〇永青文庫 令和6年夏季展『Come on!-九曜紋見つけて楽しむ細川家の家紋-』(2024年7月27日~9月23日)
武器武具から調度品、染織品、掛軸の表装にいたるまで、大名家の伝来品にみられる九曜紋を幅広く展示し、細川家と九曜紋の関わりを紹介する。同館初となる家紋をテーマとした展覧会。昨年、同館所蔵の『長谷雄草紙』全巻公開展が開催されたとき、紀長谷雄邸に停められた牛車に描かれた九曜紋は「交通安全のお守りの役目の紋様だった」ということを初めて知った。以来、九曜紋のことが気になっていたので、うれしい企画だと思った。
大きな円を小さな8個の円が取り囲む九曜紋は、太陽、月、火・水・木・金・土の五惑星、日月食や彗星に関係するとされる羅睺星・計都星を表すと言われ、細川家では、2代忠興が織田信長より九曜紋を拝領したと伝えられている。以上は本展の開催趣旨によるが、会場内にあった解説パネルによれば、忠興が信長の刀の小柄に施されていた九曜紋を気に入り、自ら願い出て使用を許可されたのだという。ところが、7代宗孝が、別の九曜紋の人物と取り違えられて斬りつけられるという事件が起きため、細川家では、9つの円を離した独自の「細川九曜」を用いるようになったという。面白すぎ。実際には、普通の九曜紋も細川九曜も併用されてきたようだ。
菊や桐、雀などの具象的な家紋と違って、圧倒的にシンプルなデザインがカッコいい。『白羅紗地九曜紋付陣羽織』(細川光尚所用)は、名前のとおり、白地の陣羽織の背中に黒一色で大きな九曜紋を入れたもの。鐙や鞍、陣笠などの武具だけでなく、陶製の香炉や蒔絵の手箱にも付いていた。弓懸(弓を射るときの皮手袋)は、茶色地に白抜きで小さな九曜紋を散らした柄がオシャレ。復刻して何かグッズにしてくれないだろうか。
あと気になったのは『軍配団扇』で、九曜紋は使われていないが、表面は黒地に赤い日の丸、裏面は黒・金・赤の星を円形に拝しており、日付や方角の吉凶の早見盤のようなものだったと思われる。天文学好きの綱利の所用として伝わるという。このひとは、携帯用の紙椀(折り畳み式の紙コップみたいなもの、九曜紋入り)も残っていて、面白い。
久しぶりに御座船「波奈之丸(なみなしまる)」の図が見られたのも嬉しかった。側面に九曜紋が並んでいるのは、細川家の家紋であると同時に交通安全の意味も込められているのかもしれない。
しかしこの展示でいちばん驚いたのは、2階展示室のカ-テンの模様が九曜紋だったこと。何度も来ているはずなのに一度も気づかなかった。