〇雑誌『BRUTUS』2017年6/15号「人気画家・山口晃の死ぬまでにこの目で見たい西洋絵画100」 マガジンハウス 2017.6
山口晃画伯が選ぶ西洋絵画1000。実際には91番目までが画伯のセレクションで、あと9点は美術ジャーナリストの鈴木芳雄氏と藤原えりみ氏が選んでいる。時代、分野は幅広く、ポンペイで発掘された紀元前のフレスコ画から20世紀の抽象画まで、中世の時祷書や写本も入っている。1人1作品と限っていないので、複数作品が選ばれている画家もいる。
画伯は西洋絵画の見方について、「何が描かれているか」よりも「どう描かれているか」を見る方が良い気がします、と語っている。大いに同意するのだが、私はなかなかこれができない。私は絵の見方が下手なのだ。しかし、そんな私でも「何が」を忘れてしまう作品に出会うことはある。画伯のセレクションはとても自由で、はっきり言うと、全体のバランスを考えている感じがあまりしない。まあ本人が「私としては好きな画家の複数枚を見たい。自分の好みを人に押し付ける気はない。死ぬまでにとは大仰だ」と企画趣旨に全面的に反対するような発言をしているくらいだから、気楽にページをめくって楽しめばいいものだと思う。
楽しいのは各作品につけられた画伯のコメントである。老眼にはつらい、小さな文字だが、全て読ませてもらった(そのあとに付いている美術辞典的な解説は、ほとんど読んでいない)。カルロ・クリヴェッリの描く女性について「私はついメーテルやエメラルダスを思い浮かべてしまいます」というのは、図版を見てにやにやしてしまった。ボスの『最後の審判』についても「何が」より「どう」描くかに着目し、「あやふやなものを素早く皮に包み込んでプリっと現前させる」と、独特の言い回しでその腕前を称賛する。ブリューゲルの『バベルの塔』については、明暗の諧調付けや刷毛目の効果に注目し、画家ならではの解説をしている。「次の筆が前の筆のリカバーになっている」って、もう少し詳しく教えてほしい。
作家別でいうと、リューベンスは3点も選ばれていて(ただしどれも習作)よほど好きなんだと思う。一方、ラファエロは1作品選んでいるが「何処がそんなに評価されているのかいま一つ分かりません」という。クールベ、ゴーギャン、ゴッホは選ばれず。ルソーもなかったと思う。セザンヌはお好きなんだなあ。選ばれている作品は、ブリヂストン美術館所蔵の『サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール』。ゴヤのことも端的に「ゴヤは好いですね」と述べていて嬉しい。ピカソのキュビズム絵画『アヴィニョンの娘たち』については「これをイカしてると思う自分の心証は水墨にシビれる心持ちの反映なのです」と気になることを述べている。
フラ・アンジェリコの『受胎告知』(コルトーナ司教区博物館)については、天使の翼の金箔と彩色による表現(いやー確かによく見ると超絶技巧だわ)を称賛したあと「満足したなら近くにあるテアトロと云う料理屋に行って生ポルチーニのパスタをやるのです」「白ワインが実に合うのです」という。ときどき、こんな耳寄り現地情報が付いているものもあった。また、ヤコボ・ダ・ポントルモの『十字架降下』という作品は薄暗い小さな教会にあるそうで、「電灯に照らされると死ぬ絵もある」というコメントに共感した。
関連特集として、いまブリヂストン美術館コレクションの名品展がフランスのオランジュリー美術館で開かれており、山口画伯によるレポート(文章+出張版「すずしろ日記」)が掲載されている。名品展は、モネ、ルノワールなどの西洋絵画と、藤島武二や坂本繁二郎などの日本洋画で構成されており、最初、オランジェリー側は日本洋画の展示に難色を示したが、最終的に理解を示され、展示に至ったという。面白いと思った。

画伯は西洋絵画の見方について、「何が描かれているか」よりも「どう描かれているか」を見る方が良い気がします、と語っている。大いに同意するのだが、私はなかなかこれができない。私は絵の見方が下手なのだ。しかし、そんな私でも「何が」を忘れてしまう作品に出会うことはある。画伯のセレクションはとても自由で、はっきり言うと、全体のバランスを考えている感じがあまりしない。まあ本人が「私としては好きな画家の複数枚を見たい。自分の好みを人に押し付ける気はない。死ぬまでにとは大仰だ」と企画趣旨に全面的に反対するような発言をしているくらいだから、気楽にページをめくって楽しめばいいものだと思う。
楽しいのは各作品につけられた画伯のコメントである。老眼にはつらい、小さな文字だが、全て読ませてもらった(そのあとに付いている美術辞典的な解説は、ほとんど読んでいない)。カルロ・クリヴェッリの描く女性について「私はついメーテルやエメラルダスを思い浮かべてしまいます」というのは、図版を見てにやにやしてしまった。ボスの『最後の審判』についても「何が」より「どう」描くかに着目し、「あやふやなものを素早く皮に包み込んでプリっと現前させる」と、独特の言い回しでその腕前を称賛する。ブリューゲルの『バベルの塔』については、明暗の諧調付けや刷毛目の効果に注目し、画家ならではの解説をしている。「次の筆が前の筆のリカバーになっている」って、もう少し詳しく教えてほしい。
作家別でいうと、リューベンスは3点も選ばれていて(ただしどれも習作)よほど好きなんだと思う。一方、ラファエロは1作品選んでいるが「何処がそんなに評価されているのかいま一つ分かりません」という。クールベ、ゴーギャン、ゴッホは選ばれず。ルソーもなかったと思う。セザンヌはお好きなんだなあ。選ばれている作品は、ブリヂストン美術館所蔵の『サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール』。ゴヤのことも端的に「ゴヤは好いですね」と述べていて嬉しい。ピカソのキュビズム絵画『アヴィニョンの娘たち』については「これをイカしてると思う自分の心証は水墨にシビれる心持ちの反映なのです」と気になることを述べている。
フラ・アンジェリコの『受胎告知』(コルトーナ司教区博物館)については、天使の翼の金箔と彩色による表現(いやー確かによく見ると超絶技巧だわ)を称賛したあと「満足したなら近くにあるテアトロと云う料理屋に行って生ポルチーニのパスタをやるのです」「白ワインが実に合うのです」という。ときどき、こんな耳寄り現地情報が付いているものもあった。また、ヤコボ・ダ・ポントルモの『十字架降下』という作品は薄暗い小さな教会にあるそうで、「電灯に照らされると死ぬ絵もある」というコメントに共感した。
関連特集として、いまブリヂストン美術館コレクションの名品展がフランスのオランジュリー美術館で開かれており、山口画伯によるレポート(文章+出張版「すずしろ日記」)が掲載されている。名品展は、モネ、ルノワールなどの西洋絵画と、藤島武二や坂本繁二郎などの日本洋画で構成されており、最初、オランジェリー側は日本洋画の展示に難色を示したが、最終的に理解を示され、展示に至ったという。面白いと思った。