見もの・読みもの日記

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多色石版印刷の精華・国華余芳/お札と切手の博物館

2007-03-03 22:51:12 | 行ったもの(美術館・見仏)
○お札と切手の博物館 特別展『明治における古美術調査の旅-国華余芳の誕生』

http://www.npb.go.jp/ja/museum/index.html

 気になっていた小さな展覧会に行ってきた。明治12年、印刷局が行った古美術調査旅行と、その旅の成果として誕生した美術図集『国華余芳』をテーマにした企画である。

 「明治の古美術調査」と言えば、私など、反射的にフェノロサと岡倉天心を思い出すのだが(法隆寺夢殿を開扉し、秘仏・救世観音を見出したことで有名)、これは明治17年(1884)のこと。印刷局の調査は、フェノロサたちより5年も早いのだ。発案者は印刷局長の得能良介で、お雇い外国人のキヨッソーネ(日本の紙幣、切手、証券証書などをデザインし、本格的な印刷技術をもたらした)が同行している。

 その後に出版されたのが、『国華余芳』写真帖(5分冊)と、多色石版印刷による『国華余芳』(正倉院御物之部、伊勢内外神宝部、古書之部2分冊)である。明治初年の法隆寺や金閣寺の様子を伝える古写真も貴重だが、驚くべきは、石版印刷によって写し取られた古美術の精巧な姿である。

 ちょうど今、印刷博物館が『モード・オブ・ザ・ウォー』と題して、第1次世界大戦期プロパガンダ・ポスターの展示会をやっているが、こちらのサブタイトルも「石版印刷の表現力」である。私は、このプロパガンダ・ポスターコレクションの調査報告を通じて、かつて「多色石版印刷」という技術があったことを知った。多色石版印刷は19世紀初頭に発明され、19世紀後半には多色印刷技術の主流として普及したが、第1次世界大戦期を最後に、新しい技術に取って代わられていく。

 上記のポスターコレクションも、きわめて美麗なものが多いが、本展の会場で見た『国華余芳』の図版は、さらに上を行く完成度である。十数回に及ぶ重ね刷りによって、正倉院宝物「平螺鈿背円鏡」や「金銀山水八卦背八角鏡」の精緻な文様はもちろん、銅鏡の鈍い質感、古色蒼然とした風合いまでを写し取っている。明るい展示ケースに飾られた書籍だと、さすがに写真でなくて写し絵だな、と分かるが、会場で無料で配られるパンフに転載されている縮小図版は、写真と見まごう迫真性である。

 「劣化のない複製」が、あまりにも容易になってしまった現在では、忘れがちなことであるが、近代初頭、「複製」による流通の可能性が、細々とした道筋をひらいたとき、そこに投入された職人の努力と意気込みを強く再認識した。

 1つだけ、毎週土曜日に石版印刷の実演が行われているというのを楽しみに行ったのだが、演者が休憩中で見られなかったのが残念。まあ、観覧者も少なかったし、仕方ないんだろうけど。本展は明日(3/4)まで。
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