〇三井記念美術館 開館15周年記念特別展『三井家が伝えた名品・優品』第1部:東洋の古美術(2020年7月1日~7月29日)
同館所蔵の三井家伝来の美術品から最高の作品を選んで展示する開館15周年記念特別展。第1部は東洋の古美術品、第2部は日本の古美術品が予定されている。ちなみに、このあとに控えていた特別展『ほとけの里 奈良・飛鳥の仏教美術』(9月12日~11月8日)が中止になってしまったのは大変くやしい。入館前は検温と手指の消毒に加えて、名前(姓のみ)と電話番号を申告する体制(任意)になっていた。
展示は茶道具から。『古銅龍耳花入』(明時代)『青磁筒花入』(南宋時代)など、見覚えのある名品が並ぶ。特に小さな香合三種の、変化のある並びが楽しかった。深紅の『堆朱梅香合』、緑・黄・紫の色合いが異国的な『交趾金花鳥香合』、素朴な絵付けとコロンとした姿がかわいい『宋胡録柿香合』。
書跡・絵画の部屋に入ると、いきなり敦煌写経で驚いた。驚く必要はなくて、むかしの三井文庫別館の時代は、写経や拓本の展示が主だったような気がする(一、二回しか行ったことはないが)。絵画、梁楷の『六祖破経図』は大好き。マンガみたいな横顔、顔や手足をとらえる柔らかな描線と、カクカクした直線で単純化された身体など、『鳥獣人物戯画』の墨線を思い浮かべて、比較しながら眺める。
『刺繍十六羅漢図』(明代)を16面まとめて見ることができたのも面白かった。沈南蘋筆『花鳥動物画』も伝来の11幅をまとめて。以前、6幅までは見たことがあるのだが、全て一括で見ることができる機会は嬉しい。「沈南蘋の描く猫は(他の動物も)どこか可愛らしさに欠ける」というのは、以前も気になった解説。まあ確かに…鳥はともかく哺乳類はあまり可愛くない。
次の展示室は、拓本ばかり20件ほど。顔真卿の『争坐位稿』(宋拓)が素晴らしくて、しばらく前を動けなかった。中国の石刻文字資料としては最古のものといわれる石鼓文(戦国時代)の拓本は「先鋒本」「中権本」「後勁本」(いずれも宋拓)の三種が出ていた。どこかで見たことのある字面だと思ったら、岩波書店刊行の『漱石全集』の装丁に用いられているのか! 王羲之の『蘭亭序』(開皇本、宋拓)あり、虞世南、欧陽詢、褚遂良も揃っていて、好きな者にはたまらない贅沢である。
最後は陶磁器、工芸。呉須赤絵が何点かあって、明快な色彩、形式にとらわれない自由な絵柄が魅力的。リストによれば、このあたりは室町三井家の旧蔵。第1室で、私がいいなあと思った香合三種も室町三井家である。一方、拓本コレクションは新町三井家旧蔵。同じ三井家でも、好みや得意分野があるように思った。