照る日曇る日第1492回
蕪村の「新花つみ」を含めた全発句集に加えて「春風馬堤ノ曲」を含めた「俳詩」、さらに彼の様々な「文章篇」で構成された1巻本の全集である。
芭蕉の後を継ぎ、それに匹敵し、一部ではそれを凌駕する発句をつくった蕪村であるが、その名をさらに高めたのは生新な俳句と現代詩が融合した「春風馬堤ノ曲」一編であろう。
以下、夜半亭の名作のいくつかを再録しておこう。
遅き日のつもりて遠きむかしかな
春の海終日のたりゝかな
大津絵に糞落しゆく燕かな
うつつなきつまみごころの胡蝶哉
ゆく春やおもたき琵琶の抱心
几巾きのふの空のありどころ
菜の花や月は東に日は西に
牡丹散て打かさなりぬ二三片
地車のとどろとひびく牡丹かな
みじか夜や毛むしの上に露の玉
夏河を越すうれしさよ手に草履
愁いつつ岡にのぼれば花いばら
夕風や水青鷺の脛をうつ
さみだれや大河を前に家二軒
朝がほや一輪深き淵のいろ
月天心貧しき町を通りけり
去年より又さびしいぞ秋の暮
もう二度と会うことはないと知るゆえに長くて熱い我らの握手 蝶人