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照る日曇る日第891回
朝日新聞に延々と連載されたボクシング小説がやっと終わった。
元ボクサーの広岡が昔の自分を思わせるような有望な若者翔吾をジム仲間と共に応援して必殺パンチを伝授し、翔吾は広岡が成れなかった世界チャンピオンのベルトを手に入れるが宿痾の心臓発作で「春に散」っていく、という、なんちゅうか一種の「親子鷹」のような世話物話である。
「春に散る」というタイトルは、主人公を春に死なせるつもりでつけたのだろうが、発作が起きたのに生憎ニトロを持ち合わせていなくて死んでいくという最後のおとしまえのつけかたは、どうにもいただけない。
これではとうとう3度目にスズメバチに刺された私が、エピペンを持たずにひよどり公園でくたばるようなものではないか。どうせ散るなら「あしたのジョー」のようにドラマチックに燃え尽きてほしかった。
そもそも沢木の文体は、小説のそれというよりはドキュメンタリー専科の乾性の筆致であり、肝心のボクシングの描写も、格闘の説明文の積み重ねにすぎないから、読んでいるほうもあまり感情移入できない。そういう点では彼の後輩にあたる角田光代の「空の拳」のほうが内容も文章も百層倍も優れたボクシング小説だった。
沢木が同じ朝日新聞に連載していた「銀の街から」「銀色の森」もじつに下らない映画感想文だったが、残念ながら本作が、若き日の彼の代表作「一瞬の夏」に遠く及ばないことだけは確かである。
木金は息子が勝浦へ旅行するなんとか無事に終わってほしい 蝶人