レアード・ハント著・柴田元幸訳「インディアナ、インディアナ」を読んで
照る日曇る日 第1984回
ハントが何者であるかはさっぱり知らんかったが、訳者を信用して読んでみたらまあまあ面白かった。柴田選手に拠れば、なんか当節のアメリカ文学の旗手らしい。
冬の朝霧の向こうに登場人物が謎めいた動きをしているように感じられる、亡羊として文章が続くが、それは散文というよりは抒情的な散文詩のような印象を与える。
物語の輪郭は、ようやく小説の終わりの方で急いで読者に伝えられるが、主人公のノアも、その結婚相手のオーバルも頭がへんちくりんで、それがこの曖昧模糊たる文章に象徴されているのだろう。
新婚早々のインディアナ州の自宅に、みずから火をつけて全焼させたために強制的に精神病院に入れられたオバールからノアへの、拙くて可憐な手紙がインサートされ、それが本書の詩的で抒情的な性格を支えている。
ノアは聖書に出て来るノアのもうひとつの箱舟で、そこには孤独で悩める青年ノアがひとりしか乗っていなかったという挿話も、限りなく物悲しい。
米国のインディアナ州はもともとは先住民たるインディアンのもの 蝶人