見もの・読みもの日記

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展覧会芸術の三兄弟/オタケ・インパクト(泉屋博古館東京)

2024-11-16 23:46:55 | 行ったもの(美術館・見仏)

泉屋博古館東京 特別展『オタケ・インパクト 越堂・竹坡・国観、尾竹三兄弟の日本画アナキズム』(2024年10月19日~12月15日)

 尾竹越堂(おたけ えつどう 1868-1931)、竹坡(ちくは 1878-1936)、国観(こっかん 1880-1945)の三兄弟を東京で紹介する初めての展覧会。名前を聞いても全く作品の浮かばない三人だったので、怖いもの見たさみたいな関心で見に行った、三人は、明治から昭和にかけて文展(文部省美術展覧会)をはじめ、様々な展覧会で成功を収め、「展覧会の申し子」として活躍したという。

 展覧会制度の導入によって変質した日本絵画を、やや批判的に「展覧会芸術」と呼ぶことは、確か2023年の同館の展示『日本画の棲み家』で私は学んだ。しかし尾竹三兄弟は、積極的に「展覧会芸術」の枠組みに乗り込んでいったようで、豊かな色彩で精緻に描き込まれ、見栄えのする大作がたくさん並んでいた。

 最初の一周では三人の差異がよく分からなかったが、二周目は作者名をチェックすることで、それぞれの個性が少し分かった気がした。末弟・国観は、小堀鞆音に師事したというのも納得で、歴史画・人物画の名品が多い。『油断』(東近美)は、敵の来襲に慌てる武士の群像(屋敷の奥に女性たちもいる)を描く。特定の歴史的な事件を想定せずに構想したものだというが、背景の幔幕には木瓜紋。甲冑や馬具が細部までリアルで、古絵巻の画像にはない躍動感がある。『絵踏』は禁制のキリシタンを見つけるための踏絵を描く。立ち上がろうとする女性を見守る群衆の中には南蛮人や清国人(官服姿)も描かれている。この作品は、展覧会に出品されたが岡倉天心との衝突によって撤去され、所在不明となっていたもの。2022年に国観の遺族から同館に寄贈され、修復を経て公開となった。

 次兄・竹坡は作風も性格も一番エキセントリック。特に岡倉派と袂を分かったあと、大正末年(1920年代)には未来派に接近して、前衛的な日本画を生み出す。第2展示室の入口にあった『月の潤い・太陽の熱・星の冷え』3幅対は、SF小説のカバーデザインみたいで度肝を抜かれた。でも本質は川端玉章に学んだ円山四条派の写生と、やわらかな色彩にあるように思う。晩年の『梅』と『山つつじに双雉図』がとても好き。あと『ゆたかなる国土』は、福富太郎コレクション展で見たことを思い出した。

 長兄・越堂は歌川派の浮世絵を学び、売薬版画や新聞挿絵など「生活(たつき)のため」の絵画を多数手がける(弟たちも同様)。三兄弟の中では文展デビューが最も遅く、評価もあまり高くないように見えるが、私はけっこう好みだ。文展落選の『徒渡り』は波立つ広々した水面を主役に、さまざまな姿勢の人物を小さく配したもの。福田平八郎の『漣』を思い出したが、福田のほうが遅いのだな。福島県立美術館所蔵の『[失題]』は不思議な作品で、神話的な男女と2羽の青い鳥(カワセミ?)を描く。晩年の『赤達磨』『さつき頃』もよい。三兄弟と親交のあった住友春翠の仏前に捧げられたという『白衣観音図』の生真面目な宗教性も好き。

 作品の所蔵館を見ると、富山・新潟・福島・宮城など地方の美術館・博物館のほか、個人蔵が非常に多い。この展覧会を逃すと、次はなかなか見る機会がないだろうなあと思うと、後期も行ってみたくなっている。

 参考までに自分のブログを検索したら、尾竹国一(越堂)の名前は太田記念美術館の『ラスト・ウキヨエ』で出て来た。また『芸術新潮』2013年6月号の特集「夏目漱石の眼」によれば、漱石は尾竹竹坡の『天孫降臨』に対し「天孫丈あって大変幅を取っていた。出来得べくんば、浅草の花屋敷か谷中の団子坂へ降臨させたいと思った」という皮肉な美術批評を書いているらしい。『天孫降臨』は本展には出ていないが、見てみたいものだ。また、調べているうち、竹坡が目黒雅叙園の室内装飾に関わったことも分かった。今でもレストラン渡風亭には「竹坡の間」があるそうだが、10-14(17)名様用で室料24,200円か。うーん、利用の機会はなさそう。

※富山県博物館協会:尾竹竹坡の画業における目黒雅叙園室内装飾について(遠藤亮平)


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