見もの・読みもの日記

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曜変天目もあり/中国陶磁勉強会(根津美術館)

2016-10-04 21:49:24 | 行ったもの(美術館・見仏)
根津美術館 コレクション展『中国陶磁勉強会』(2016年9月15日~10月23日)

 「コレクション展」といえば、ふつう、その美術館の所蔵品の中から選んだ作品が展示される。だから根津美術館の「中国陶磁勉強会」と聞いて、だいたい見たことのある品が並ぶんだろうな、と思っていた。それが、会場に入ってみると、何だか様子が違う。圧倒的に数が多い。展示リストを見たら、全121件。前半は、時代順に中国陶磁の歴史的な展開をたどり、後半は、日本で「唐物(からもの)」として大切にされた作品を鑑賞する構成になっているのだが、特に前半は「個人蔵」が過半を占めるのだ。いったい「個人」って誰?というのが不思議だったが、最後まで分からなかったし、今、ホームページ等を見ても分からない。

 入口付近の展示ケースでは、めずらしく濃紺の背景と展示台を設置していたのも、いつもと違う雰囲気に感じた原因かもしれない。白っぽい陶磁の色を引き立てて、効果的である。紀元前6000~5000年頃の土器『紅陶双耳壺』に始まり、彩陶、白陶、黒陶、灰陶(陶器)など。紀元後(後漢)に入って緑釉陶器が登場し、西晋時代には初期の青磁(越州窯系)、北斉時代には白釉陶器が生まれる。北斉の白釉碗は、宋代の白磁を思わせるくらい、薄くて美しくて、びっくりした。

 隋代の『緑釉貼花文大壺』は、大きく膨らんだ胴に花文と天女を象った型抜き文様を貼り付けた、華やかな名品。根津美術館の館蔵品だというが、記憶になかった。唐代の三彩、加彩駱駝。宋代に入ると、耀州窯の青磁、定窯の白磁、なごみの磁州窯など定番品が並ぶ。『黒釉掻落牡丹文扁壺』は「黒釉掻落(こくゆうかきおとし)」という技法から見て磁州窯だと思ったら、西夏時代の霊武窯(寧夏回族自治区)の作品だった。南宋の龍泉窯の青磁、景徳鎮の青白磁に続き、元代には青花が登場する。明代から清代にかけて、色とりどりの単色釉、多色を複雑に組み合わせた五彩、豆彩、粉彩など、中国陶磁は華麗な大発展を遂げる。なるほど、これだけ豊かな「実例」を見ながら、中国陶磁の歴史を一気に学べるのは、「勉強会」の名にふさわしい展覧会である。

 なお、解説パネルの文体が、なんとなくこれまでの展覧会と違っていて、「(彩陶の大量出土など考古学的発見に)驚いたものでした」と語りかけられて、思わず主語を探してしまった。個人の体験を書いているようで、親しみが湧いて好ましいのだけど、あんた誰なの~? ちなみに英語では「same of those discoveries were amazing」だった。

 後半は、茶の湯の世界で尊ばれた中国磁器「唐物」を展示。根津美術館の館蔵コレクションが並ぶ。茶壺、水指、花生、(陶製の)茶入なども。曜変天目(重要美術品)と油滴天目が1点ずつ出ていた。どちらも小ぶりで、斑文の色変わりは控えめで、落ち着いた感じで好ましかった。曜変天目は、この展覧会のポスターにもなっている。あれ?根津美術館も曜変天目を所蔵していたんだっけ?と思って、Wiki「曜変天目」の項を見たら、「現存するものは世界でわずか4点(または3点)」とあり、所蔵者として静嘉堂文庫、藤田美術館、大徳寺龍光院、MIHO MUSEUM(油滴天目ではないか?の声あり)が挙がっており、根津美術館の名前はない。

 根津美術館のホームページは、所蔵品について「16世紀初め頃にはすでに、曜変は最高の碗とされていました。この碗は、その当時にはまだ曜変としては認められていませんでした。江戸時代に加賀前田家が『曜変』の中に加えた茶碗です」と記す。ちなみにMIHO MUSEUMの茶碗も、Wikiに「加賀藩主前田家に伝えられたもの」というから、同系統なのかもしれない。名前はともかく、美しい茶碗であることは間違いない。ただ、私が手元に置きたいと激しく願うのは、呉州赤絵とか古染付である。景徳鎮民窯の『古染付葡萄棚水指』は、どう見ても葡萄に見えない、ゆる~い絵で楽しかった。

 展示室2は「唐物」つながりなのか、南宋~元の絵画。牧谿筆『瀟湘八景図巻』から切り取られた『漁村夕照図』(国宝)が出ている。『瀟湘八景図』模本は、「山市晴嵐」から「江天暮雪」まで六面が開いていた。気に入ったのは、伝・夏珪筆『風雨山水図』。画面の三分の二ほどは、雲に隠れた雨空だか岩壁だか。右下の隅に、斜めにした傘に隠れて道を行く人の姿が小さく小さく描かれている。

 展示室4は「中国の漆器」。展示室5は「名残の茶」で、わび・さび・やつれの茶道具を集める。この部屋だけ、中国手趣味が希薄で、日本好みだった。
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