西暦2016年葉月蝶人狂言畸語輯&バガテル―そんな私のここだけの話 op. 241

政権党の横暴を向こうに回して、かよわい女一匹がプッチーニのオペラ「西部の娘」のミニーのように立向かう、という構図に興奮した多くの選挙民たちは、誰かが「こいつはゴリゴリの右翼でファシストだよ」と囁いても、誰一人聞き入れようとはしなかった。8/1
「細雪」と云う題は、いつぞや陛下の御前でお食事を戴いた時、吉田前首相から「ああいうむづかしい読み方の題はお止めになった方がよござんすな」と云われたことがあったが、実は最初は「三姉妹」か「三寒四温」にしようかと迷っていた。谷崎潤一郎「創作余談」
「細雪」は本来あの倍くらいの長さにして、もっといろいろな人物や事件を織り込み、醜悪な暗い方面をも描くつもりであったのが、時局に遠慮して明るい甘い方面ばかりを扱うやうになったので、「三寒四温」では少し題材に適しなくなり、前から好きだった「細雪」という言葉を咄嗟に思い出したのであった。谷崎潤一郎「創作余談」
月曜日はすぐにやって来るが、土曜日はなかなかやって来ない。7/23
いつもは大嫌いな中国産のガビチョウか、大好きなウグイスやコジュケイの鳴き声で目を覚ますのだが、今朝は「テッペンカケタカ」というホトトギスの鳴き声で目が覚めた。
郭公声横たふや水の上 ばせを 8/3
私はリオも東京も五輪には関心がない。そんなにやりたいならやりたい奴だけで勝手にやれよという感じだが、地球温暖化で亜熱帯と化したこの国の真夏に運動会をやるなんて、馬鹿げている。選手も観客も熱中症でバタバタ死んでしまうのではないだろうか。8/6
海岸で若者たちがスイカ割りをしていたが、なんと手刀で割ろうとしている。あんなの初めて見たが、手頃な棒がなかったからかな。それとも棒でめちゃめちゃになるのが厭だったからかな。8/7
ミンミン、アブラ、ニイニイ、カナカナに加えてツクツクホウシまで混声5部で鳴いている。蝉の鳴き声がうるさいという不届きな非国民がいるようだが、鳴いているのは雄ばかり。もしも鳴かない雌蝉まで鳴きだしたら、そりゃ多少は煩いかも知れないな。8/8
天皇を「象徴」の重荷から解放するのみならず、彼と彼の一族をそれぞれ一人の民草に回帰させることが、私たちとこの国の仕合わせにつながるだろう。8/9
全身全霊を挙げて憲法と国民のために身を捧げてきた孤独な老人の悲鳴を、長年に亘って聞こえないふりをしてきた政治家たちの責任は大きい。8/10
昔は夏が一番好きだったが、だんだんそうでもなくなってきて、今では大げさに言うと、命懸けでやり過ごしている。8/11
この糞暑いのにリオデジャネイロでは御苦労なことだ。生きているか死んでいるか分からないけど、4年後の東京が思いやられる。8/12
現代俳人は滑稽な句をつくれない。だからつまらないんだね。丸谷才一「歌仙早わかり」
大岡昇平の「花影」は日本の花柳小説の掉尾を飾る小説であるが、その題名は杜荀鶴の「風暖かにして鳥声砕け 日高うして花影重なる」から取られた。その中に次のような一節がある。辻原登「夜半亭饗宴」
「日は高く、風は暖かく、地上に花の影が重なって、揺れていた。もし葉子が徒花なら、花そのものでないまでも、花影を踏めば満足だと、松崎は空虚な坂道をながめながら考えた。」大岡昇平「花影」
いよいよSMAPが解散するという。彼らの下手くそな歌と踊りをもう見たり聞いたりしなくて済むのがうれしい。今後は草彅剛、香取慎吾の両君の演技の成長に期待している。8/16
第一ヴァイオリンの音程がかなり甘いが、精確さだけに終始する演奏と違ってモザールになり変って懸命に歌っているからまあいいだろう。8/17
財あれば恐れ多く、貧しければ恨み切なり。人をたのめば、身、くるし。したがはねば、狂せるに似たり。いづれの所を占めて、いかなるわざをしてか、しばしもこの身を宿し、たまゆらも心を休むべき。鴨長明「方丈記」8/18
ほどせばしといへども、夜臥す床あり、昼居る座あり。一身を宿すに不足なし。鴨長明「方丈記」8/19
事を知り、世を知れれば、願はず、わしらず、ただしづかなるを望みとし、憂へなきを楽しみとす。鴨長明「方丈記」8/19
恵心僧都は和歌は綺語のあやまりとて詠み給わざるが、かすみわたれる浪の上に船の通ひけるを見て、(慢誓の)世の中を何にたとへん朝ぼらけこぎ行く舟の跡の白波」を思ひ出して「聖教と和歌とは、はやく一つになりにけり」とて其の後は必ず詠じ給ひける。鴨長明「発心集」8/19
詩作とは詩嚢、詩の袋をたずさえて行くことを作ること。吉増剛造「怪物君」8/19
考ヘルまへに、歌ッていた、……吉増剛造「怪物君」8/19
何ぞ馬鹿囃子!
ひーひやら、(葉……)
(わたくしの寝息でした、……)吉増剛造「怪物君」8/19
もしかしたら、これは、死? ヨーゼフ・フォン・アイヒェヘンドルフ 吉田秀和訳 8/25
成人した息子や娘がどのような犯罪を犯そうが、その親とはもう関係がない。たとえどんな悪い、あるいは良い親子であったとしても。8/26
14引く6がとっさに暗算できなくなくなってきた。もう駄目だ。8/26
子供の頃から「君が代」を歌ったことがない。プロテスタントの家でも、学校でも、誰からも強要されることがなかったからかもしれないが、「民が世」なのになんで「君が代」なんだ、とその歌詞に反発を覚えていた。8/27
それに「君が代」の退嬰的で物哀しい雅楽風のメロディも陰々滅滅でけたくそ悪い。リオ五輪での編曲がグレゴリオ聖歌風?で話題を呼んでいるが、ジミヘンのアメリカ国歌のように色々なアレンジをすれば、少しは聞くに耐えるように変容するかもしれない。8/28
政権党は「君が代」を勝手に国歌と決めているようだが、それは彼らの政治的な思惑の所産にすぎない。私は「青い山脈」のほうがなんぼかましだと確信しているが、今からでも遅くないから、国民から公募した新しいものにすべきだと考えている。「日の丸」も同様。8/29
強欲じゃあ強欲じゃあといいながらなんでも腹に収めてしまう人 蝶人