見もの・読みもの日記

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徽宗の猫と桃鳩/北宋書画精華(根津美術館)

2023-12-03 20:46:47 | 行ったもの(美術館・見仏)

根津美術館 特別展『北宋書画精華』(2023年11月3日~12月3日)

 日本に伝存する北宋時代(960~1127)の書画の優品を一堂に集めた展覧会。「きっと伝説になる」をキャッチコピーに、力の入った展覧会で、北宋の絵画作品21件(墨摺、関連作品を含む)、経巻・書跡10件、舶載唐紙を使った古筆切9件が集結していた。ただ、所蔵館を見ると、大阪市博とか藤井斉成会有鄰館とか黒川古文化研究所とか、最近ご無沙汰しているけれど、たぶん一度は見ている作品が多かった。

 その中で最も「レア」なのは、12/1~3の3日間だけ展示される徽宗皇帝筆『桃鳩図』だと思ったので、展示リストが公表されるとすぐ、最終日12/3の朝イチの日時指定券を取って、あとはじっと待っていた。そうしたら、このブログに大和文華館の『いぬねこ彩彩』を見て来た感想のコメントで、11/28~30の3日間、伝・徽宗筆『猫』が出るというのを教えてくれた方がいて、慌てて日程を調整した。どうやら11/29(水)なら都合がつきそうだったので、15:00過ぎに仕事を切り上げて表参道にダッシュした。幸い、予約なしでも入れてもらえたが、館内は外国人のお客さん(中国系+欧米系)でけっこう混み合っていた。

 冒頭は荘重な雰囲気の墨画山水図が並んでいて、いかにも根津美術館らしいチョイスだと思った。まあ北宋絵画に対する日本人の伝統的な好みということになるのかもしれない。本展には彩色の花鳥画はほとんどない中で『猫図』が目立っていた。大和文華館で見た模本と同じ、額に黒い斑点を持ち、尻尾は黒い白猫が、丸くなっている。ボールのような白い球体の中に、金色の両目と、かすかに黒い鼻と、人間臭く微笑むような口元がぼんやり浮かんでいて、チェシャ猫のようだった。図録の解説によれば、水戸徳川家に伝来し、益田鈍翁旧蔵でもあるとのこと。

 今日12/3は、この位置が『桃鳩図』に置き換わっていた。ほぼ開館と同時に入館したのだが、すでに作品の前に人が集まっていた。それでも適当に入れ替わってくれるので、大きなストレスはなかった。2022年に京博の『茶の湯』展で見たときは、背景に淡いピンクの壁紙が使われていて、作品の色彩(桃花のピンク、鳩の青と緑)を引き立てていた。今回は地味なグレーの壁紙で、展示室内が薄暗いので、あまり色彩が目立たない。その代わり、小さな画面全体がぼんやり輝いているように見えた。今日の印象のほうが、むかしの灯火の下の見え方に近いのかもしれない。

 仏画の見ものは、清凉寺の『十六羅漢像』より2幅(14、15尊者)と仁和寺の『孔雀明王像』。前者はときどき東博に出ており、後者は東博の『仁和寺』展でも現地でも見たことがある。白鶴美術館の『薬師如来像』『千手千眼観音菩薩像』(五代)は敦煌莫高窟の蔵経洞で発見されたもの。色彩鮮やかで素朴な仏画。これも所蔵館で見たことがあるのを思い出した。

 第2室は李公麟特集で東博の『五馬図巻』に加えて、米国メトロポリタン美術館から、説話を1場面ずつ描いた『孝経図巻』と肖像画『畢世長図』が来ていた。『五馬図巻』の前は大渋滞で、警備員さんが「前に進みながらご覧ください」と声をかけても、なかなか人が動かない状況。でもみんな辛抱強く順番を待っていた。私は、かつて東博でじっくり眺めたことがあるので、今回はむしろメトロポリタン美術館の所蔵品を鑑賞することに注力する。実は、李公麟=李龍眠(羅漢図でおなじみ)だということを初めて認識した。

 2階の展示室5は、書跡と舶載唐紙。黄庭堅はいいねえ。永青文庫から『行書伏波神祠詩巻』が来ていた。蔡襄の『楷書謝賜御書詩表巻』は仁宗に献上したものという解説を読むと、ドラマ『清平楽(孤城閉)』が頭に浮かぶ。私にとってはあのドラマが、北宋宮廷のスタンダードなイメージになっている。

 今日は最後にもう一度、冒頭の山水画を眺めて名残を惜しんだ。そのとき、高桐院所蔵の『山水画』2幅は、大徳寺の宝物風入れで見たことがあるものだと気づいた。向かって左に滝、右に樹木の図が掛かっており、水に濡れた岩が、けっこう大胆な墨のベタ塗りで描かれていておもしろいと思った。

 1時間くらいで外へ出ると、道路と並行した庇の下には、当日券を求める人の長い列ができていた。根津美術館でこんな光景は初めて。みんな、無事に参観できているといいのだけど。

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