見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

覇者の交代/都会の鳥の生態学(唐沢孝一)

2023-12-02 22:50:56 | 読んだもの(書籍)

〇唐沢孝一『都会の鳥の生態学:カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』(中公新書) 中央公論新社 2023.6

 千葉県市川市に住み、都立高校に勤める著者が、半世紀以上にわたって「都市鳥」を観察してきた経験をまとめたもの。都市鳥とは、都会に生息する鳥をいう。都市環境に最初に適応したのは、すでに農村で人に適応していたスズメやツバメ、カラスで、その後、さまざまな野鳥が進出してきた。日本では、1960~70年代に、キジバト、ヒヨドリ、ハクセキレイ、イワツバメ、ユリカモメが進出し、80年代には、チョウゲンボウ、コゲラ、カルガモが見られ、いったん姿を消したカワセミが東京23区に戻ってきた。2000年代には猛禽類のオオタカやハヤブサが都市で繁殖するようになった。一方、中国大陸や東南アジアから持ち込まれた外来鳥類の野生化も観察されているという。

 本書は、副題にもあるとおり、ツバメ、スズメ、カラス等々、種類ごとに章を立て、都会における「栄枯盛衰」を記述しているのがおもしろい。ツバメは「人との親密な関係」を利用し、銀座や丸の内のビル街で繁殖してきたが、都心のビルが超高層化するにつれて姿を消し、郊外へ移動しているという。スズメはツバメほど人に近づかないが、それでいて離れすぎない距離を選び、人に追い払われながらも人と共存してきた。スズメには、集団ねぐらで夜を過ごす個体と単独ねぐらを持つ個体がいる。街中で繁殖するスズメは、屋根の隙間、電柱の腕金(中空のパイプ材)などを単独ねぐらにする。しかしビルが高層化し、電柱の撤去が進む都心は、やはり営巣しにくくなっているようだ。それでも身体の小さなスズメは、さまざまな建造物や銅像(!)のちょっとした隙間で繁殖しているという。

 カラスは「都市生態系の頂点」に立つ鳥と見られていたが、2000年をピークに激減しているという。これは東京都民感覚としても同意できる。カラス減少の最大の要因は生ゴミの減量である。2005年以降は、ゴミの量は横ばいだが、カラス対策のネットや生ゴミの深夜回収が功を奏したと見られる。コロナ禍に伴う飲食店の休業やテイクアウトの普及など、都会人の生活スタイルの変化も影響を与えた。そして第二の要因は、猛禽類の進出である。これは実感したことがなかったので驚いたが、新宿副都心や六本木ヒルズでハヤブサが観察されているという。まあ岩場も高層ビルも同じようなものか。

 猛禽類でも樹洞で営巣するフクロウは、都心進出は難しいと考えられていたが、都心の緑地で生息が確認されているという。いいなあ、ハヤブサやフクロウの住む大都会。この状態を維持するためにも、あまり都心の樹木を伐らないでほしい。

 水鳥について。上野不忍池の優占種が、コガモ→オシドリ→オナガガモ→ヒドリガモ、キンクロジハジロと変遷していることは初めて知った。不忍池にはカワウのコロニー(池の小島)があるが、巨大都市の真ん中で、カワウのような大型水鳥が繁殖しているのは世界的にも珍しいという。皇居外苑のコブハクチョウ(たぶん見たことがある)は、1953年にドイツから移入され、飼育されているもので、羽の一部が切られているのでお濠からは飛び出せない。コブハクチョウの寿命は50~100歳と言われている(私と同じで、昭和、平成、令和を生きているのだな)。縄張り意識が強いので、1つの濠では1つがいが繁殖しているという。

 湾岸近くに暮らす身として、なじみが深いのはウミネコ。もともと上野動物園で保護していたウミネコを不忍池に放したのが、池の畔で繁殖するようになり、墨田区、江東区、中央区などに広がり、隅田川に近いビルの屋上で繁殖するようになったという。今や都会のウミネコは「カラスと互角」だというが、私の生活圏では、もはやカラスを駆逐して都市鳥の頂点に立っているように思える。しかし、カラスの栄枯盛衰を見て来た身には、ウミネコの覇権もいつまで続くか、と疑われる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする