〇日中友好会館美術館 2024年特別企画『長安・夜の宴~唐王朝の衣食住展~』(2024年10月11日~12月1日)
前稿で記念講演と映画の話を書いたので、あらためて展示内容について。中国・唐王朝の衣食住、および娯楽文化を中心に、当時の服装やアクセサリー、食器や茶道具、書画や楽器など、古代遺物と複製品約130点を展示・紹介する(無料)。複製品が主であることは、事前に聞いていたので特に問題はなかった。衣類とかアクセサリーは、なかなかよくできたものもあった。
繭山龍泉堂さん所蔵の古美術品もいくつか出ていた。これは、唐(7世紀)の黄釉加彩婦女騎馬像。加彩から三彩に移行する過渡期につくられたとのこと。
唐代のファッションを再現した舞踊・古楽演奏のビデオも楽しかった。唐代と一口に言っても(300年もあるので)時代によって変化がある。初唐の女性の髪形はお団子ヘアが基本だったが、中晩唐には高く結い上げたり、付け毛で膨らませたり、どんどん奇抜になっていく。でも武則天時代は女性の社会進出が進んだので、時間のかからない髪形が好まれたという。唐の末期は社会不安と混乱の中で、やはりシンプルに戻っていく。中晩唐のメイク(眉の描き方など)は、ほんとに呆れるほど奇抜。
食べものについて、役人の給与は現物支給(毎月、羊〇頭)だったというのが面白かった。日本は米だが、唐ではヒツジなんだな。また、当時は豚の飼育技術が未発達だったため、豚肉は生臭く、食べにくい肉だった。ほとんどの豚肉は油の精製に用いられていた。鉄鍋はまだ普及しておらず、料理といえば、煮る、蒸す、炙るで、炒める調理法が登場するのは宋代からだという。
飲みものは、初唐の頃は乳製品飲料が主だったが、中唐からお茶が普及していく、初期のお茶は、ネギ(?)やショウガ、ナツメなどを加えたどろどろした飲みものだったらしい。また、唐代は温暖な気候で、夏の長安は非常に暑かったので(そうだろうなあ)、氷室の氷を活用したアイスドリンクが好まれた。お酒は緑色の酒粕の浮かんだ濁り酒が一般的だったが、四川省では、灰汁を加えて煮詰めた清酒「剣南春」がつくられ、朝廷へ献上されていたことは「新唐書」に記載があるという(へえ!)。
…などなど、勉強になったが、一番気になったのは、長安都城の図。A0版のパネル(ポスター)に、模式化された条坊と邸宅がびっしり描かれており、ところどころ、人物やラクダの姿もあってかわいい絵図なのだが、近寄ってみたら、小さな活字で「白居易宅」「賀知章宅」という注記があるのだ(これは東市の南側の宣平坊)。ほかにも高力士宅(これは大明宮の門の前)とか太平公主宅とか李賀宅とか…。この絵図は、残念ながら図録には掲載されていない。案内のお姉さん(学生さんかな?)に「どこかで入手できないでしょうか?」と聞いたら、すまなそうに「写真を撮っていってください」と言われてしまった。
妹尾達彦先生が講演の中で、文書をつきあわせると、誰がどこに住んでいたかがかなり分かる、8世紀や9世紀でこんな都市はほかにない、とおっしゃっていたと記憶するので、どこかにデータがあるんだろうな。欲しい~!