見もの・読みもの日記

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童心の異次元/伊藤若冲 アナザーワールド(千葉市美術館)

2010-06-22 23:05:52 | 行ったもの(美術館・見仏)
千葉市美術館 『伊藤若冲 アナザーワールド』(2010年5月22日~6月27日):後期

 小林忠館長の講演会『伊藤若冲の多彩な絵画ワールド』のあと、ほとんどの作品が展示替えとなった後期の会場を見る。初期の作品では『蓮・牡丹図』の荒ぶる蓮図に惹かれる。かと思えば、モノクロームと着彩が同居する『百合図』の静けさ。図録を見て、本物が見たい!と思って来たのは、逆立ち姿勢で落下する『雷神図』。これは千葉市美術館所蔵だから、また見る機会がありそうだ。図録との印象の違いに驚いたのは、MIHOミュージアムの『双鶴図・霊亀図』。特に亀は、大画面をはみ出す迫力。太い足で大地を踏みしめ、鋭い眼光できりきりとこちらを睨んでいる。黒々とたなびく尻尾は不動明王の炎のようで、武田信玄の兜を思い出す。

 前半生の基準作といわれる『花鳥蔬菜図押絵貼屏風』を静かに見ていて、ふと振り向いて、びっくり。おお、背後は『象と鯨図屏風』でないか。MIHOミュージアムの『若冲ワンダーランド』では、この作品だけ単独の展示室に飾られていて、下にも置かぬ特別扱いだったことを思うと、まだ第1会場の前半(?)、こんな大部屋でいいのか?と思ったりする。でも、この屏風は、部屋の広さも明るさも、自然でさりげないシチュエーションで見るほうが、魅力が増すように思う。

 鯨図の前に立つと、ざぶーんと砕ける波しぶきが何ともリアル。いや、リアルに描いていないのに、リアルな実感がある。旭山動物園の白クマのごとく、目の前の水面に、巨大な鯨が素早く潜り込んでいくのを見ているようだ。てらてらと濡れた鯨の背中、激しく上下する波の山。これは、出光美術館の『屏風の世界』じゃないけれど、屏風の折り山を巧く使っているなあと感じた。一方の白象も同じ。平面的に引き延ばした図録の写真では、やや胴長に見える象が、屏風の折り山をまたぐことで、正方形(むしろ球形?)に膨らんだ風船のように見える。ポンとお尻を叩いたら、反動で、ふわふわと浮かび上がっていきそう…。

 第2会場では、水墨の風景図がまとめて見られて満足。前後期通し展示の西福寺蔵『蓮池図』は、哲学的な静けさを感じさせ、この展覧会の見もののひとつだろう。と思うのだが、徹頭徹尾、俗っぽい私は、同じ室内の天明8年『鶏図』シリーズに魂を奪われてしまう。二曲屏風+掛軸一幅+襖八面の計11図という不思議な構成で、茨木市内の旧家に伝わったもの。各図とも背景に薄墨を刷き、野菜と3羽のニワトリを描く。図録で見たときは、特に印象に残らない作品だったのに、大画面で見ると、生々しさに圧倒される。水墨画らしい「掠れ」や「滲み」を敢えて避け、黒・白・薄墨をきっちり塗り分けた表現が、ものすごくマンガに近い。襖の右から三面目、空中に飛びあがってストップモーション状態のニワトリとか、同二面目、目を細めて陰険に睨むニワトリとかも。

 この鶏図を見ていると、子どもの頃、モノクロ印刷のマンガ雑誌を見ながら、目も眩む色彩のファッションショーや華やかなバレエの舞台が想像できたことを思い出す。小林先生は「若冲ばかりに注目が集まり過ぎ」とおっしゃるけど、こういう、マンガ・アニメ世代の感覚にぴたりとハマる画家って、やっぱり若冲以外いないと思うのだ。

 ひとつの展覧会を4回も記事にするのは滅多にないことだけど、ホントに楽しかった。千葉市美術館のみなさま、日曜の最終日まで頑張ってください。

『伊藤若冲 アナザーワールド』(2010年5月22日~6月27日):前期
記念講演会「伊藤若冲の魅力」(講師:辻惟雄)
講演会 「伊藤若冲の多彩な絵画ワールド」(講師:小林忠)※来場者372人だそうです。

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1 コメント

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Unknown (asutolavie)
2010-06-23 07:38:12
千葉市美術館の無名のサポーターとしてうれしく読ませていただきました。当日は一階さや堂で講演のサポートをしていました。『雷神図』は大岡春朴の『画巧潜覧』に載っている≪柳の上の少年≫を真っ逆さまに落下させたような作品。私も大好きです。
前に書かれた天理ギャラリーの『上田秋成展』を見て、盛夏の京都行きを決めました。
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