〇五島美術館 特別展『古裂賞玩-舶来染織がつむぐ物語』(2024年10月22日~12月1日)
古裂愛玩といえば、まず思い浮かぶのは茶道具を包む「仕覆」だが、私はあまり関心がないので、今回の展覧会は行かなくてもいいかな、くらいに思っていた。それが、行ってみたら、展示室の壁にさまざまな墨蹟や唐絵の軸が掛けてある。え?どういうこと?と思ったら、これら書画の名品の表具に着目し、よく似た名物裂を収めた裂帖や裂手鑑が下に置いてあった。これは嬉しい。私は表具を見るのが大好きなのだ。展覧会の図録に表具の写真が載らないのを、いつも残念に思っている。
墨蹟の表具は全体に控えめだけど、一部にキラリと華やかな布を使っていたりする。織物に型紙を当てて糊を引き、金箔・金粉を置いたものは印金というのだな。紺など地色が暗いほうが金色の模様が際立つ。伝・牧谿筆『叭々鳥図』は何度も見ているはずだが、「紺地大黒屋金襴」の天地と「白地牡丹文金襴」の中廻しの華やかさに、しみじみ見とれてしまった。MOA美術館の伝・牧谿筆『叭々鳥図』(枝に止まっている)は、同じ「紺地大黒屋金襴」を一文字に使っているみたいだった。
本展には、書画も茶道具も、他館所蔵の名品が多数出陳されている。徳川美術館所蔵の伝・胡直夫筆『布袋図』と伝・無住子筆『朝陽図』『対月図』もその一例で、室町時代の三幅対の表装のありかたを伝えているということだった。五島美術館所蔵の『佐竹本三十六歌仙絵・清原元輔像』は近代に表装されたものだが、大柄な模様の「鳳凰蓮花文金紗」がめっぽう華やか。ちょっと歌人の元輔に合わない気もするが、所蔵者の熱烈な思い入れが伝わる。
展示室の入口には大きな平台の展示ケースが置かれていて、東博所蔵『赤地花菱繋文金襴裲襠』(舞楽衣裳、「散手」と墨書あり)と円覚寺所蔵『縹地花卉造土文金紗座具』(敷物?)が出ていた。名物裂を集めた裂帖・裂手鑑のうち、最も大部な(木箱入り)『前田家伝来名物裂帖』は九博の所蔵だった。現存最古の名物裂手鑑と見られる『文龍』は個人蔵だった。B5版くらいの小型サイズで、貼られている裂も小さく、丸や三日月形など多様な形をしていた。
中央列の平台ケースは、茶道具の仕覆や包み裂が多かったが、更紗がまとまって出ていたのが嬉しかった。五島美術館の更紗包み裂コレクションは大好きなのである。展示室2には、個人蔵の更紗袱紗もたくさん出ていて眼福だった。大名家に伝わった裂手鑑にも、かわいい更紗を貼っているものが散見された。忘れられないのは『鹿手更紗袱紗』。唐草模様の間に、よく見ると小さな鹿が遊んでいる。奈良のお土産物に復刻してほしい。