見もの・読みもの日記

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陶芸家の息子/昭和モダーン モザイクのいろどり(泉屋博古館)

2024-09-11 22:11:22 | 行ったもの(美術館・見仏)

泉屋博古館 特別展『昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界』(2024年8月31日~9月29日)

 昭和のモザイク、特に興味ないなあ…と思っていたが、本展が取り上げるモザイク作家・板谷梅樹(いたやうめき、1907-1963)が、陶芸家・板谷波山(いたやはざん、1872-1963)の息子であるという情報をネットで見て、興味が湧いて、見て来た。

 エントランスホールに展示されていたのは、縦長の巨大なモザイク壁画。遠景には三角形に立ちあがった富士山、雲海と山並み・森林を挟んで、清流が手前に向かって流れている。近代水道発祥の地・横浜市の依頼で制作され、日展に出品されたのち、横浜市水道局に納められた『三井用水(みいようすい)取入所風景』(1954年)という作品である。その後、1987年に近代水道100周年を記念して開館した横浜水道記念館の1階ロビ-に展示されていたが、2021年の同館閉館に伴い、板谷波山記念館に寄贈されたという。

 雪をいただく富士山の山肌は、色の違うパーツを並べて繊細に表現されており、印象派の絵画を思わせる。一方、岸辺の草木は、抽象的な形態にまるめられていて、琳派のデザインのようでもある。しかし昭和の人間としては、モザイク画の富士山を見たとたん、風呂屋の壁画を思い出して苦笑してしまった。

 展示室に入って、また大きな壁画があると思ったら、これは写真パネルだった。有楽町にあった日劇にあった壁画だという。あとで、講堂で放映されていた「さらば日劇(仮)」という短編動画を見たら、日劇は昭和8年(1933)竣工。1階玄関ホ-ルには、板谷梅樹のモザイク壁画「音楽」「平和」「戦争」「舞踊」4作品が設置された。古代ギリシャの壺絵ふうの人物群像で、華やかな色彩が使われている。戦争中は風船爆弾の工場に使われた(!)こともあったが、復活。しかし梅樹のモザイク壁画は、戦後の大衆路線に合わないと見做され、タイアップ商品の物販売場を設置するためにベニヤ板で覆われてしまった(Wikiによれば1958年)。

 1981年、施設の老朽化に伴う解体工事の際に、壁画が「発見」された。新ビル(有楽町マリオン)に移設する案もあったが、重量の問題等で実現せず、仮の保管場所だった東宝砧撮影所の閉鎖に伴い、2000年に廃棄された。うわああ…そんなのありか、と頭を抱えたが、どこかで権威を与えられた「芸術」ではない、一般の「装飾芸術」としてはやむをえない運命なのだろうか。

 わずかに小型の壁画3面が遺族に引き取られ、一部は渋谷の「染織工芸 むら田」にあるという。お店のホ-ムページに「祖父のモザイク」とあるので、梅樹のお孫さんのお店なのだろうか。そして場所を探したら、あ、山種美術館や國學院大學の近隣ではないか。今度、そっとお店の前まで行ってみよう。

 展示されている梅樹の作品は70件ほど。ほとんどが個人蔵である。壁画のような大作は、施設の老朽化とともに失われてしまうものが多いのだろう。煙草箱、飾り皿などは、次第に作者の名前を忘れられて、いわば「民藝」として残っていくのかなと思った。小さな面積で色とかたちを楽しむ、遊び心にあふれたブロ-チやペンダントヘッドには、時代を超えた魅力がある。帯留もおしゃれ。比較的大型の作品「きりん」は、首を下げたポーズが琳派の鹿みたいだと思った。

 梅樹のモザイクとあわせて、板谷波山の陶芸作品も展示されていた。波山は出光佐三だけでなく、住友春翠の支援も受けていたのだな。2011年、波山の田端旧宅からは、おびただしい陶片とともに、モザイクやステンドグラスの材料片も見つかっている。ブルーグリーンの材料片(色ガラス?)が展示されていて、美しかった。それにしても、父・波山と息子・梅樹が同じ1963年に没していることに気づいて、いま複雑な気持ちでいる。

※(参考)田端文士村記念館:『開館20周年記念誌』は、板谷波山と家族に関して詳しい。「学習院大学教授荒川正明先生の御助力で、波山の家の土台や陶片などは、郷里下館の有志や学生の皆さんが丁寧に発掘して、下館の波山記念館に納められました」という記述を見つけて唸る。荒川先生!出光美術館の学芸員だった方だ。


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