見もの・読みもの日記

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教養と趣味の人/岩崎彌之助のまなざし(静嘉堂文庫)

2012-11-06 22:29:37 | 行ったもの(美術館・見仏)
静嘉堂文庫美術館 受け継がれる東洋の至宝 PartII『岩崎彌之助のまなざし-古典籍と明治の美術-』(2012年9月22日~11月25日)

 PartI『東洋絵画の精華』がズバリ分かりやすかったのに比べると、うーん、何が出ているんだ?というのが、ちょっと分かりにくいタイトルである。岩崎彌之助(弥之助)は、三菱初代・弥太郎の16歳下の弟。一昨年の大河ドラマ『龍馬伝』では、弥太郎とともに極貧の中で少年時代を過ごしていたが、長じては幅広い趣味と教養を楽しみ、資本家の社会に対する文化的貢献を実践した人物と言えそうだ。

 前半は、古美術と古典籍のコレクション。陸心源旧蔵の宋版漢籍、正徹自筆本『徒然草』、慶長勅版『日本書記』など、いつもの名品が並ぶ。解説を読んで、へえ中村正直の旧蔵書もここに収められているのか、と初めて認識した。面白かったのは『名刀源秘録』という、刀身や刃文の模写を集めた図譜で、刀剣鑑賞を趣味とした弥之助の愛蔵書。静嘉堂20万冊の蔵書の中で、唯一「巖崎彌之助」の蔵書印が押されているのだそうだ。小さな角印で、文字を避けるように片隅にひかえめに押されている。文庫の蔵書と自分の本は、明確に分ける意識があったのだろうか。

 弥之助の刀剣道楽をうかがわせるものとして、古備前高綱太刀(銘・高綱)が出ている。つるりとした朱塗の鞘が付属しているが、弥之助の少年時代、土佐藩の若い武士たちの間では、朱鞘の刀が流行ったのだそうだ。洋装はしていても、やっぱり武士の世代なんだなー。あとは、明治の実業家につきものの、茶道具が少々。

 後半は、明治の絵画と工芸。1895年、京都で開催された第四回内国勧業博覧会には、10双の新作日本画屏風が出品されたが、8件が静嘉堂に現存しており、うち3件を展示。さらには、帝室技芸員として活躍した作家たちから、森川杜園の木工、濤川惣助の七宝、菅原直之助の刺繍、鈴木長吉(!)の鷹置物。泉屋博古館蔵『十二の鷹』の作者だ。こういう同時代の芸術家を支援した実業家というのは立派だな、と思う。

 珍しいところでは、水石(盆石)コレクションから「日本三大名石」のひとつ『峨眉山』。初見ではなく、2007年にも一度見ている。ちなみに「日本三大名石」のあと二つが、西本願寺の『末の松山』と寛永寺の『黒髪山』であることをメモしておこう。見てみたい。岳父・後藤象二郎から譲り受けた印材もあった。解説に「美石の大印が多い」というとおり、紐の彫刻も派手で、豪気なコレクション(12件)である。
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