見もの・読みもの日記

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模写のメディア機能/千秋文庫

2007-03-08 23:48:48 | 行ったもの(美術館・見仏)
○千秋文庫 『佐竹家 狩野派絵師たち』

http://www.senshu-bunko.or.jp/

 千秋文庫には、旧秋田藩主佐竹家から受け継いだ模写絵488点が収蔵されている。今回は、その中から、唐~明時代の中国絵画の模写約70点が展示されている。

 そもそも狩野派の(というか、近代以前の)絵画修行とは、ひたすら模写をすることだった。一定の力量に到達した絵師は、名画の模写を携えて、故国に下った。こうして日本全国に、さまざまな「模写」がもたらされたのである(というような説明が会場にあったと思う)。また、佐竹家には、お抱えの狩野派がおり、藩主の命に応じて模写を行うこともあった。

 というわけで壁いっぱいに並べられた作品は、牧谿だったり、李安忠だったり、梁楷だったりする...しかし、何かヘンだ。真面目に見ようとすると、吹き出したくなる。牧谿じゃないだろ~この虎~このサル~という感じで、あまりにも、つっこみどころ満載なのである。狩野派の模写って、この程度でよかったのか!? なんか、ナンシー関の(なつかしい)記憶スケッチアカデミーみたいである。

 楽しいのは、あっ元絵を知ってる!という作品があることだ。因陀羅「禅機図断簡」(畠山美術館)の模写は、雰囲気を捉えていて上手いが、同じ因陀羅の「普化禅師」は、子どものいたずらがきみたいで、笑いを抑えるのに苦しむ。李迪の「雪中帰牧図」(大和文華館蔵)は、元絵と全くサイズの異なる小品だが、筆は達者だと思う。左幅に「寛■■庚申十二月松平下総守殿ヨリ借写」とあるって興味深かった。読めなかったところは寛政十二年か? このとびきりの中国名画を伝えた松平下総守って誰?

 逆に、元絵を見たい、と思ったものもある。牧谿の「羅漢」は、白衣の羅漢が膝に蛇を載せて座した図。元絵は静嘉堂文庫所蔵だそうだが、見た記憶がない。姜隠の「仙女」は、画面いっぱいに羽根をひろげた鳳凰に美女を配した華やかな作品。顔輝の「仙人」は、腰蓑をつけ、蓬髪の仙人と、うやうやしく拱手する男の対面を描く。元代絵画特有の生々しい魅力が、模写からも伝わってくる。

 仇英の「官女」もいい。皇帝(?)の前で琵琶を弾く官女を描いたもので、日本の肉筆浮世絵みたいな、溌剌とした色気を感じさせる。井上進先生が説かれる明代出版文化の魅力を思い合わせ、なるほど、明代文化の魅力ってこういうものか...と、俄然、分かったような気持ちがした。

 なんて書いてしまったが、私が見ているのは、「狩野派の模写」であって「中国絵画」ではない。でも、今日だって、模写をたよりに、原画の魅力をあれこれ語りたくなってしまうのだから、当時、模写の情報伝達(メディア)機能って、唯一無二のものだったんだろうなあ、と思う。作品の芸術性はともかく、当時の絵師の社会的な役割について考えるには面白い展覧会である。

コメント
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