見もの・読みもの日記

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なつかし三輪の里/国宝 聖林寺十一面観音(東京国立博物館)

2021-07-12 21:03:35 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京国立博物館・本館特別5室 特別展『国宝 聖林寺十一面観音-三輪山信仰のみほとけ』(2021年6月22日~9月12日)

 先週、東京が四度目の緊急事態宣言に入ると聞いて慌てた。幸い、美術館や博物館への休業要請はないと分かってほっとしたが、見逃せない展覧会は行けるときに、と思って、日曜の午前中(9:30~12:00)に見てきた。特別5室は大階段裏の大展示室である。入ったときは、朝イチをねらったお客さんで混雑していたが、だんだん空いてきて、ストレスなく参観することができた。

 本展は、奈良・聖林寺の 十一面観音菩薩立像を初めて県外で公開するもの。それ以外の情報はあまりチェックしていなかったが、観音の背後に三輪山の写真と模造の三ツ鳥居を配した会場風景はSNSで画像が回ってきた。仏像に詳しい人たちからは「観音に集中できない」「観音が三輪山の化身・大物主命の本地仏に見えるが、それは誤り」などの批判が出ており、共感していた。なかなか会いに行けない仏様を拝する貴重な機会なのだから、過多な演出は止めてほしい。

 まあしかし、会場に入ると、十一面観音の威厳と魅力に自然と意識が集中して、背景はどうでもよくなった。特におもしろいとは思わないが、さほど邪魔にもならなかった。聖林寺の収蔵庫では何度か拝観しているが、たぶんそれより少し高い位置に据えられており、天井の高い、ひろびろした空間に浮かぶ観音を仰ぎ見るような感じだった。単立ケースなので360度どの角度からも眺められることが今回の売りになっているが、観音本体というより、美しい両手の指先を、さまざまな角度から眺めることができて嬉しかった。私は右斜め横から、水瓶を掲げる指先と、鼻筋の通った横顔と、厚く盛り上がった胸を同時に視界に収める角度が好き(この角度の写真は、残念ながら図録にない)。

 背面にまわって、裙の裾が台座から少し浮いていることに気づいた。左右に垂らした天衣の先が裙の裾の下に入り込むようになっているのもおもしろい。全体としては、棒立ちで表情も硬い観音様なのだが、細かい点に神経が行き届いていて美しいと思う。

 向かって右の壁際に、頭も体も四角い、力の籠った地蔵菩薩立像がいらした。もしや?と思ったら、かつて十一面観音と同様、三輪の大御輪寺に祀られていたもので(図録の解説によれば、神仏分離令により聖林寺に移された後)現在は法隆寺の大宝蔵院に安置されているものである。なお、法隆寺には、聖霊院安置の別の木造地蔵菩薩立像もあり、wiki「法隆寺の仏像」に「服制や印相が共通し、制作年代も同じ頃であるが、本像(聖霊院安置)の方がなで肩である点が異なる」という。『聖徳太子と法隆寺』に出陳されるのは聖霊院安置のほうか!

 このほか、大御輪寺旧蔵仏として展示されていたのは、高い宝冠をかぶった一対の菩薩立像(奈良・正暦寺)。日光菩薩・月光菩薩と呼ばれているが、ともに左肘を曲げ、右腕を垂らすポーズでシンメトリーになっていない。本来一具ではなく、尊名も不明という。けれんのない、堂々とした量感が好みである。玄賓庵の不動明王坐像は写真パネルでの紹介だった(事前予約をすれば拝観できるらしい…見たいな)。それから、険しい顔の大国主大神立像、小さな地蔵菩薩立像、湖州鏡(聖観音菩薩像を毛彫り)、大般若経、杮経など、神と仏が共存した信仰のありかたを示す、興味深い品々が大神神社から出陳されていた。

 図録の写真はどれも大変よい。漆黒の背景とぼろぼろの金箔の輝きが最高である。十一面観音の頭上面のアップも貴重な記録。文章では、奥建夫氏の「三輪山信仰と聖林寺十一面観音菩薩立像」が興味深かった。三輪山の祭祀の発端は、疫病が国中に蔓延したときに大物主があらわれ、オオタタネコ(大直禰子)という人物を探し出し、自らを祀るように求めたので、そのとおりにすると疫病が終息したという出来事であるという。なんだか、いまの我々の状況にぴったりではないか。

 大神神社には何年も(もしかして何十年も)行っていない。何度か訪ねたときは、いつも山の辺の道を北からたどるコースだったので、大御輪寺本堂を社殿とする大直禰子神社(若宮社)は一度も見ていないのではないかと思う。これは見ておかなくては。山の辺は、柿の色づく秋がいいだろうなあ。

 会場を出て、クリアファイル入りの「東博ご出座記念」の限定御朱印をいただき、袈裟をきた女性(たぶん聖林寺のご住職)に日付を入れていただく。聖林寺は観音堂改修の資金を必要としており、昨年のクラウドファンディングには、私もわずかだが参加して、観音様とご縁を結んだつもりになっている。現在、第2弾のクラウドファンディングを実施中であることを付け加えておく。

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