〇インターメディアテク 特別展示『遠見の書割-ポラックコレクションの泥絵に見る「江戸」の景観』(2020年6月24日~9月30日)
仕事でいろいろなホームページを見ていたとき、「泥絵」のキーワードに目が留まった。あとでよく読もうと思ったのに、どこで見たのか忘れてしまった。しばらく考えて、もしやと思って東京大学のホームページを見に行ったら、イベント情報にこの展覧会が載っていた。
主催は東京大学総合研究博物館。「ポラックコレクション」というのは、歴史学者のクリスチャン・ポラック氏(1950-)が蒐集したものらしい。調べたら、2009年の『維新とフランス』展にも同氏ゆかりの資料が展示されていた。
今回の会場は、本郷の総合研究博物館ではなく、東京駅近接の「JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク」である。実はこの施設を全く知らなかったので、興味津々で出かけてみた。そして、大いに驚いた。なにこの素晴らしい博物館!
入口を入るとすぐ目に入るのは巨大な爬虫類の骨格。更新世(洪積世)の日本に生息していたマチカネワニの全身化石(レプリカ)である。北海道大学総合博物館にもいたヤツだ!
写真撮影可能なのは、エントランスホールともう一部屋、古い大学の階段教室を模した造り。えらい学者先生の肖像画がたくさん掛けてある。
手前の機械は、東大法学部大講堂で使われていた35ミリ映写機とのこと。
さらにこのあと、倉庫のように広いスペースに多様な学術標本が所狭しと展示されている。骨格標本、剥製、鉱物のかけら、押し花、図面、古写真、民俗資料、貨幣、楽器、模型、実験器具…。
常設展示の中にいくつかの特別展示が組み込まれていて、たとえば現在は、医学部附属病院から「管理換」(大学っぽい)された肖像画による『医家の風貌』展や、レントゲンのX線発見125年を記念した東京大学=ヴュルツブルク大学連携特別展示『レントゲン-新種の光線について』などが行われている。
『遠見の書割』展は、やや独立した展示スペースで開催されていた。泥絵『東海道五十三次』の約20点が展示されており、木版画の『東海道分間絵図』と比べて眺める趣向が面白かった。泥絵の最大の特徴は、画面全体を支配する冷たく澄んだプルシャンブルー(ベロ藍)にある"という本展の解説には完全に同意するのだが、「亀山」が雪の夜を描いていて、珍しくブルーを使わず、モノトーンに近い(でも微かに色がある)のが珍しいと思った。
泥絵を「遠見の書割」と呼んだのは国文学者の藤岡作太郎(1870-1910)だそうで、もとはどんなニュアンスか知らないが、郷愁を感じさせて、悪くない表現だと思う。この夏は、日本民藝館の『洋風画と泥絵』も開催中だし、私の好きな泥絵にブームが来ちゃったらどうしよう?と余計な心配をしてみた。
それにしても、このインターメディアテクという施設をずっと知らなかったのは口惜しい。2013年3月開館だそうで、ああ~私は北海道への引っ越しでバタバタしていた頃で、その後しばらく東京と疎遠になっていたから仕方ないか。これからは折々遊びに行こう。なにせ入場無料なのである。