントリ】(開催中のさくら展については以下のリンク先にまとめてあります。)
「桜・さくら・SAKURA 2012」 山種美術館(~5/20)
いよいよ今月26日より山種美術館で開催されますが、それにあわせて同館初、誰でも応募可能な「フォトコンテスト」が始まりました。
「福田平八郎と日本画モダン」展の関連企画として、下記のとおりフォトコンテストを開催いたします。
平八郎は、身近な風景や自然、都市のなかにあるモティーフを大胆に切り取り、斬新で近代的な感覚で表現しています。なにげない日常の中にも美を見出す平八郎的視点で、「モダン」な写真を撮影してみませんか?あなたの個性あふれる写真をお待ちしています。
受賞者には、すてきな賞品をプレゼントいたします。ふるってご応募ください!
平八郎は、身近な風景や自然、都市のなかにあるモティーフを大胆に切り取り、斬新で近代的な感覚で表現しています。なにげない日常の中にも美を見出す平八郎的視点で、「モダン」な写真を撮影してみませんか?あなたの個性あふれる写真をお待ちしています。
受賞者には、すてきな賞品をプレゼントいたします。ふるってご応募ください!
応募方法は3つ。まず一番簡単なのはfacebook上の特設ページに写真を投稿することです。
「福田平八郎と日本画モダン」フォトコンテスト応募ページ
審査員は同館の山崎館長と顧問の山下先生、さらにジャーナリストのフクヘンさんこと鈴木さんです。会期中、上記ページに投稿作品が全て掲載された上、会期終了後、お三方によって選定されたグランプリ以下、計4つの賞が授与されます。
グランプリ:平八郎賞=1名
審査員特別賞:山下裕二賞、フクヘン賞、山種美術館館長賞=各1名
優秀賞:ポピュラー賞=1名
入選:奨励賞=50名
審査員特別賞:山下裕二賞、フクヘン賞、山種美術館館長賞=各1名
優秀賞:ポピュラー賞=1名
入選:奨励賞=50名
受賞者には美術館オリジナルの「すてき」な賞品をプレゼントしていただけるとか。福田平八郎と言えば晩年の斬新極まりない構図、また半ばデザイン的な感覚が評価されるところですが、その辺を考慮しながら写真を撮影、また投稿すると良いのかもしれません。
福田平八郎「筍」1947年 山種美術館
当然ながらモチーフは風景云々を問いません。私も最近は拙いながらインスタグラムなど、写真に接する機会がとても増えましたが、これからは平八郎イメージを頭に入れながらシャッターを切ってみようと思います。
またfacebookをお持ちでない方は郵送、もしくはメールでの応募も出来ます。詳しくは下記リンク先、美術館のサイトをご参照下さい。
「福田平八郎と日本画モダン」展の関連企画 フォトコンテスト開催のお知らせ
福田平八郎「漣」1932年 大阪市立近代美術館建設準備室
なお移転後、展示以外でも意欲的な企画の続く同美術館ですが、本展でもこれまたおそらくは同館初となる「展示対談・解説動画」をWEB上で配信しています。
軽妙な語り口ながらも平八郎の魅力を鋭く抉った見応えのある内容です。こちらも是非ご覧ください。
前にも書いたことがありますが、福田平八郎は京都国立近代美術館での回顧展(2005年)に接して以来、私にとっては忘れられない画家の一人となりました。
前田青邨「おぼこ」1944年 東京国立近代美術館
また今回の山種の展示では関連の画家も紹介しながら、同時代の「モダン」な日本画の諸相を追う内容となるそうです。心待ちにしたいと思います。
そう言えば今月の山種美術館のカレンダーは福田平八郎の「芥子花」でした。
応募期限は展覧会終了日の7月22日(日)までです。この滅多にない美術館主催のコンテスト企画、まずは奮ってご応募下さい!
「特別展 生誕120年 福田平八郎と日本画モダン」
会期:2012年5月26日(土)~7月22日(日) *前期(5/26~6/24)、後期(6/26~7/22)
会場:山種美術館
主催:山種美術館・日本経済新聞社
時間:午前10時から午後5時(入館は4時30分まで)
休館:月曜日(但し7/16は開館、翌火曜日は休館)
料金:一般1200円(1000円)・大高生900円(800円)・中学生以下無料
*( )内は20名以上の団体料金、および前売り料金。
*障害者手帳、被爆者手帳をご提示の方、およびその介助者(1名)は無料。
【参考エントリ】(開催中のさくら展については以下のリンク先にまとめてあります。)
「桜・さくら・SAKURA 2012」 山種美術館(~5/20)
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「東洋絵画の精華 珠玉の日本絵画コレクション」 静嘉堂文庫美術館
静嘉堂文庫美術館
「受け継がれる東洋の至宝 Part1 東洋絵画の精華 - 名品でたどる美の軌跡 珠玉の日本絵画コレクション」
4/14-5/20
静嘉堂文庫美術館で開催中の「受け継がれる東洋の至宝 Part1 東洋絵画の精華 - 名品でたどる美の軌跡」へ行ってきました。
古くは三菱第二代社長、岩崎弥之助が明治時代に設立し、現在に至るまで約20万冊の古典籍、及び約6500点の東洋美術品を所蔵する静嘉堂文庫美術館。
武蔵野の面影を残す世田谷の小高い丘の上に建つ美術館ですが、創設120周年を記念して、そのお宝の一部を順に公開する展覧会が行われています。
と言ってもご存知の通り静嘉堂文庫には広い展示スペースがありません。よって年度の会期を5つに分けています。
現会期はpart1.の前期、つまり日本絵画です。鎌倉・南北朝期の仏画にはじまり、室町水墨画、そして琳派を中心とする江戸絵画、さらには今、東博のボストン美術館展でも話題の「平治物語絵巻」から別巻の「信西巻」など、約30点ほどの作品が展示されていました。
「平治物語絵巻 信西巻」(部分)鎌倉時代 重要文化財
さて冒頭でお出迎えしてくれるのは、その「平治物語絵巻」から「信西巻」です。スペースの都合もあるか、途中2回の巻替えを挟んでの場面展示となっています。
私が出向いた際は第2期、つまりは第2段と第3段における信西の自害からの場面でしたが、この絵巻ならではの軽快な筆と臨場感に溢れる表現を見ることが出来るのではないでしょうか。
とりわけ生々しいのが、自害して果て、埋められた信西を追っ手が掘り出し、首を切り落とす光景です。既に首は半分切り落されたのか、ぶらぶらと垂れています。
「平治物語絵巻 信西巻」(部分)鎌倉時代 重要文化財
同絵巻ではボストン本の「三条殿夜討巻」も刀を振りかざして争う人々、また傷口から噴き出す鮮血などの描写に強い迫真性を感じましたが、それは「信西巻」も同様でした。
「住吉物語絵巻」(部分)鎌倉時代 重要文化財
また絵巻ではもう一点、「住吉物語絵巻」も忘れられません。(途中一度、5/7に巻替えあり。)姫君たちの十二単の色鮮やかな描写には目を奪われるのではないでしょうか。朱と緑青の彩色の状態は驚くほどに良好でした。
さて出品作のいずれもが重文、もしくは重要美術品指定を受けている仏画にお宝続出です。中でも最も惹かれたのが「弁財天像」でした。
「弁財天像」南北朝時代 重要文化財
左に迫る滝、そして右奥へ抜ける海、そして前景で下から力強くせり上がる岩の三次元的な構図の妙味はもとより、肉眼では確認しえないほど細密な筆によって描かれた弁財天の流麗さには言葉を失いました。
なおこの作品しかり、仏画の細部を楽しむには単眼鏡があった方が良いかもしれません。持参されることをおすすめします。
伝周文「四季山水図屏風」(右隻) 室町時代 重要文化財
さて室町水墨画では、六曲一双の大空間の中に雄大な自然の広がる伝周文の「四季山水図屏風」に注目が集まるのではないでしょうか。
縦に伸びる岩山と木が横へ伸びる空間と交わります。下方の水辺から山々を超え、上部の空へと広がる余白には大気を感じました。
さて江戸絵画でまず嬉しいのは板橋の回顧展が未だ忘れられない英一蝶から優品、「朝とん曳馬図」が展示されていたことです。
英一蝶「朝とん暾曵馬図」 江戸時代
夕日を瀬に、橋の上を童が馬をひく様子が示されていますが、水面にはその写しが影絵のように描かれているではありませんか。一蝶ならではの軽妙な筆致の醸し出す叙情的な味わいには見惚れました。
さて今回、GW期間中に静嘉堂文庫へ出かけたのは訳があります。
それは紛れもなく我らの酒井抱一の「波図屏風」が5/6で展示を終えてしまうからです。
六曲一双に得意とする銀地へ力強い波を描いた本作、とかく優美や繊細で語られる機会の多い抱一画では異色の作品と言えるのではないでしょうか。基準作とも言われるメトロポリタンの光琳作との類似点は殆どありません。
酒井抱一「波図屏風」(右隻) 江戸時代 *展示期間:4/14~5/6
また波は墨のみで描かれているように見えますが、実は波頭には白が、また波間には仄かな藍が混じっている点も重要です。月明かりの元、まさに巨大な触手のような波が荒れ狂っていました。
そして抱一ではもう一点、「絵手鏡」も見逃せません。こちらは全72図ということで、やはり会期中に場面替えが行われますが、それでも16面も一挙に展示されています。
酒井抱一「絵手鏡 朝顔」江戸時代
本作を見るとともかく抱一が多様な画風、それこそ大和絵から狩野派、また若冲画から光琳を踏まえた琳派をいかによく吸収していたのが分かるのではないでしょうか。
また嬉しいのが、展示された以外の面の図版を作品横のデジタル端末で紹介していたことです。そちらを追うことで絵手鏡の全面を楽しむことが出来ました。
また江戸絵画では渡辺華山の二点も超名作と言えるかもしれません。
渡辺崋山「芸妓図」江戸時代 重要文化財
透けた扇子を口元によせ、手をついてふと横を見やる「芸妓図」の斜めの構図を見ると、不思議と安井曾太郎の「金蓉」を思い出しました。華山画にはどこか近代絵画を予兆させるようなリアリティーと斬新さがありますが、それは本作でより強く感じられるかもしれません。
国貞、豊国の錦絵も驚くべく発色です。また特別出品の国宝「倭漢朗詠妙 太田切」の唐紙、特に金泥の草花や鳥の紋様の美しさには思わず息をのんでしまいました。
受付でチケットを購入すると、出品作の大多数の図版を網羅したリーフレットをいただけました。何かと重宝しそうです。
また後期、5/23からのPart2では中国絵画のコレクションが出品されます。
一度に見られる数は少ないのは事実ですが、これほど粒の揃った名品揃いの展覧会も滅多にありません。今年度は何とかPart2、Part3と追いかけて、静嘉堂文庫の「至宝」シリーズをコンプリートしたいと思います。
「受け継がれる東洋の至宝 Part1 東洋絵画の精華 - 名品でたどる美の軌跡」、前期の「珠玉の日本絵画コレクション」は5月20日まで開催されています。
「受け継がれる東洋の至宝 Part1 東洋絵画の精華 - 名品でたどる美の軌跡 珠玉の日本絵画コレクション」 静嘉堂文庫美術館
会期:4月14日(土)~5月20日(日)
休館:月曜日。但し4月30日は開館。5月1日。
時間:9:30~16:30(入館は閉館の30分前まで)
住所:世田谷区岡本2-23-1
交通:東急田園都市線二子玉川駅より東急コーチバス「玉31・32系統」で「静嘉堂文庫」下車(乗車時間約10分。)。バス停より徒歩5分。
「受け継がれる東洋の至宝 Part1 東洋絵画の精華 - 名品でたどる美の軌跡 珠玉の日本絵画コレクション」
4/14-5/20
静嘉堂文庫美術館で開催中の「受け継がれる東洋の至宝 Part1 東洋絵画の精華 - 名品でたどる美の軌跡」へ行ってきました。
古くは三菱第二代社長、岩崎弥之助が明治時代に設立し、現在に至るまで約20万冊の古典籍、及び約6500点の東洋美術品を所蔵する静嘉堂文庫美術館。
武蔵野の面影を残す世田谷の小高い丘の上に建つ美術館ですが、創設120周年を記念して、そのお宝の一部を順に公開する展覧会が行われています。
と言ってもご存知の通り静嘉堂文庫には広い展示スペースがありません。よって年度の会期を5つに分けています。
「静嘉堂文庫創設120周年・美術館開館20周年記念:受け継がれる東洋の至宝」
Part1.「東洋絵画の精華:名品でたどる美の軌跡」
【前期】珠玉の日本絵画コレクション 4月14日(土)~5月20日(日)
【後期】至高の中国絵画コレクション 5月23日(水)~6月24日(日)
Part2.「岩崎弥之助のまなざし:古典籍と明治の美術」9月22日(土)~11月25日(日)
Part3.「曜変・油滴天目:茶道具名品展」2013年1月22日(火)~3月24日(日)
Part1.「東洋絵画の精華:名品でたどる美の軌跡」
【前期】珠玉の日本絵画コレクション 4月14日(土)~5月20日(日)
【後期】至高の中国絵画コレクション 5月23日(水)~6月24日(日)
Part2.「岩崎弥之助のまなざし:古典籍と明治の美術」9月22日(土)~11月25日(日)
Part3.「曜変・油滴天目:茶道具名品展」2013年1月22日(火)~3月24日(日)
現会期はpart1.の前期、つまり日本絵画です。鎌倉・南北朝期の仏画にはじまり、室町水墨画、そして琳派を中心とする江戸絵画、さらには今、東博のボストン美術館展でも話題の「平治物語絵巻」から別巻の「信西巻」など、約30点ほどの作品が展示されていました。
「平治物語絵巻 信西巻」(部分)鎌倉時代 重要文化財
さて冒頭でお出迎えしてくれるのは、その「平治物語絵巻」から「信西巻」です。スペースの都合もあるか、途中2回の巻替えを挟んでの場面展示となっています。
第1期(4/14~4/26):信西追捕の詮議と信西自害の場面
第2期(4/27~5/8):信西自害から首実検までの場面
第3期(5/9~5/20):都大路の武者行列と西獄門の場面
第2期(4/27~5/8):信西自害から首実検までの場面
第3期(5/9~5/20):都大路の武者行列と西獄門の場面
私が出向いた際は第2期、つまりは第2段と第3段における信西の自害からの場面でしたが、この絵巻ならではの軽快な筆と臨場感に溢れる表現を見ることが出来るのではないでしょうか。
とりわけ生々しいのが、自害して果て、埋められた信西を追っ手が掘り出し、首を切り落とす光景です。既に首は半分切り落されたのか、ぶらぶらと垂れています。
「平治物語絵巻 信西巻」(部分)鎌倉時代 重要文化財
同絵巻ではボストン本の「三条殿夜討巻」も刀を振りかざして争う人々、また傷口から噴き出す鮮血などの描写に強い迫真性を感じましたが、それは「信西巻」も同様でした。
「住吉物語絵巻」(部分)鎌倉時代 重要文化財
また絵巻ではもう一点、「住吉物語絵巻」も忘れられません。(途中一度、5/7に巻替えあり。)姫君たちの十二単の色鮮やかな描写には目を奪われるのではないでしょうか。朱と緑青の彩色の状態は驚くほどに良好でした。
さて出品作のいずれもが重文、もしくは重要美術品指定を受けている仏画にお宝続出です。中でも最も惹かれたのが「弁財天像」でした。
「弁財天像」南北朝時代 重要文化財
左に迫る滝、そして右奥へ抜ける海、そして前景で下から力強くせり上がる岩の三次元的な構図の妙味はもとより、肉眼では確認しえないほど細密な筆によって描かれた弁財天の流麗さには言葉を失いました。
なおこの作品しかり、仏画の細部を楽しむには単眼鏡があった方が良いかもしれません。持参されることをおすすめします。
伝周文「四季山水図屏風」(右隻) 室町時代 重要文化財
さて室町水墨画では、六曲一双の大空間の中に雄大な自然の広がる伝周文の「四季山水図屏風」に注目が集まるのではないでしょうか。
縦に伸びる岩山と木が横へ伸びる空間と交わります。下方の水辺から山々を超え、上部の空へと広がる余白には大気を感じました。
さて江戸絵画でまず嬉しいのは板橋の回顧展が未だ忘れられない英一蝶から優品、「朝とん曳馬図」が展示されていたことです。
英一蝶「朝とん暾曵馬図」 江戸時代
夕日を瀬に、橋の上を童が馬をひく様子が示されていますが、水面にはその写しが影絵のように描かれているではありませんか。一蝶ならではの軽妙な筆致の醸し出す叙情的な味わいには見惚れました。
さて今回、GW期間中に静嘉堂文庫へ出かけたのは訳があります。
それは紛れもなく我らの酒井抱一の「波図屏風」が5/6で展示を終えてしまうからです。
六曲一双に得意とする銀地へ力強い波を描いた本作、とかく優美や繊細で語られる機会の多い抱一画では異色の作品と言えるのではないでしょうか。基準作とも言われるメトロポリタンの光琳作との類似点は殆どありません。
酒井抱一「波図屏風」(右隻) 江戸時代 *展示期間:4/14~5/6
また波は墨のみで描かれているように見えますが、実は波頭には白が、また波間には仄かな藍が混じっている点も重要です。月明かりの元、まさに巨大な触手のような波が荒れ狂っていました。
そして抱一ではもう一点、「絵手鏡」も見逃せません。こちらは全72図ということで、やはり会期中に場面替えが行われますが、それでも16面も一挙に展示されています。
酒井抱一「絵手鏡 朝顔」江戸時代
本作を見るとともかく抱一が多様な画風、それこそ大和絵から狩野派、また若冲画から光琳を踏まえた琳派をいかによく吸収していたのが分かるのではないでしょうか。
また嬉しいのが、展示された以外の面の図版を作品横のデジタル端末で紹介していたことです。そちらを追うことで絵手鏡の全面を楽しむことが出来ました。
また江戸絵画では渡辺華山の二点も超名作と言えるかもしれません。
渡辺崋山「芸妓図」江戸時代 重要文化財
透けた扇子を口元によせ、手をついてふと横を見やる「芸妓図」の斜めの構図を見ると、不思議と安井曾太郎の「金蓉」を思い出しました。華山画にはどこか近代絵画を予兆させるようなリアリティーと斬新さがありますが、それは本作でより強く感じられるかもしれません。
国貞、豊国の錦絵も驚くべく発色です。また特別出品の国宝「倭漢朗詠妙 太田切」の唐紙、特に金泥の草花や鳥の紋様の美しさには思わず息をのんでしまいました。
受付でチケットを購入すると、出品作の大多数の図版を網羅したリーフレットをいただけました。何かと重宝しそうです。
また後期、5/23からのPart2では中国絵画のコレクションが出品されます。
一度に見られる数は少ないのは事実ですが、これほど粒の揃った名品揃いの展覧会も滅多にありません。今年度は何とかPart2、Part3と追いかけて、静嘉堂文庫の「至宝」シリーズをコンプリートしたいと思います。
「受け継がれる東洋の至宝 Part1 東洋絵画の精華 - 名品でたどる美の軌跡」、前期の「珠玉の日本絵画コレクション」は5月20日まで開催されています。
「受け継がれる東洋の至宝 Part1 東洋絵画の精華 - 名品でたどる美の軌跡 珠玉の日本絵画コレクション」 静嘉堂文庫美術館
会期:4月14日(土)~5月20日(日)
休館:月曜日。但し4月30日は開館。5月1日。
時間:9:30~16:30(入館は閉館の30分前まで)
住所:世田谷区岡本2-23-1
交通:東急田園都市線二子玉川駅より東急コーチバス「玉31・32系統」で「静嘉堂文庫」下車(乗車時間約10分。)。バス停より徒歩5分。
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「大エルミタージュ美術館展」 国立新美術館
国立新美術館
「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」
4/25-7/16
国立新美術館で開催中の「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」のプレスプレビューに参加してきました。
かつてはエカチェリーナ2世が直接美術品を収集し、現在は約300万点にも及ぶ作品を所有するというロシア・サンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館。
コレクションは時に「美の百科事典」とまで称されることもあるそうですが、今、その中から選ばれた約90点の絵画が国立新美術館へとやって来ています。
右:ピエール=ナルシス・ゲラン「モルフェウスとイリス」1811年
左:ルイ=レオポール・ボワイー「ビリヤード」1807年
展覧会の構成は以下の通りでした。
1.16世紀 ルネサンス:人間の世紀
2.17世紀 バロック:黄金の世紀
3.18世紀 ロココと新古典派:革命の世紀
4.19世紀 ロマン派からポスト印象派まで:進化する世紀
5.20世紀 マティスとその周辺:アヴァンギャルドの世紀
古くは16世紀のルネサンス絵画に始まり、バロック、ロココから印象派、そして20世紀のマティスやピカソへと進む流れとなっています。約400年の西洋絵画の歴史を一挙に辿ることが出来ました。
現地では常設として展示されている作品も多いということで、まさに選りすぐりのエルミタージュ展と言えますが、その分、見どころも非常に多岐にわたっています。
右:ソフォニスバ・アングィソーラ「若い女性の肖像」16世紀末
左:ジュリオ・カンビ「男の肖像」16世紀前半
冒頭、ルネサンスで一目惚れしたのがソフォニスバ・アングィソーラの「若い女性の肖像」です。頭部を横に曲げた肖像の構図は当時としてやや珍しいそうですが、ともかくも細部、首飾りや服のレースが極めて精緻に描かれています。
当初、ナポレオンの妻の所蔵品だった時、モデルはマティルダ王妃だとされていましたが、確かに品格のある様相は絵画からもよく伝わってきました。
またルネサンスではもう一つ、スケドーニの2作品にも要注目です。
バルトロメオ・スケドーニ「風景の中のクピド」16世紀末-17世紀初め
Photo: The State Hermitage Museum, St. Petersburg, 2012
ともかくスケドーニといえばかつての西美のパルマ展で見た「キリストの墓の前のアリアたち」が忘れられませんが、国内では展示機会の少ないスケドーニを見られただけでも来た甲斐があったというものではないでしょうか。
また現在、Bunkamuraで開催中の「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想」でも多く出ている通称モナリザ・モチーフ、レオナルド・ダ・ヴィンチ派の「裸婦」も展示されていました。
バロックへ進むと西美の常設でもお馴染みのテニールスから「厨房の猿」が目を引きます。
右:ダーフィト・テニールス(2世)「厨房の猿」1640年代半ば
左:ダーフィト・ライカールト(3世)「農婦と猫」1640年代
文字通り、画中に描かれているのは全て猿ですが、中にはリンゴをおもむろに取っていたり、また一匹だけ高い場所にいたりと、人間の原罪や社会的序列を示唆する、寓話、また教訓的な意味合いをも持ち得ているそうです。
レンブラント・ファン・レイン「老婦人の肖像」1654年
Photo: The State Hermitage Museum, St. Petersburg, 2012
また思わず足を止めて見入ったのはレンブラントの「老婦人の肖像」でした。いわゆる工房作であるとの議論もあり、帰属に関しては確定していませんが、それでも女性の哀愁に満ちた表情、そして何よりも年期を重ねたゴツゴツとした手、またその重みは圧倒的だと言えるのではないでしょうか。
さらにレンブラントの闇ならぬ、画中の光と影の表現で素晴らしいのは、クロード=ジョゼフ=ヴェルネの「月夜」とライト・オブ・ダービーの「外から見た鍛冶屋の光景」に他なりません。
左:クロード=ジョゼフ=ヴェルネ「パレルモ港の入口、月夜」1769年
ヴェルネはエカチェリーナ2世在位当時、名声の頂点を極めたそうですが、この神々しいまでの月明かり、そして明晰な風景描写には素直にひかれます。
ライト・オブ・ダービー(本名ジョゼフ・ライト)「外から見た鍛冶屋の光景」1773年
Photo: The State Hermitage Museum, St. Petersburg, 2012
またダービーの明暗の対比表現はさらに鮮烈です。背景の月明かりはあくまでも淡く描かれている一方、手前の鍛冶場は煌煌と灯り、白く放たれた光は人々の顔に反射して当たっていました。
さて印象派の時代に入って嬉しいのは、偏愛のシスレーから一点、「ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌ風景」が展示されていたことです。
右:クロード・モネ「霧のウォータールー橋」1903年
左:アルフレッド・シスレー「ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌ風景」1872年
得意とする枝垂れの木立、そして緑を照らした明るい水面、また岸辺の家々へ溶け込むかのように配された人物などは、まさにシスレーならではの巧みな風景描写と言えるのではないでしょうか。ちなみにエルミタージュには同じ地点から描いたシスレー作が3点ほどあるそうです。いずれはそちらも拝見出来ればと思いました。
ポール・セザンヌ「カーテンのある静物」1894頃-1895年
Photo: The State Hermitage Museum, St. Petersburg, 2012
また印象派、後期印象派ではセザンヌの「カーテンのある静物」も見どころの一つになるかもしれません。
右:ジョヴァンニ・パオロ・パニーニ「ローマの廃墟で説教する聖パウロ」1744年
左:ユベール・ロベール「古代ローマの公衆浴場跡」1798年
奇しくも国立新美術館ではセザンヌ展が行われていますが、先に触れたモナリザ・モチーフの裸婦像や、西美で回顧展を開催中のユベール・ロベールなど、この展覧会では今、他で話題の画家を美術史の文脈の中に置くことが出来ます。その辺も楽しみ方の一つとなりそうです。
20世紀に入ると衝撃の一枚と出会いました。それが日本では約30年ぶりの公開となったアンリ・マティスの「赤い部屋(赤のハーモニー)」です。
「マティスの絵本/結城昌子/小学館」
諸事情により図版、写真が載せられないのが残念ですが、ともかくその魔力的なまでな赤にぐっと心掴まれる方も多いのではないでしょうか。そして紋様的でかつ平面性を帯びた空間表現はいかにもマティスと言ったところですが、これ一点だけでも行く価値があるとしても過言ではありません。
ちなみにこの作品を前にして、2005年、都美館のプーシキン展での「赤い金魚」を見た時に強い感銘を受けたことを思い出しました。以来、マティスは私にとって非常に重要な画家の一人となりましたが、その時と同じくらいの強烈なマティス体験です。ここは痺れました。
会場展示風景
会期中、各種講演の他、映画の上映会が行われます。
嬉しいことに全て観覧券があれば無料です。監修の千足先生や「怖い絵」でもお馴染みの中野先生の講演会は特に注目を集めそうです。
ミュージアムショップで人気なのはチェブラーシカです。もちろんこの展覧会のオリジナルグッズもあります。
ミュージアムショップ
またチェブラーシカでは専用ポストも見逃せません。会場出口にあるポストへ投函すると何とチェブラーシカの消印をおしていただけます。
会場特設「チェブラーシカ消印ポスト」
GW以降はかなり混雑してくるのではないでしょうか。大型展は何事も早めがベストです。また毎週金曜日は20時まで(入館は30分前まで)開館しています。
「すぐわかる西洋絵画よみとき66のキーワード/千足伸行/東京美術」
7月16日まで開催されています。
「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」 国立新美術館
会期:4月25日(水)~7月16日(月・祝)
休館:火曜日。但し5月1日は開館。
時間:10:00~18:00 *金曜日は20時まで開館。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」
4/25-7/16
国立新美術館で開催中の「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」のプレスプレビューに参加してきました。
かつてはエカチェリーナ2世が直接美術品を収集し、現在は約300万点にも及ぶ作品を所有するというロシア・サンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館。
コレクションは時に「美の百科事典」とまで称されることもあるそうですが、今、その中から選ばれた約90点の絵画が国立新美術館へとやって来ています。
右:ピエール=ナルシス・ゲラン「モルフェウスとイリス」1811年
左:ルイ=レオポール・ボワイー「ビリヤード」1807年
展覧会の構成は以下の通りでした。
1.16世紀 ルネサンス:人間の世紀
2.17世紀 バロック:黄金の世紀
3.18世紀 ロココと新古典派:革命の世紀
4.19世紀 ロマン派からポスト印象派まで:進化する世紀
5.20世紀 マティスとその周辺:アヴァンギャルドの世紀
古くは16世紀のルネサンス絵画に始まり、バロック、ロココから印象派、そして20世紀のマティスやピカソへと進む流れとなっています。約400年の西洋絵画の歴史を一挙に辿ることが出来ました。
現地では常設として展示されている作品も多いということで、まさに選りすぐりのエルミタージュ展と言えますが、その分、見どころも非常に多岐にわたっています。
右:ソフォニスバ・アングィソーラ「若い女性の肖像」16世紀末
左:ジュリオ・カンビ「男の肖像」16世紀前半
冒頭、ルネサンスで一目惚れしたのがソフォニスバ・アングィソーラの「若い女性の肖像」です。頭部を横に曲げた肖像の構図は当時としてやや珍しいそうですが、ともかくも細部、首飾りや服のレースが極めて精緻に描かれています。
当初、ナポレオンの妻の所蔵品だった時、モデルはマティルダ王妃だとされていましたが、確かに品格のある様相は絵画からもよく伝わってきました。
またルネサンスではもう一つ、スケドーニの2作品にも要注目です。
バルトロメオ・スケドーニ「風景の中のクピド」16世紀末-17世紀初め
Photo: The State Hermitage Museum, St. Petersburg, 2012
ともかくスケドーニといえばかつての西美のパルマ展で見た「キリストの墓の前のアリアたち」が忘れられませんが、国内では展示機会の少ないスケドーニを見られただけでも来た甲斐があったというものではないでしょうか。
また現在、Bunkamuraで開催中の「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想」でも多く出ている通称モナリザ・モチーフ、レオナルド・ダ・ヴィンチ派の「裸婦」も展示されていました。
バロックへ進むと西美の常設でもお馴染みのテニールスから「厨房の猿」が目を引きます。
右:ダーフィト・テニールス(2世)「厨房の猿」1640年代半ば
左:ダーフィト・ライカールト(3世)「農婦と猫」1640年代
文字通り、画中に描かれているのは全て猿ですが、中にはリンゴをおもむろに取っていたり、また一匹だけ高い場所にいたりと、人間の原罪や社会的序列を示唆する、寓話、また教訓的な意味合いをも持ち得ているそうです。
レンブラント・ファン・レイン「老婦人の肖像」1654年
Photo: The State Hermitage Museum, St. Petersburg, 2012
また思わず足を止めて見入ったのはレンブラントの「老婦人の肖像」でした。いわゆる工房作であるとの議論もあり、帰属に関しては確定していませんが、それでも女性の哀愁に満ちた表情、そして何よりも年期を重ねたゴツゴツとした手、またその重みは圧倒的だと言えるのではないでしょうか。
さらにレンブラントの闇ならぬ、画中の光と影の表現で素晴らしいのは、クロード=ジョゼフ=ヴェルネの「月夜」とライト・オブ・ダービーの「外から見た鍛冶屋の光景」に他なりません。
左:クロード=ジョゼフ=ヴェルネ「パレルモ港の入口、月夜」1769年
ヴェルネはエカチェリーナ2世在位当時、名声の頂点を極めたそうですが、この神々しいまでの月明かり、そして明晰な風景描写には素直にひかれます。
ライト・オブ・ダービー(本名ジョゼフ・ライト)「外から見た鍛冶屋の光景」1773年
Photo: The State Hermitage Museum, St. Petersburg, 2012
またダービーの明暗の対比表現はさらに鮮烈です。背景の月明かりはあくまでも淡く描かれている一方、手前の鍛冶場は煌煌と灯り、白く放たれた光は人々の顔に反射して当たっていました。
さて印象派の時代に入って嬉しいのは、偏愛のシスレーから一点、「ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌ風景」が展示されていたことです。
右:クロード・モネ「霧のウォータールー橋」1903年
左:アルフレッド・シスレー「ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌ風景」1872年
得意とする枝垂れの木立、そして緑を照らした明るい水面、また岸辺の家々へ溶け込むかのように配された人物などは、まさにシスレーならではの巧みな風景描写と言えるのではないでしょうか。ちなみにエルミタージュには同じ地点から描いたシスレー作が3点ほどあるそうです。いずれはそちらも拝見出来ればと思いました。
ポール・セザンヌ「カーテンのある静物」1894頃-1895年
Photo: The State Hermitage Museum, St. Petersburg, 2012
また印象派、後期印象派ではセザンヌの「カーテンのある静物」も見どころの一つになるかもしれません。
右:ジョヴァンニ・パオロ・パニーニ「ローマの廃墟で説教する聖パウロ」1744年
左:ユベール・ロベール「古代ローマの公衆浴場跡」1798年
奇しくも国立新美術館ではセザンヌ展が行われていますが、先に触れたモナリザ・モチーフの裸婦像や、西美で回顧展を開催中のユベール・ロベールなど、この展覧会では今、他で話題の画家を美術史の文脈の中に置くことが出来ます。その辺も楽しみ方の一つとなりそうです。
20世紀に入ると衝撃の一枚と出会いました。それが日本では約30年ぶりの公開となったアンリ・マティスの「赤い部屋(赤のハーモニー)」です。
「マティスの絵本/結城昌子/小学館」
諸事情により図版、写真が載せられないのが残念ですが、ともかくその魔力的なまでな赤にぐっと心掴まれる方も多いのではないでしょうか。そして紋様的でかつ平面性を帯びた空間表現はいかにもマティスと言ったところですが、これ一点だけでも行く価値があるとしても過言ではありません。
ちなみにこの作品を前にして、2005年、都美館のプーシキン展での「赤い金魚」を見た時に強い感銘を受けたことを思い出しました。以来、マティスは私にとって非常に重要な画家の一人となりましたが、その時と同じくらいの強烈なマティス体験です。ここは痺れました。
会場展示風景
会期中、各種講演の他、映画の上映会が行われます。
【記念講演会・シンポジウム】
・5月12日 (土) 14:00-15:30(開場13:30)
千足伸行 (本展監修・成城大学名誉教授)
「北国の美の宮殿:エルミタージュ美術館の名画を見る」
・6月3日(日)14:00-16:00(開場13:30)
沼野充義(東京大学教授、ロシア・東欧文学者)、鴻野わか菜(千葉大学准教授、ロシア文学者)
司会・進行:青木保(国立新美術館長)
シンポジウム「現代ロシアとエルミタージュ美術館」
・6月9日(土)14:00-15:30(開場13:30)
中野京子(ドイツ文学者・早稲田大学講師)
「エルミタージュ 女帝の時代」
【上映会】
・5月6日(日)14:00-15:45(開場13:30)
「エルミタージュ幻想」上映会(上映時間96分)
*上映前にアレクサンドル・ソクーロフ監督が語るエルミタージュ美術館ミニ・インタビュー映像があります。
・6月10日(日)14:00-15:30(開場13:30)
「チェブラーシカ」(ロマン・カチャーノフ監督)上映会 (上映時間73分)
*上映前に沼野充義による、ミニ・トークがあります。
・5月12日 (土) 14:00-15:30(開場13:30)
千足伸行 (本展監修・成城大学名誉教授)
「北国の美の宮殿:エルミタージュ美術館の名画を見る」
・6月3日(日)14:00-16:00(開場13:30)
沼野充義(東京大学教授、ロシア・東欧文学者)、鴻野わか菜(千葉大学准教授、ロシア文学者)
司会・進行:青木保(国立新美術館長)
シンポジウム「現代ロシアとエルミタージュ美術館」
・6月9日(土)14:00-15:30(開場13:30)
中野京子(ドイツ文学者・早稲田大学講師)
「エルミタージュ 女帝の時代」
【上映会】
・5月6日(日)14:00-15:45(開場13:30)
「エルミタージュ幻想」上映会(上映時間96分)
*上映前にアレクサンドル・ソクーロフ監督が語るエルミタージュ美術館ミニ・インタビュー映像があります。
・6月10日(日)14:00-15:30(開場13:30)
「チェブラーシカ」(ロマン・カチャーノフ監督)上映会 (上映時間73分)
*上映前に沼野充義による、ミニ・トークがあります。
嬉しいことに全て観覧券があれば無料です。監修の千足先生や「怖い絵」でもお馴染みの中野先生の講演会は特に注目を集めそうです。
ミュージアムショップで人気なのはチェブラーシカです。もちろんこの展覧会のオリジナルグッズもあります。
ミュージアムショップ
またチェブラーシカでは専用ポストも見逃せません。会場出口にあるポストへ投函すると何とチェブラーシカの消印をおしていただけます。
会場特設「チェブラーシカ消印ポスト」
GW以降はかなり混雑してくるのではないでしょうか。大型展は何事も早めがベストです。また毎週金曜日は20時まで(入館は30分前まで)開館しています。
「すぐわかる西洋絵画よみとき66のキーワード/千足伸行/東京美術」
7月16日まで開催されています。
「大エルミタージュ美術館展 世紀の顔・西欧絵画の400年」 国立新美術館
会期:4月25日(水)~7月16日(月・祝)
休館:火曜日。但し5月1日は開館。
時間:10:00~18:00 *金曜日は20時まで開館。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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「アートアワードトーキョー丸の内2012」 行幸地下ギャラリー
行幸地下ギャラリー
「アートアワードトーキョー丸の内2012」
4/28-5/27
丸の内恒例の現代アート展です。行幸地下ギャラリーで開催中の「アートアワードトーキョー丸の内2012」へ行ってきました。
既に6回目ということで、若手の選抜展としても定着して来た感のあるアートアワードですが、今年も全国の美術大学の卒業制作展より選ばれた約30名の作品が展示されました。
また会期初日には審査員9名公開審査が行われ、大賞以下、各賞が決定しました。受賞作家は以下の通りでした。
あくまでも地下通路の側面のガラスケース内での展示ということで、空間に制約が生じるのはやむを得ませんが、それでも映像、絵画、また立体インスタレーションなど、様々な表現を楽しめるのも大きなポイントかもしれません。
先だってのニュートロンでの東北画展にて可愛らしい雪山のオブジェを出品していた渡辺綾は、同じく山をテーマとした二幅の平面を出品しています。
渡辺綾「めばえいずる・かえりいづ」2012
縦長の画面はまさに掛け軸画のようですが、下から上へと連なる山々、そして上部に現れた山と一体化した神のような人物を見ると、どこか中世の参詣曼荼羅図の世界を思ってなりません。
高谷奏帆「inevitable」2011
近未来風な球形のスカルプチャーを展示したのは高谷奏帆です。上にかかる白い液体は樹脂とのことですが、その下の素材はパッと見ただけではまさか風船とは分かりません。風船という軽い素材が樹脂と結びつくことで意外な質感を生み出します。その姿はまるでむせ返るように咲き誇る花の群れのようでした。
上村静「頭山」2012 他
上村静の二点の平面も力作です。油彩の力強いストローク、そして木炭の素早い筆致は異彩を放っているのではないでしょうか。そのざわめく画面を見ていると、キャプションの「激しい風が吹く。ドンドンドン トントンカッ すー ざっざっ それがリズムを打つ時。私は繋がろうと踊る。」という言葉がすとんと心に入ってきました。
村山まりあ「俯瞰するものたち」2012
何やら生々しい花ともうつぼのような形が全身を覆っています。村山まりあの「俯瞰するものたち」です。顔の閉ざされた等身大の人物像と、台上の頭部と靴とは如何なる関係にあるのでしょうか。
金光男「ロウ-アミ」2012
繊細なテクスチャーで勝負するのが金光男の「ロウ-アミ」です。タイトルにもアミとありますが、画面に近づくと、確かに網状のものが支持体を覆っていることが分かります。無機的なモチーフと皮膚のように爛れる表面の生々しい質感の組み合わせは絶妙でした。
水野里奈「これがかきたかった」2012 他
タッチや色遣いを大胆に変化させ、何層かに分かれた風景や人物イメージを一枚の画面にまとめたのが水野里奈です。極太で即興的な筆致と工芸的なまでに精緻なそれが同居しています。また色の強弱、余白の介入など、画面展開は極めてスリリングです。かなり惹かれました。
岡本瑛里「奪還」2010 他
惹かれたといえばもう一点、是非とも挙げたいのが岡本瑛里です。アクリルと油彩の本画と木炭などによる大下図、計2点を出品していますが、目を剥いて闊歩する奇怪な魔物ともいうべきモチーフには凄みすら感じられないでしょうか。
岡本瑛里「通りものの路(大下図)」2011 拡大
ほぼモノクロームの大下図の精緻な描写にも目を奪われます。キャプションには民俗信仰、また霊という言葉もありましたが、そうしたアニミズム的なものを感じてなりませんでした。
片山真理「小さなハイヒールを履く私」2012 他
グランプリの片山真理は圧巻です。この狭いスペースからはみ出さんとばかりのインスタレーションを展示しています。一度、その世界をもっと広い場所、例えば建物の室内のような空間で拝見出来ればと思いました。
会場は交通至便、東京駅の丸の内地下出口先です。また奇遇なことに最寄の三菱一号館美術館の「KATAGAMI Style展」も同じく5月27日までの会期です。そちらへお出かけの際に立ち寄られてはいかがでしょうか。
また観客の投票によって決まるオーディエンス賞の期限は5月13日です。投票用紙は東京駅から向かって会場入口、右側のインフォメーションセンターでいただけます。是非ともお気に入りの作品を見つけて下さい。
5月27日まで開催されています。
「アートアワードトーキョー丸の内2012」(@a_a_t_m) 行幸地下ギャラリー
会期:4月28日(土)~5月27日(日)
休廊:会期中無休
時間:11:00~20:00
住所:千代田区丸の内2-4-1 行幸通り地下
交通:JR線東京駅丸の内地下中央口、東京メトロ丸ノ内線東京駅より地下直結。東京メトロ千代田線二重橋前駅7番出口より地下直結。
「アートアワードトーキョー丸の内2012」
4/28-5/27
丸の内恒例の現代アート展です。行幸地下ギャラリーで開催中の「アートアワードトーキョー丸の内2012」へ行ってきました。
既に6回目ということで、若手の選抜展としても定着して来た感のあるアートアワードですが、今年も全国の美術大学の卒業制作展より選ばれた約30名の作品が展示されました。
また会期初日には審査員9名公開審査が行われ、大賞以下、各賞が決定しました。受賞作家は以下の通りでした。
グランプリ 片山真理(東京藝術大学)
準グランプリ 潘逸舟(東京藝術大学)
審査員賞
天野太郎賞 糸川ゆりえ(武蔵野美術大学)
植松由佳賞 柳井信乃(東京藝術大学)
後藤繁雄賞 井上康子(京都造形芸術大学)
木幡和枝賞 金光男(京都市立芸術大学)
小山登美夫賞 中園晃ニ(東京藝術大学)
佐藤直樹賞 有坂亜由夢(東京藝術大学)
高橋明也賞 椿凬千里(武蔵野美術大学)
長谷川祐子賞 吉田晋之介(東京藝術大学)
ゲスト審査員加藤泉賞 上村静(名古屋芸術大学)
三菱地所賞 升谷真木子(武蔵野美術大学)
シュウ ウエムラ賞 神谷麻穂(金沢美術工芸大学)
アッシュ・ペー・フランス賞 水野里奈(名古屋芸術大学)
フランス大使館賞 金光男(京都市立芸術大学)
オーディエンス賞 *観客による投票にり決定
準グランプリ 潘逸舟(東京藝術大学)
審査員賞
天野太郎賞 糸川ゆりえ(武蔵野美術大学)
植松由佳賞 柳井信乃(東京藝術大学)
後藤繁雄賞 井上康子(京都造形芸術大学)
木幡和枝賞 金光男(京都市立芸術大学)
小山登美夫賞 中園晃ニ(東京藝術大学)
佐藤直樹賞 有坂亜由夢(東京藝術大学)
高橋明也賞 椿凬千里(武蔵野美術大学)
長谷川祐子賞 吉田晋之介(東京藝術大学)
ゲスト審査員加藤泉賞 上村静(名古屋芸術大学)
三菱地所賞 升谷真木子(武蔵野美術大学)
シュウ ウエムラ賞 神谷麻穂(金沢美術工芸大学)
アッシュ・ペー・フランス賞 水野里奈(名古屋芸術大学)
フランス大使館賞 金光男(京都市立芸術大学)
オーディエンス賞 *観客による投票にり決定
あくまでも地下通路の側面のガラスケース内での展示ということで、空間に制約が生じるのはやむを得ませんが、それでも映像、絵画、また立体インスタレーションなど、様々な表現を楽しめるのも大きなポイントかもしれません。
先だってのニュートロンでの東北画展にて可愛らしい雪山のオブジェを出品していた渡辺綾は、同じく山をテーマとした二幅の平面を出品しています。
渡辺綾「めばえいずる・かえりいづ」2012
縦長の画面はまさに掛け軸画のようですが、下から上へと連なる山々、そして上部に現れた山と一体化した神のような人物を見ると、どこか中世の参詣曼荼羅図の世界を思ってなりません。
高谷奏帆「inevitable」2011
近未来風な球形のスカルプチャーを展示したのは高谷奏帆です。上にかかる白い液体は樹脂とのことですが、その下の素材はパッと見ただけではまさか風船とは分かりません。風船という軽い素材が樹脂と結びつくことで意外な質感を生み出します。その姿はまるでむせ返るように咲き誇る花の群れのようでした。
上村静「頭山」2012 他
上村静の二点の平面も力作です。油彩の力強いストローク、そして木炭の素早い筆致は異彩を放っているのではないでしょうか。そのざわめく画面を見ていると、キャプションの「激しい風が吹く。ドンドンドン トントンカッ すー ざっざっ それがリズムを打つ時。私は繋がろうと踊る。」という言葉がすとんと心に入ってきました。
村山まりあ「俯瞰するものたち」2012
何やら生々しい花ともうつぼのような形が全身を覆っています。村山まりあの「俯瞰するものたち」です。顔の閉ざされた等身大の人物像と、台上の頭部と靴とは如何なる関係にあるのでしょうか。
金光男「ロウ-アミ」2012
繊細なテクスチャーで勝負するのが金光男の「ロウ-アミ」です。タイトルにもアミとありますが、画面に近づくと、確かに網状のものが支持体を覆っていることが分かります。無機的なモチーフと皮膚のように爛れる表面の生々しい質感の組み合わせは絶妙でした。
水野里奈「これがかきたかった」2012 他
タッチや色遣いを大胆に変化させ、何層かに分かれた風景や人物イメージを一枚の画面にまとめたのが水野里奈です。極太で即興的な筆致と工芸的なまでに精緻なそれが同居しています。また色の強弱、余白の介入など、画面展開は極めてスリリングです。かなり惹かれました。
岡本瑛里「奪還」2010 他
惹かれたといえばもう一点、是非とも挙げたいのが岡本瑛里です。アクリルと油彩の本画と木炭などによる大下図、計2点を出品していますが、目を剥いて闊歩する奇怪な魔物ともいうべきモチーフには凄みすら感じられないでしょうか。
岡本瑛里「通りものの路(大下図)」2011 拡大
ほぼモノクロームの大下図の精緻な描写にも目を奪われます。キャプションには民俗信仰、また霊という言葉もありましたが、そうしたアニミズム的なものを感じてなりませんでした。
片山真理「小さなハイヒールを履く私」2012 他
グランプリの片山真理は圧巻です。この狭いスペースからはみ出さんとばかりのインスタレーションを展示しています。一度、その世界をもっと広い場所、例えば建物の室内のような空間で拝見出来ればと思いました。
会場は交通至便、東京駅の丸の内地下出口先です。また奇遇なことに最寄の三菱一号館美術館の「KATAGAMI Style展」も同じく5月27日までの会期です。そちらへお出かけの際に立ち寄られてはいかがでしょうか。
また観客の投票によって決まるオーディエンス賞の期限は5月13日です。投票用紙は東京駅から向かって会場入口、右側のインフォメーションセンターでいただけます。是非ともお気に入りの作品を見つけて下さい。
5月27日まで開催されています。
「アートアワードトーキョー丸の内2012」(@a_a_t_m) 行幸地下ギャラリー
会期:4月28日(土)~5月27日(日)
休廊:会期中無休
時間:11:00~20:00
住所:千代田区丸の内2-4-1 行幸通り地下
交通:JR線東京駅丸の内地下中央口、東京メトロ丸ノ内線東京駅より地下直結。東京メトロ千代田線二重橋前駅7番出口より地下直結。
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5月の展覧会・ギャラリーetc
GWはいかがお過ごしでしょうか。5月中に見たい展覧会をリストアップしてみました。
展覧会
・「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 千葉市美術館(~5/20)
#市民美術講座「蕭白と蕭白前史」 講師:伊藤紫織 (同館学芸員) 5/5(土・祝)14:00~ 先着150名、無料。
・「東洋絵画の精華 珠玉の日本絵画コレクション」 静嘉堂文庫美術館(~5/20)
・「須田国太郎展」 神奈川県立近代美術館葉山(~5/27)
・「イ・ブル展:私からあなたへ、私たちだけに」 森美術館(~5/27)
・「毛利家の至宝」 サントリー美術館(~5/27)
・「KATAGAMI Style ― 世界が恋した日本のデザイン」 三菱一号館美術館(~5/27)
・「公募団体ベストセレクション 美術 2012」 東京都美術館(~5/27)
・「鹿島茂コレクション2 バルビエ×ラブルール」 練馬区立美術館(~6/3)
・「第5回 東山魁夷記念日経日本画大賞展」 上野の森美術館(~6/3)
・「シャルロット・ペリアンと日本」 目黒区美術館(~6/10)
・「ホノルル美術館所蔵 北斎展」 三井記念美術館(~6/17)
#前期(4/14-5/13)、後期(5/15-6/17)
・「マックス・エルンスト-フィギュア×スケープ」 横浜美術館(~6/24)
・「近代洋画の開拓者 高橋由一」 東京藝術大学大学美術館(~6/24)
・「杉本博司 ハダカから被服へ」 原美術館(~7/1)
・「ひっくりかえる展」 ワタリウム美術館(~7/8)
・「トーマス・デマンド展」 東京都現代美術館(5/19~7/8)
#アーティスト・トーク 出演:トーマス・デマンド 5/19 13:30~
・「川内倫子 照度 あめつち 影を見る」 東京都写真美術館(5/12~7/16)
#対談 出演:内藤礼×川内倫子 5/25 18:30~ 定員190名 先着順 午前10時より入場整理券を配布
・「日本橋 描かれたランドマークの400年」 江戸東京博物館(5/26~7/16)
・「FLOWERSCAPES フラワースケープ」 DIC川村記念美術館(~7/22)
・「福田平八郎と日本画モダン」 山種美術館(5/26~7/22)
ギャラリー
・「田中麻記子展」 hpgrp GALLERY TOKYO(~5/15)
・「パラモデル展:パラモデルの作り方」 MORI YU GALLERY TOKYO(~5/26)
・「アワートアワードトーキョー丸の内2012」 行幸地下ギャラリー(~5/27)
・「東北、うごめく鼓動展」 EARTH+ & COEXIST-TOKYO(5/4~5/27)
・「竹中美幸 - Transparency」 アートフロントギャラリー(5/11~5/27)
・「高橋大輔 絵画の田舎」 アルマスギャラリー(~6/2)
・「植松琢麿 Hyper-Cycle」 Yumiko Chiba Associates Viewing Room Shinjuku(5/11~6/2)
・「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.2 俵萌子」 ギャラリーαM(5/26~6/23)
今月開始の展覧会、意外と少ないかもしれませんが、まずその中で注目したいのは、月末から山種美術館で始まる「福田平八郎と日本画モダン」展です。
「福田平八郎と日本画モダン」@山種美術館(5/26~7/22)
実は平八郎、かつて京近美での回顧展に接して以来、好きな画家の一人ですが、今回は同時代の画家の動向を踏まえ、当時流行したモダンな日本画を振り返るという内容になっています。
なお本展に関連した対談の動画が山種美術館より配信中です。
特別展「福田平八郎と日本画モダン」関連動画の配信を開始しました。(山種美術館)
お馴染みの山崎館長をはじめ、同館顧問の山下先生、さらにはフクヘンさんこと鈴木芳雄さんが平八郎について語っておられます。平八郎が数学が苦手だったとは知りませんでした。是非ご覧になって下さい。
さてもう一つ、私として見逃せないのが写美で開催される川内倫子の個展です。
「川内倫子 照度 あめつち 影を見る」@東京都写真美術館(5/12~7/16)
また平日(5/25)ですが、会期中に内藤礼さんとの対談も予定されています。そちらもまた話題を集めそうです。
千葉市美術館の「蕭白ショック!!」が5月8日より後期展示に入ります。(前期の感想はこちら。)ほぼ総取り替えとも言える大規模な展示替えです。
「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」@千葉市美術館(4/10~5/20)
こちらも見逃さぬように伺いたいです。
「BRUTUS 2012年5/1号/西洋美術総まとめ/マガジンハウス」
それでは今月も宜しくお願いします。
展覧会
・「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」 千葉市美術館(~5/20)
#市民美術講座「蕭白と蕭白前史」 講師:伊藤紫織 (同館学芸員) 5/5(土・祝)14:00~ 先着150名、無料。
・「東洋絵画の精華 珠玉の日本絵画コレクション」 静嘉堂文庫美術館(~5/20)
・「須田国太郎展」 神奈川県立近代美術館葉山(~5/27)
・「イ・ブル展:私からあなたへ、私たちだけに」 森美術館(~5/27)
・「毛利家の至宝」 サントリー美術館(~5/27)
・「KATAGAMI Style ― 世界が恋した日本のデザイン」 三菱一号館美術館(~5/27)
・「公募団体ベストセレクション 美術 2012」 東京都美術館(~5/27)
・「鹿島茂コレクション2 バルビエ×ラブルール」 練馬区立美術館(~6/3)
・「第5回 東山魁夷記念日経日本画大賞展」 上野の森美術館(~6/3)
・「シャルロット・ペリアンと日本」 目黒区美術館(~6/10)
・「ホノルル美術館所蔵 北斎展」 三井記念美術館(~6/17)
#前期(4/14-5/13)、後期(5/15-6/17)
・「マックス・エルンスト-フィギュア×スケープ」 横浜美術館(~6/24)
・「近代洋画の開拓者 高橋由一」 東京藝術大学大学美術館(~6/24)
・「杉本博司 ハダカから被服へ」 原美術館(~7/1)
・「ひっくりかえる展」 ワタリウム美術館(~7/8)
・「トーマス・デマンド展」 東京都現代美術館(5/19~7/8)
#アーティスト・トーク 出演:トーマス・デマンド 5/19 13:30~
・「川内倫子 照度 あめつち 影を見る」 東京都写真美術館(5/12~7/16)
#対談 出演:内藤礼×川内倫子 5/25 18:30~ 定員190名 先着順 午前10時より入場整理券を配布
・「日本橋 描かれたランドマークの400年」 江戸東京博物館(5/26~7/16)
・「FLOWERSCAPES フラワースケープ」 DIC川村記念美術館(~7/22)
・「福田平八郎と日本画モダン」 山種美術館(5/26~7/22)
ギャラリー
・「田中麻記子展」 hpgrp GALLERY TOKYO(~5/15)
・「パラモデル展:パラモデルの作り方」 MORI YU GALLERY TOKYO(~5/26)
・「アワートアワードトーキョー丸の内2012」 行幸地下ギャラリー(~5/27)
・「東北、うごめく鼓動展」 EARTH+ & COEXIST-TOKYO(5/4~5/27)
・「竹中美幸 - Transparency」 アートフロントギャラリー(5/11~5/27)
・「高橋大輔 絵画の田舎」 アルマスギャラリー(~6/2)
・「植松琢麿 Hyper-Cycle」 Yumiko Chiba Associates Viewing Room Shinjuku(5/11~6/2)
・「絵画、それを愛と呼ぶことにしよう vol.2 俵萌子」 ギャラリーαM(5/26~6/23)
今月開始の展覧会、意外と少ないかもしれませんが、まずその中で注目したいのは、月末から山種美術館で始まる「福田平八郎と日本画モダン」展です。
「福田平八郎と日本画モダン」@山種美術館(5/26~7/22)
実は平八郎、かつて京近美での回顧展に接して以来、好きな画家の一人ですが、今回は同時代の画家の動向を踏まえ、当時流行したモダンな日本画を振り返るという内容になっています。
なお本展に関連した対談の動画が山種美術館より配信中です。
特別展「福田平八郎と日本画モダン」関連動画の配信を開始しました。(山種美術館)
お馴染みの山崎館長をはじめ、同館顧問の山下先生、さらにはフクヘンさんこと鈴木芳雄さんが平八郎について語っておられます。平八郎が数学が苦手だったとは知りませんでした。是非ご覧になって下さい。
さてもう一つ、私として見逃せないのが写美で開催される川内倫子の個展です。
「川内倫子 照度 あめつち 影を見る」@東京都写真美術館(5/12~7/16)
また平日(5/25)ですが、会期中に内藤礼さんとの対談も予定されています。そちらもまた話題を集めそうです。
千葉市美術館の「蕭白ショック!!」が5月8日より後期展示に入ります。(前期の感想はこちら。)ほぼ総取り替えとも言える大規模な展示替えです。
「蕭白ショック!! 曾我蕭白と京の画家たち」@千葉市美術館(4/10~5/20)
こちらも見逃さぬように伺いたいです。
「BRUTUS 2012年5/1号/西洋美術総まとめ/マガジンハウス」
それでは今月も宜しくお願いします。
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