あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

由良川狂詩曲~連載第3回

2016-09-15 10:06:30 | Weblog


第1章 丹波人国記~プロテスタント  
 

 さて綾部は、このお話の主人公、健ちゃんのお父さんの故郷でもあります。
 お父さんのマコトさんは、大学生になってからは東京に出てしまったために、いまは綾部では健ちゃんのおじいちゃんのセイザブロウさんとおばあちゃんのアイコさんが、西本町で小さな下駄屋さんを開いています。
 屋号を「てらこ」というのですが、江戸時代には寺子屋、つまりいまでいう幼稚園か小学校があった場所に、健ちゃんのお父さんのお父さんのお父さんのそのまたお父さんが下駄の商売を始めたのでした。
 つまり健ちゃんのひいおじいさんが、明治の終わりごろに開業したのが「てらこ履物店」だったのです。

 いまの人は、下駄なんて浴衣を着るときくらいしか履きませんが、健ちゃんのお父さんが子供の頃は、まだ和服を着る人も多く、下駄を履く人と靴を履く人がちょうど半分くらいの割合だったそうです。
 あるとき、(それは健ちゃんのお父さんが、いまの健ちゃんくらいの12歳頃のことでしたが)マコトさんが、セイザブロウさんが下駄の鼻緒をすげるのを眺めていたところへ、ひとりのよぼよぼのおじいさんが、傘をついてやってきました。
 ちなみに綾部では、ロンドンのようなにわか雨が降るのです。
 そのおじいさんは、「てらこ履物店」のある綾部の中心街からバスで1時間半ほど丹波高原の山地へ入った上林村の、さらにいちばん奥地の奥上林村から、半日かけてやってきた80歳くらいの人物で、腰は曲がり、髪は真っ白、顔は白い口ひげとあごひげにおおわれて真っ白、まるで仙人のような、この世離れしたいでたちで、てらこのお店へやってきたのでした。
 おじいさんは、左手に碁盤模様の風呂敷包みと古ぼけた傘、右手にはなにやら灰いろにすすけた木のかたまりのような、ボロのような、奇妙な物体をぶらさげていました。
 そして、その汚らしい物体をカウンターの上にどさりと置きながら、こういいました。
「ほんま、この下駄は長いこともちよったわ。おおきに、ありがとう。どうぞ新しいやつと取り替えてやってつかあさい」
 セイザブロウさんは、なんのことやらさっぱり分かりません。
「取り替える、といいますと?」
「いやあ、てらこはんの下駄は、ほんま丈夫で長持ちしますなあ。しゃあけんど、もうこうなってしもうたら、寿命や。ほんでなあ、これとおんなじやつがあったら、はよ取り替えてやってつかあさい」
「あのお、うちは古い下駄のお取り替えは、やっとらへんのですけどなあ」
 そういいながら、セイザブロウさんは、あることに気づいて愕然としました。
 人間よりも猪が多い、と冗談のようにいわれる山奥から、腰に弁当を下げ、雨傘をついて、えんやこらどっこい、町の繁華街に出かけてきたこの仙人のようなおじいさんは、昭和の34年にもなるというのに、下駄屋でも、どこの店でも、その都度お金を払って新しい商品を買うのだ、という商習慣が、てんで分かっていないという事実に。
 おそらく彼はいまから4、5年前に、今日と同じように、中丹バスに揺られ揺られて、西本町の「てらこ履物店」にやって来て、そのときは間違いなくお金を払って1足の下駄を購ったのでしょう。
 しかしその下駄が、ちびて、すり減り、とうとう使い物にならなくなったとき、てっきり、定めし、必ずや、てらこでは、無料で、ただで、ロハで、新しい下駄に丸ごと交換してくれるに違いない、という思い込み、信念、確信が、この奥上林村の仙人の頭の中には、ずっしり、どっしり、はっきり、とありすぎたために、健ちゃんのお父さんのセイザブロウさんも、新しい、まっさら、ピカピカの下駄を、その白髪三千丈のおじんさんのために、あやうく、あわや、ほとんど、カラスケースの中から取り出そうとしたくらいでした。
 当時の綾部には、それくらい浮世離れした人々が大勢いましたし、じつは何を隠そう、いまでも素晴らしく浪漫的な人たちが、町のあちこちに住んでいるのです。

「てらこ履物店」の人々、とりわけ健ちゃんのひいおじいさんのコタロウさんは、この町の筋金入りのクリスチャンでした。
 表通りは下駄屋でも、裏に回れば玄関のとっつきに「死線を越えて」の著者がこの家を訪ねた折の揮毫が、ついたてにして飾られ、欄間のあちこちに明治の基督者たち、たとえば、海老名弾正や新島襄の筆になる額がかけられていました。
 ご存知のようにこの国では、戦時中は信教の自由なんてものはありませんでした。コタロウさんのような熱心なクリスチャンは、「ヤソじゃ、ヤソじゃ」と向こう三軒両隣からもさげすまれて、開戦直後に警察のブタ箱に放り込まれる始末でした。
 ようやく戦後になっても、コタロウさんの筋金入りのプロテスタントぶりは痙攣的に発揮され、コタロウさんの孫たちは、神社や寺社仏閣の子供会の早朝参拝や掃除には参加を禁じられていました。
 その代わりにコタロウさんが孫たちに強制したのは、日曜日の朝の礼拝への出席でしたが、これは現行憲法が保障する、個人の「信教の自由」の侵害であったといえるでしょう。
 そういえばある晩のこと、中学生になっていた健ちゃんのお父さんのマコトさんが、毎週土曜夜の学生礼拝をさぼって、町でただ1軒の映画館「三つ丸劇場」で、ジェームズ・ギャグニー主演のめったやたらに面白いギャング映画を見物している最中に、てらこの特別捜索隊に発見され、泣く泣く教会に連れ戻されたという、聞くも涙、語るも涙の物語もありました。
 その際、劇場の切符もぎりのおばさんが、思わず洩らしたひとこと、「せっかく楽しんどってやなのに、親がそこまでやらんでも、ええのにねえ」に、筆者(わたくし)は、いまなお衷心より共感いたすものであります。

                             次回へつづく
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イーストウッド監督の硫黄島2本

2016-09-14 10:09:59 | Weblog


闇にまぎれて cyojin cine-archives vol.1068&1069


○クリント・イーストウッド監督の「父親たちの硫黄島」をみて

硫黄島の決戦を真正面から描いた映画かと思ったら、そうではなく擂鉢山に例の星条旗を立てた6人の兵士の物語の映画化であった。

6名の海兵隊員のうち3名は戦死したのだが、この写真の出来栄えがあまりにも感動的で愛国主義を高揚させるしろものであったために、悪賢い偉いさんが目をつけ、この3名を戦時国債の販売促進の目玉にしようと思いついたために、彼らは猿回しの猿のように全米をかけずり回る羽目になる。

それは再び戦地で死に瀕するよりは安全な仕事であったが、このような不純な動機から始まった彼等の人生、とりわけ実際にはこの写真に映ってはいなかった兵士のそれに大きな影響を与えることになる。

無名の兵士が一夜にして有名人となり、英雄に祭り上げられ、思いがけない人生を歩まざるを得なくなる不条理をクリント・イーストウッドは不器用に描いている。


○クリント・イーストウッド監督の「硫黄島からの手紙」をみて

今度は日本側からの視点で撮られたというが脚本が問題。
「硫黄島からの手紙」という題名であるにもかかわらず、あまり手紙のウエイトは高くないし、かといって作戦や戦闘本位の展開でもないので中途半端な展開になる。

ほんのわずかな水を彼らがどのように大切に使用したか、地下要塞の全容や陸海軍の対立、司令官の命令違反の実態などについてもっと掘り下げてもらいたかった。
西大佐の最期は、あれが本当なのだろうか?

栗林陸軍中将を渡辺謙が熱演。


    歯が痛い歯が歯が痛い歯が痛い歯が歯が痛いとっても痛い 蝶人

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自由律詩歌 その3

2016-09-13 09:39:22 | Weblog


ある晴れた日に 第403回


俺のウナジロウは誰かに捕まって蒲焼にされたのだろうか

戦争のセの字も知らんやつらばが戦争したいと喚いとる

夏なのに足がどんどん冷えてゆく足がエアコンになればいいのに

こう暑うては死ぬ死ぬ死ぬ

大滝詠一、残念だった。

波にチャプチャプ浮かんでるー

あんまりベタベタくっつきすぎてると嫌になる

子供には入っているけど妻には入っていないものそれは俺の遺伝子。

五十キロの巨大な西瓜をちびちび食す

世の中なんて、人世なんて、なんぼのもんじゃ。

残念だ、残念だ、ふきのとう舎の山本さんは、残念だ

こう暑くては生きていてもしょうがない気がする

下手くそなDJを聞いていると寒イボが出てくる

道にはくたばりそこないがゴロゴロ

心頭は滅却したがそれでも熱い

お里の便りも絶え果てた

国賊が国益食い潰し国滅亡

愛国者が国を滅ぼす葉月かな

宰相が憲法破る葉月かな

頑迷な職員が利用者をおいつめる

愛のないやつは駄目だな

おいらは人世マンだ。どうだ参ったか。

深夜に撃鉄を惹き起した

まるで人世花嫁御寮

そんなに戦争が好きなら自公は全員進ぬ!最前線

あ、こりゃ、こりゃ。

生きてしやまむ

くたばれ三百代言 くたばれ安倍蚤糞

8.15第三者は終戦第一者は敗戦といふだらう

ここで逢うたが百年目

ぬあんとまあ、ころっと騙されてしまうんだ

そこまでじゃ。

一分の黙祷の後どうするの

クマゼミはミンミンの1オクターブ上で鳴いている

こんなに暑いのに臀部は井戸の中の西瓜のやうに冷えている

クマゼミの姿は見えず空に雲

君が草刈る 僕が袋に入れる

カンナ咲くイデオロギーに違いあり

花赤しイデオロギーには毒がある

家毎に三つの憂い窓閉ざす

「審議が熟したら採決に入りたい」と脳内が熟した男がいう。

民主主義は多数決ですか?

ようやく平和憲法と国民主権の値打に気付きはじめた人々

もう秋か 小林秀雄か ランボオか


顔面がぐちゃぐちゃになりしみのもんたテレビの司会をしぶとくやってる 蝶人


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長谷川櫂編著「四季のうた」を読んで

2016-09-12 09:35:45 | Weblog


照る日曇る日第895回


俳人の著者が2013年4月から2014年3月にかけて新聞紙上で連載した詩文集。小古代から現代までの様々な作者が作った四季折々の俳句と短歌を取り上げて100字ほどの短文で紹介した文庫本であるが、とても面白くて為になります。

比較的数多くの作品が取り上げられているのは、高野公彦、宇佐美魚目、葛原妙子、松瀬青々、丸谷才一といった人々だが、いちばん心に残ったのは「メチレンブルーの羊」という歌集から取られた次のⅠ首であった。

 若き日に住みゐし家を一つづつ訪ねてみむとかたる月の夜 川井怜子

 私も若き日に東京に出てきていろいろなところで下宿していたので、「舞踏会の手帖」よろしくあちこちを訪ねてみたいと思う時がある。
 月夜に「かたる」相手は夫だろうか。お互いが知らないお互いの若き日の思い出をともに訪ねる旅が実現すれば、さぞや浪漫的なムードに包まれるに違いない。

  ばさばさと股間につかふ扇かな 丸谷才一

 編者によれば、神田神保町の喫茶店でみた風景を詠んだこの句が丸谷才一のお墓に刻んであるそうだが、なるほど丸谷才一とはそういう洒脱な人物だったのかと改めて見直したことであった。


  また負けたまたまた負けた稀勢の里ころころ負けちゃう万年大関 蝶人


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離脱せよ~これでも詩かよ第184番

2016-09-11 10:10:39 | Weblog


ある晴れた日に 第402回


厭離穢土、欣求浄土 
極楽証拠、正修念仏
離脱せよ、離脱せよ
ひとり限りなく遠くまで、行くんだ。

離脱せよ、英国。
離脱せよ、離脱せよ、英国。
EUから離脱して、ひとり限りなく遠くまで、行くんだ。
まだ誰も行ったことのない地平まで。

離脱せよ、ニッポン。
離脱せよ、離脱せよ、ニッポン。
米国から離脱して、ひとり限りなく遠くまで、行くんだ。
まだ誰も行ったことのない地平まで。

離脱せよ、沖縄。
離脱せよ、離脱せよ、沖縄。
日本から離脱して、ひとり限りなく遠くまで、行くんだ。
まだ誰も行ったことのない地平まで。

離脱せよ、わたくし。
離脱せよ、離脱せよ、わたくし。
私から離脱して、ひとり限りなく遠くまで、行くんだ。
まだ誰も行ったことのない地平まで。

離脱せよ、地球。
離脱せよ、離脱せよ、宇宙船地球号。
太陽系から離脱して、ひとり限りなく遠くまで行くんだ。
まだ誰も行ったことのない銀河の彼方へ。

厭離穢土、欣求浄土 
極楽証拠、正修念仏
離脱せよ、離脱せよ
ひとり限りなく遠くまで、行くんだ。


 N響の凡庸な演奏を激賞するロバの耳ホンタウのことを王様に言へ 蝶人

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夢は第2の人生である 第36回

2016-09-10 09:37:51 | Weblog


西暦2015年霜月蝶人酔生夢死幾百夜



ヤクザの家に生まれた私は、さるアパレルメーカーに入れられたが、そこの社長でもある父親は、私の名前であった吉田一郎を、翌年は吉田次郎、その翌年は田中三郎、その翌年は天草四郎と次々に改めさせ、出世魚のように出世させようとしていた。11/1

父は「ヤクザにも地域社会への貢献が必要だ」と称して、毎年一回「酒池肉林の会」を開催し、近隣の男たちに酒を振る舞った後で、一家の女たち全員を裸にして裏山に放ち、やりたい放題にさせていたので人気があった。11/1

面積1万ヘクタールの敷地に、私たち一家が経営している玩具工場とサーカス小屋がある。工場は金属はいっさい使われず、すべてが木でできていて、やはり木だけで出来ている玩具が製造され、サーカスの呼び物はお馴染みの空中ブランコだった。11/2

熊さんと八さんが道路の真ん中で睨みあっているうちに言い合いになり、突然熊さんが八さんの頭を、八さんが熊さんの頭をかち割ったので、大通りは血まみれになった。11/4

イースト・ロンドンの洒落たカフェには、緑色のウナギが飼われているのだが、ちょっと油断すると悪ガキどもが盗みに来るので、店主はいつも目を光らせていた。11/4

地球に帰還する宇宙船が時速5千キロになった段階では、地球から迎えに来た大道君が、時速3千キロに減速した段階では、門君がその操縦を担当することになっていた。11/5

毎年の夏の恒例となった映画撮影が、今年も始まった。南海に臨むリゾートにある監督の別荘に三々五々ここに集まった私たちは、極めて限られたスタッフだけで、極私的な長編映画をこれで7年間も撮り続けていた。

この夏も私は、近くの基地にロケットで降り立った主役のエディ少年とエセル嬢を出迎えるために、おんぼろのダットサンで出かけたが、その光景は1年前となに一つ変わらなかった。お互いに一つ歳をとったという点を除いて。11/5

四越デパートでやって来たエレベータに飛び乗ったら、それがどういうわけだか2人乗りエレベーターで、中にはでっぷり肥ったいかつい中年男が乗っていたが、仕方なくお互いに我慢しながら1階まで下りていった。11/6

大天使ガブリエルの私は、公演をキャンセルしたカール・ベームになり変って、短い指揮棒を右手に軽くつまんでウイーン・フィルの前に立ち、コンマスのゲルハルト・ヘッツエルに合図してから、ブラームスの交響曲第1番ハ短調作品68の第1楽章の冒頭を開始した。11/7

荒野の真っただ中で、私は無くしたライフルと銃弾が入ったガンベルトを拾ったが、それれはインディアン、もとい先住民が落としたものだった。インディアン、もとい先住民は、私のライフルを拾った白人を殺して、それを奪ったのだが、それをまたしても落としたのだった。11/8

金に困って往生していたら学生時代の友人にぱったり出くわしたので、これ幸いと窮状を打ち明けたら「万事俺に任せろ」という。友人はその場で茂原印刷の茂原社長に電話して、「いつものようにあれを印刷してくれ」と頼んだ。

「あれって何だ?」と尋ねると、「ほらこれと同じ偽札だよ」と言って、本物そっくりの1万円札を見せた。「2時間ほど経ったら、茂原印刷へ行ってみな。出来たての新品が100枚首を揃えているぜ」というので、白山下まで行ってみるとその通りだった。

やったやったヤシカがやった!と鬱から躁に舞いあがった私は、同じクラス仲間のかつてのマドンナであったつうちゃんとまりちゃんを電話で呼び出し、久しぶりに酒池肉林の宴を開いてからピン札で勘定して、ご祝儀に2人に10枚ずつプレゼントしてらりらりらあんと帰宅した。

翌日のお昼ごろ、おいらは突然土足で踏み込んできた刑事に叩き起こされた。なんと、つうちゃんとまりちゃんが、今朝横浜銀行の窓口でおいらの渡した万札を、別の御札に両替してくれと頼んだ、というのだ。そこでおいらは「だから良家の御嬢さんは嫌いだよ」と呟いたが後の祭りだった。11/8

廃れた学校の校舎のような建物に着いた我われは、思い思いの部屋に荷物を運び入れ、そこで生活できるような環境を整えてから、遅い昼食をとった。隣の部屋には老母と美しい娘がいたが、一瞥をくれただけで、私は近くの町まで探訪に出かけた。

町にはひとっ子一人見えず、誰も住んでいる様子がなかったが、駅舎には電車が停まっていたので、既に動き始めていたそれに乗り込んだ。普通の電車と違って、開閉するドアがまるで自動車のように外側に向かって大きく開かれているから、簡単に飛び乗ることができたのである。

電車の中には20代の学生風の可愛い女が座っているだけで、他には乗客が一人もいない。まもなく電車が駅に着くと彼女が降りたので、私も降りて後をつけていくと、大学で入学式のパーティをやっていたので、なんとか彼女に話しかけたいと思ったが、妙な男に付きまとわれているうちに女は姿を消した。11/10

どこかの国の、どこかの街の、どこかの交差点で見かけた昼顔のように白い貌は、確かに私が昔恋した懐かしい女だった。11/11

慶応を出たスポーツマンのK氏が、若くして突然亡くなってしまった。彼は仕事はあまり出来なかったが、性格が温和にして明朗闊達だったために、大勢の人から愛されていた。また彼は大食漢であったが、私はこの人ほど美味そうに食事する人を知らない。

杉並の自宅にお通夜に行くと、真っ暗な闇の中に大きな提灯がぼんやりと灯っているだけでよくは見えなかったが、死んだはずのK氏が、家の前でその巨体を逆立ちさせながら「やあ佐々木君、お久しぶりですなあ」と声をかけたので驚いた。11/12

次回のテレビCMの企画会議が開かれたが、プロダクションの担当者がコンテ案を用意してこなかったので、電通の古川氏が激怒して叱りつけているが、そういうことがないように手配するのが君の仕事ではないのか?11/13

高原の牧場に立っているパビリオンに入ると、知らない男が演説していて、「この商品は外国人が一手に縫製しているから、これをすべて内製化すれば大きな利益を上げることができるだろう」と説いていた。11/14

この阿呆めが、と思いながら、ふとカフェを覗いてみると、リーマン時代の中島君や日隈君や斎藤君などのデザイナー諸君が、テーブルを取り囲んで談笑しているので、私は何十年振りかと驚きながらも懐かしかった。みなそれぞれあんじょうやっているようだった。

誰だか知らない人の家にいたんだが、2階からベランダへ出て、そこからどんどん下へ降りて行くと、レールの上に出た。やがて新幹線がやって来たので乗り移ると、先頭から2番目の車両で、そこには中学か高校の女子だけが乗っていたが、しばらくしてまた同じコースを逆にたどって、元の家に戻った。11/15

息子と一緒に大学のキャンパスで散歩していたら、久しぶりに黄揚羽が花に止まっていたので、パッと右手で捕まえた。すると今度は、別の花にルリタテハが止まっていたので、左手で捕まえて喜んでいたら、息子が「両手に蝶だね」と云った。11/16

田辺氏は「君、困ったときにはこの辞書を引いてみたまえ」と云うて「仏蘭西語にとっての外国語辞典」を下さったので、早速困ったときに引いてみたのだが、日本語すら容易に理解できない私ゆえ、仏蘭西語もその他の外国語もてんで理解できないのだった。11/17

ちょっと油断したすきに、長男がとんでもないものを口にしていたので、私は総毛立った。11/18

こうちゃんとけんちゃんは、それぞれに自転車に乗って、私より先に家を出て駅に向かったはずなのだが、いつまで待っても2人とも姿を現さないので、私はだんだん心配になってきた。11/19

A夫は空襲で怪我をしたB女を、防空壕の中で懸命に介護していたが、B29がその防空壕を直撃したために、2人とも死んでしまったが、両人は暗闇の中で不純異性交遊を行っていたことが、死後に判明した。11/20

さる編集者と次の小説の話をしながら十二所まで歩いてくると、葬列がやって来たのでよく見ると、私の親類の人の葬式だったので驚いた。11/21

その宝石を買うのは、大変だった。何時間も並んでからようやく順番がきたのだが、目の前に聳え立つ火山の噴火口から、赤青緑の珍しい宝石が次々に打ち出されてくるので、それを上手にキャッチしなければならないのだ。11/22

夢中になって両手を振り回しながら、ようやく緑色の大きなエメラルドを手にすると、そこには「魅せられたる魂」という文字が鮮やかに刻印されていた。11/22

「私がバッハを演奏する時には、空気滞留システムを使用します」と、その謎の女流ピアニストは言うので、「そんな話は聞いたこともない。どうぞお引き取りください」とホールの支配人は言うた。11/23

そこで私は支配人に、「スタインウエイにその空気滞留システムを設置するのは、そんなに難しくない。その新しいシステムを有名にする絶好の機会を逃がしては為になるませんよ」と、アドバイスしてあげた。11/23

Mcパーカ氏は、さる大富豪の好意で、自分のブランドショップをLAの繁華街に作ってもらったのだが、そこへ立ち入ろうとしたら、警備員に阻止されてしまったので、仕方なく裏口に回って屋根に上り、そこから梯子で中にもぐりこむしかなかった。11/24

帰宅すると井出君がいた。幼い耕君や健君と遊んでくれたようで、2人ともお城のてっぺんにのっかって、無数の爪を城下に捨てながら、楽しそうにしていた。11/26

軍団同士の戦は何日も続いたが、一進一退だった。今日こそは勝利をものにしよう、とわが軍が塹壕を辿って前線に肉薄したが、敵陣は空っぽである。ちょうど我々と入れちがいに、彼らはわが軍の陣地めがけて突撃していたのだった。11/27

わが図書館の分館では、2万冊の書籍を1)日本文学2)外国文学3)コンスチチューションの3つのカテゴリーに分類しているのだが、3番目の内容については誰に聞いても分からなかった。11/28

ところがまもなく本館と分館の図書館戦争が始まったので、私はまっさきにコンスチチューションのカテゴリーの書籍を、地下室のシェルターに隠匿した。11/28

2040年の4月に、4千万人の男女が築地市場に集合した。拡声器で入り口で渡されたチケットの番号を呼ばれた男女は、大喜びで抱擁し合っている。早朝からはじまったビッグイベントは夕方には終了し、誰もいなくなった。11/28

緑色のシャツを着た上司が、高倉健の真似をすると、まわりのお調子者の部下たちが拍手喝采していたので、面と向かって「なんだ、ちっとも健さんに似ていないじゃないか」というと、緑シャツはこそこそ姿を消した。11/29

東北の大牧場で、昨日から徹夜で馬やら牛やらを貨車にぎゅうぎゅうずめに詰め込んだが、送り主のリクエストに応えてそのすべての作業が終了したのは、そのまた翌日の夜中だった。11/30

遠路はるばる旅をして、ようやく我が社に来ていただいたお客様だというのに、営業担当者も私の上司も、挨拶すらしないので、私は「こら、お前ら、失礼じゃないか。席から立ち上がって、お礼をいうたらどうなんじゃ」と、怒鳴りつけた。11/30


  新記録達成したるイチローがメットを脱げば胡麻塩頭 蝶人

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池澤夏樹編・河出版日本文学全集18「大岡昇平」を読んで

2016-09-09 15:20:54 | Weblog


照る日曇る日第894回

「武蔵野夫人」と「俘虜記」の抜粋、「一寸法師後日譚」その他の短編を収録しているが、代表作の「レイテ戦記」をなんで入れないのか不可解。これこそが「俘虜記」「野火」を凌ぐ本邦戦争文学の最高傑作だと思うのだが。

大岡の文章はそれが「花影」の代わりに収められた花柳小説「黒髪」やカルチャーセンターにおける講演「母と妹と犯し」においても猛烈に切れる知性の光彩陸離そのもの、であって、それが例えば「武蔵野夫人」におけるヒロインの恋と自殺を精巧ではあるが観念的な作りもの、で悪ければ、「「はけ」の精霊の物語」に堕してしまっていると思うのは私だけだろうか。

「文学者であるからには、すべてを文章で完璧に表現しなければならない」と自負するスタンダリアンの文章は、それこそ知に働けば角が立つような典型的な頭の良い人の文章で、それがもちろん彼の第一の長所でもあれば、超一流の作家に一籌を輸する原因でもあった。

彼の文章は、いったい何を言いたいのか何回読んでもよく分からない(例えば小林秀雄や吉田健一や吉本隆明などの)日本語よりも、はるかに知的で洗練されているが、いずれも太陽の光の下で書かれた「晴の日」の文章であり、そこには谷崎潤一郎のような陰影や雨や曇りの日の湿潤が感じられないのが、うらみといえばうらみといえるのであろう。

余談ながら、「「椿姫」ばなし」という雑文では、中原中也がデュマ・フィスのこの小説を「これは真実な物語だ。これは聊かもいわゆるロマンティックではない」と褒めたと証言しているのが印象に残った。


じゃんじゃんじゃんじゃんじゃかじゃんじゃかじゃらららんあさからばんまでおりんぴっく 蝶人
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山下宏明校注「太平記一」を読んで

2016-09-08 10:17:32 | Weblog


照る日曇る日第893回


新潮日本古典集成新装版による「太平記」を、はじめて読みました。

むかしむかし河出文庫から出ていた山崎正和の現代語訳全四冊を楽しく読んで、なるほどこりゃ浪花節のマンガ戦記物じゃわいなあ、と放りだしたのが、いまからおよそ半世紀前のこと。

このたび右側に赤字の翻訳付きの原文をつらつら辿ってみたら、平家物語を凌ぐ原作者の恐るべき知性と教養に圧倒されてしまいました。

校注者の解説によれば、この作品は小島法師という芸人が執筆し、法勝寺の慧鎮上人と天台集の碩学玄恵法印の監修のもとで出来あがったそうですが、後醍醐天皇の南朝贔屓に徹していながらも、これは凄いわ、おもろいわ。歴史書というよりは、ほんまに格調高い戦争文学だわさ。

同じ叢書の「平家物語」と同時並行しながら、なおこの続きを読みすすめていきたいと存じます。


  アルコール0%といいながら酔っぱらったようになるのはどうしてだらう 蝶人

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長谷川宏著「日本精神史 下」を読んで

2016-09-07 10:47:23 | Weblog


照る日曇る日第892回


本邦の民草の精神の歴史を、文藝、美術、宗教、文書の断片的解読を通じてあからめようとする著者の冒険的な試みの後半は、「新古今和歌集と愚管抄」からはじまって、「平家物語」「御成敗式目」、「一遍聖絵と蒙古来襲絵詞」「徒然草」、「神皇正統記」「能と狂言」「金閣・銀閣」「那智滝図と雪舟と松林図屏風」「茶の湯」「宗達と光琳」「伊藤仁斎と荻生徂徠」「西鶴・芭蕉・近松」「池大雅と与謝蕪村」「本居宣長」「春信・歌麿・写楽・北斎・広重」と続き、「鶴屋南北の東海道四谷怪談」で悪の魅力を論じて大団円を迎える。

200年前に南北が見詰めていた「悪が悪を呼び、死が死を呼ぶ」という虚無の終末、その忌まわしい流れは、近代を経て平成の現代に生きる私たちが、いままさに直視している現実に他ならない。

封建の世から個我の自由解放、そして今また専制独裁の暗い時代を迎えても、この国の民草の実存のありようはさほど変りがないとも映るが、はてさていかがなものであろう。

各論はいずれも面白くて為になるが、とりわけ北条泰時の「御成敗式目」と北畠親房の「神皇正統記」における武士の理知的でリアルなまなざし、荻生徂徠の剛毅な思想家ぶりが印象に残った。

  たった3分で読み終わりたり宇野功芳が書かなくなった「レコード藝術」 蝶人

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沢木耕太郎著「春に散る」を読んで

2016-09-06 11:36:32 | Weblog


照る日曇る日第891回


朝日新聞に延々と連載されたボクシング小説がやっと終わった。

元ボクサーの広岡が昔の自分を思わせるような有望な若者翔吾をジム仲間と共に応援して必殺パンチを伝授し、翔吾は広岡が成れなかった世界チャンピオンのベルトを手に入れるが宿痾の心臓発作で「春に散」っていく、という、なんちゅうか一種の「親子鷹」のような世話物話である。

「春に散る」というタイトルは、主人公を春に死なせるつもりでつけたのだろうが、発作が起きたのに生憎ニトロを持ち合わせていなくて死んでいくという最後のおとしまえのつけかたは、どうにもいただけない。

これではとうとう3度目にスズメバチに刺された私が、エピペンを持たずにひよどり公園でくたばるようなものではないか。どうせ散るなら「あしたのジョー」のようにドラマチックに燃え尽きてほしかった。

そもそも沢木の文体は、小説のそれというよりはドキュメンタリー専科の乾性の筆致であり、肝心のボクシングの描写も、格闘の説明文の積み重ねにすぎないから、読んでいるほうもあまり感情移入できない。そういう点では彼の後輩にあたる角田光代の「空の拳」のほうが内容も文章も百層倍も優れたボクシング小説だった。

沢木が同じ朝日新聞に連載していた「銀の街から」「銀色の森」もじつに下らない映画感想文だったが、残念ながら本作が、若き日の彼の代表作「一瞬の夏」に遠く及ばないことだけは確かである。

   木金は息子が勝浦へ旅行するなんとか無事に終わってほしい 蝶人

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白い家に住む人は~これでも詩かよ第183番

2016-09-05 09:03:31 | Weblog


ある晴れた日に 第401回


白い家に住む人は
清潔で純朴な暮らしを
心のどこかで求めている。

黄色い家に住む人は
ゴッホに憧れ、
ゴッホになりたがっている。

緑の家に住む人は
「緑はるかに」の浅岡ルリ子と
「緑の館」のヘプバーンが好きな人。

茶色い家に住む人は
遠い昔の田舎の家が
どうしても忘れられない。

赤い家に住む人は
目立ちたがり屋さん
ああ、まだ満たされない思いもいくつか。

灰色の家に住む人は
重巡洋艦鈴谷の元乗組員
いまなお米軍と戦っている。

黒い家に住む人は
精霊と仲良し。
愛読書は「アッシヤー家の崩壊」。

青い家に住む人は
永遠のロマンチスト
空や海に限りなく近づきたい。


    黒蝶の短き命尽き果ててげに懐かしき五齢の緑 蝶人


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自由律詩歌 その2

2016-09-04 10:38:28 | Weblog


ある晴れた日に


私の頭がキャベツなら、お前の頭はジャガイモだ。4/11

好くってよ。知らないわ。

不出来なやつほど、かわゆい。4/13

ネコふんじゃった。4/14

右へ右へと曲がる切っ先

まっすぐに歩いていたのに左側通行だと言われてしまふ。

なんのおのれが櫻かな

いつの間にか低音が聴こえなくなった。

お父サンのネーメ、パーヴォ、クリスチャン兄弟のヤルヴィ親子で荒稼ぎ

ひだりぎっちょなので小便も左に向かって飛んで行く

ゴムまりが、凹んだまま、転がってゆく。

無理が通れば道理が引っ込む。成長成長で環境だんまり。4/14

取舵ようそろ面舵一杯日本丸

コジュケイの家族の最後尾からよちよちと「春」が続いた。

或る晩密かに棺桶に片足を入れてみた

エンガチョが回り回ってまた俺に

遠慮せずに発禁詩集を出し給えな

偽満州国を真似たか偽イスラム国

東京は日本にあらずベトナム北部の総称にしてその首都はハノイ

これ以上おいらを日本嫌いにしないでくれ

やすやすとナマコのごとき歌詠めり

ケキョオじゃないケキョだ 口笛で若鶯の語尾を直してやる

私の頭はキャベツなの散歩してるとモンシロチョウがやってくる。

アカタテハはいつも同じところに舞い戻る。左翼が赤旗を振りたがり、右翼が靖国神社に詣でたがるように。

おいらは非国民、おいらは日本駄右衛門、おいらは日本左衛門。

方代ならなんでもいいということはなさそうだがほうだいならなんでもいい

おぬし、なかなかやるな

見つかった 何が 糸トンボが お尻でつがった雄雌が

もう誰ともセックスすることなく死んでいくのだろう

あのウグイスは、確かに私に話しかけていた

わたくしのいっぴきやにひきが消えたってどうってことないさ

私がホオホケキョと口笛を吹くと鶯もホオホケキョと鳴いた

お金? 国家? 神様? 愛と誠と花鳥風月より大事なものがあるだろうか 

あいつが平和と言ったら戦争、戦争と言ったら戦争

問答無用の時代がやってこようとしているのに辞書を読んでいる

あのねえあんたもあたいもそのほかもなにもかもがうざったいんだよ

大丈夫、ベートーヴェンだって合唱幻想曲のやうな駄作を書くんだから

花に嵐のたとえもあるが蝶よ花よと生きていくんだ

人は死ぬ誤嚥で御縁で五円で御免

ああ皐月胸の深き谷間で息絶えた

15匹のヘイケボタル乱舞して夏来る

いでおろぎーに生きる人は、いでおろぎーで死ぬ

列島を汚染するなり戦争法案

われ尊王にあらず攘夷なり

おいらはヒコクミン日本も日本人も嫌いになりつつある

中国は嫌いだが私が知っている中国人はみな愛すべきひとばかりだった

韓流ドラマは嫌いだがイームンヒョンやリークッスンは好きだ

先住民と呼ばれたくなしインディアン

大根の一本残る火口かな

  生まれしがついに飛べない黒蝶に末期の水を飲ませる朝 蝶人


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すべての言葉は通り過ぎてゆく 第38回

2016-09-03 10:35:17 | Weblog


西暦2016年葉月蝶人狂言畸語輯&バガテル―そんな私のここだけの話 op. 241



政権党の横暴を向こうに回して、かよわい女一匹がプッチーニのオペラ「西部の娘」のミニーのように立向かう、という構図に興奮した多くの選挙民たちは、誰かが「こいつはゴリゴリの右翼でファシストだよ」と囁いても、誰一人聞き入れようとはしなかった。8/1

「細雪」と云う題は、いつぞや陛下の御前でお食事を戴いた時、吉田前首相から「ああいうむづかしい読み方の題はお止めになった方がよござんすな」と云われたことがあったが、実は最初は「三姉妹」か「三寒四温」にしようかと迷っていた。谷崎潤一郎「創作余談」

「細雪」は本来あの倍くらいの長さにして、もっといろいろな人物や事件を織り込み、醜悪な暗い方面をも描くつもりであったのが、時局に遠慮して明るい甘い方面ばかりを扱うやうになったので、「三寒四温」では少し題材に適しなくなり、前から好きだった「細雪」という言葉を咄嗟に思い出したのであった。谷崎潤一郎「創作余談」

月曜日はすぐにやって来るが、土曜日はなかなかやって来ない。7/23

いつもは大嫌いな中国産のガビチョウか、大好きなウグイスやコジュケイの鳴き声で目を覚ますのだが、今朝は「テッペンカケタカ」というホトトギスの鳴き声で目が覚めた。
郭公声横たふや水の上 ばせを 8/3

私はリオも東京も五輪には関心がない。そんなにやりたいならやりたい奴だけで勝手にやれよという感じだが、地球温暖化で亜熱帯と化したこの国の真夏に運動会をやるなんて、馬鹿げている。選手も観客も熱中症でバタバタ死んでしまうのではないだろうか。8/6

海岸で若者たちがスイカ割りをしていたが、なんと手刀で割ろうとしている。あんなの初めて見たが、手頃な棒がなかったからかな。それとも棒でめちゃめちゃになるのが厭だったからかな。8/7

ミンミン、アブラ、ニイニイ、カナカナに加えてツクツクホウシまで混声5部で鳴いている。蝉の鳴き声がうるさいという不届きな非国民がいるようだが、鳴いているのは雄ばかり。もしも鳴かない雌蝉まで鳴きだしたら、そりゃ多少は煩いかも知れないな。8/8

天皇を「象徴」の重荷から解放するのみならず、彼と彼の一族をそれぞれ一人の民草に回帰させることが、私たちとこの国の仕合わせにつながるだろう。8/9

全身全霊を挙げて憲法と国民のために身を捧げてきた孤独な老人の悲鳴を、長年に亘って聞こえないふりをしてきた政治家たちの責任は大きい。8/10

昔は夏が一番好きだったが、だんだんそうでもなくなってきて、今では大げさに言うと、命懸けでやり過ごしている。8/11

この糞暑いのにリオデジャネイロでは御苦労なことだ。生きているか死んでいるか分からないけど、4年後の東京が思いやられる。8/12

現代俳人は滑稽な句をつくれない。だからつまらないんだね。丸谷才一「歌仙早わかり」

大岡昇平の「花影」は日本の花柳小説の掉尾を飾る小説であるが、その題名は杜荀鶴の「風暖かにして鳥声砕け 日高うして花影重なる」から取られた。その中に次のような一節がある。辻原登「夜半亭饗宴」

「日は高く、風は暖かく、地上に花の影が重なって、揺れていた。もし葉子が徒花なら、花そのものでないまでも、花影を踏めば満足だと、松崎は空虚な坂道をながめながら考えた。」大岡昇平「花影」

いよいよSMAPが解散するという。彼らの下手くそな歌と踊りをもう見たり聞いたりしなくて済むのがうれしい。今後は草彅剛、香取慎吾の両君の演技の成長に期待している。8/16

第一ヴァイオリンの音程がかなり甘いが、精確さだけに終始する演奏と違ってモザールになり変って懸命に歌っているからまあいいだろう。8/17

財あれば恐れ多く、貧しければ恨み切なり。人をたのめば、身、くるし。したがはねば、狂せるに似たり。いづれの所を占めて、いかなるわざをしてか、しばしもこの身を宿し、たまゆらも心を休むべき。鴨長明「方丈記」8/18

ほどせばしといへども、夜臥す床あり、昼居る座あり。一身を宿すに不足なし。鴨長明「方丈記」8/19

事を知り、世を知れれば、願はず、わしらず、ただしづかなるを望みとし、憂へなきを楽しみとす。鴨長明「方丈記」8/19

恵心僧都は和歌は綺語のあやまりとて詠み給わざるが、かすみわたれる浪の上に船の通ひけるを見て、(慢誓の)世の中を何にたとへん朝ぼらけこぎ行く舟の跡の白波」を思ひ出して「聖教と和歌とは、はやく一つになりにけり」とて其の後は必ず詠じ給ひける。鴨長明「発心集」8/19

詩作とは詩嚢、詩の袋をたずさえて行くことを作ること。吉増剛造「怪物君」8/19

考ヘルまへに、歌ッていた、……吉増剛造「怪物君」8/19

何ぞ馬鹿囃子!
ひーひやら、(葉……)
(わたくしの寝息でした、……)吉増剛造「怪物君」8/19

もしかしたら、これは、死?  ヨーゼフ・フォン・アイヒェヘンドルフ 吉田秀和訳 8/25

成人した息子や娘がどのような犯罪を犯そうが、その親とはもう関係がない。たとえどんな悪い、あるいは良い親子であったとしても。8/26
 
14引く6がとっさに暗算できなくなくなってきた。もう駄目だ。8/26

子供の頃から「君が代」を歌ったことがない。プロテスタントの家でも、学校でも、誰からも強要されることがなかったからかもしれないが、「民が世」なのになんで「君が代」なんだ、とその歌詞に反発を覚えていた。8/27

それに「君が代」の退嬰的で物哀しい雅楽風のメロディも陰々滅滅でけたくそ悪い。リオ五輪での編曲がグレゴリオ聖歌風?で話題を呼んでいるが、ジミヘンのアメリカ国歌のように色々なアレンジをすれば、少しは聞くに耐えるように変容するかもしれない。8/28

政権党は「君が代」を勝手に国歌と決めているようだが、それは彼らの政治的な思惑の所産にすぎない。私は「青い山脈」のほうがなんぼかましだと確信しているが、今からでも遅くないから、国民から公募した新しいものにすべきだと考えている。「日の丸」も同様。8/29


  強欲じゃあ強欲じゃあといいながらなんでも腹に収めてしまう人 蝶人

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なにゆえに第30回~西暦2016年葉月蝶人花鳥風月狂歌三昧その6

2016-09-02 10:37:08 | Weblog

ある晴れた日に第399回

なにゆえに耕君は月火と休む天気予報が雷雨なので
なにゆえに天気予報は当たらないはずれても誰もしらんぷり
なにゆえに裸足の指がこんなに冷たいここから猛暑を撃退するべく
なにゆえに右翼ばかりが大臣になる総理大臣が極右だから
なにゆえに3千歩ばかりで息が上がる8月の日本は熱帯だから
なにゆえにノンアルコールで酔っぱらったようになるやっぱり少し入っているんだ
なにゆえに最凶女を内閣に入れるどうせ勝手に自爆するだろう
なにゆえにイチローは常時先発可能なチームを選ばなかった3000安打なんてとっくに達成できた
なにゆえに翁の鎧を取り除かぬ身に重すぎる兜と共に
なにゆえに「青い山脈」を斉唱しない私の嫌いな「君が代」の代わりに
なにゆえに「詠草」などと格好つけるエッソウ?ウッソウ?ダサそう
なにゆえにロースかつ重を一気に平らげる耕君の大好物だから
なにゆえに人は政治家を目指すのか金と力で己を満たす
なにゆえにカズエちゃんは連絡してこない今か今かと待ちわびているのに
なにゆえに敗戦記念日を終戦記念日という終わったんじゃない負けたんだ
なにゆえにEMIの旧盤がワーナーから出るたびに買い直さねばならんのかそんな金あらへん
なにゆえにSMAPは解散する一人ひとりが自立するため
なにゆえにこの施設ではデザートがでない一生西瓜を喰わずに終わる
なにゆえにこのホームではおやつがでない一生ケーキを食べられないで死んでゆく
なにゆえにオリンピックが燃え上がる個人が国に溶け入る姿
なにゆえに門前に十二所神社の御幣を飾る光触寺の住職が怒り狂うぞ
なにゆえにじゃんじゃか台風がやって来る五輪終の馬鹿騒ぎを吹き飛ばすため
なにゆえに次々にパソコンがぶッ壊れるくだらん文ばかり吐き続けるから
なにゆえに欲望を押さえられないそれが若さというものさ
なにゆえにエレクトロヴォイスのスピーカーは値下げしない1ドル100円になったのに
なにゆえに報国寺は千客万来あの竹林が素晴らしいとて
なにゆえに安倍蚤糞はマリオになったアベマリアに憧れていたのに
なにゆえに強者は弱者を切り捨てる所詮お前も弱者なのに
なにゆえにナガサキアゲハは突如孵化する台風10号が来襲するのに
なにゆえに妙な場所から台風が来る地球温暖化なんてみな忘れてしまったから
なにゆえに時々思いついてバスに乗る同じ風景なのに全然違う

  なにゆえに論理は感情に流される論理は隠しに仕舞ってあるので 蝶人

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西暦2016年葉月蝶人花鳥風月狂歌三昧その4

2016-09-01 15:46:17 | Weblog


ある晴れた日に第398回


自由律詩歌 その1


ああああああ ああああああああ ああああああ あああああああ あああああああ

いいいいい いいいいいいい いいいいい いいいいいいい いいいいいいい

ううううう ううううううう ううううう ううううううう ううううううう

えええええ えええええええ えええええ えええええええ えええええええ

おおおおお おおおおおおお おおおおお おおおおおおお おおおおおおお

かかかかか かかかかかかか かかかかか かかかかかかか かかかかかかか

ききききき ききききききき ききききき ききききききき ききききききき

くくくくく くくくくくくく くくくくく くくくくくくく くくくくくくく

けけけけけ けけけけけけけ けけけけけ けけけけけけけ けけけけけけけ

こここここ こここここここ こここここ こここここここ こここここここ

さささささ さささささささ さささささ さささささささ さささささささ

ししししし ししししししし ししししし ししししししし ししししししし

すすすすす すすすすすすす すすすすす すすすすすすす すすすすすすす

せせせせせ せせせせせせせ せせせせせ せせせせせせせ せせせせせせせ

そそそそそ そそそそそそそ そそそそそ そそそそそそそ そそそそそそそ

たたたたた たたたたたたた たたたたた たたたたたたた たたたたたたた

ちちちちち ちちちちちちち ちちちちち ちちちちちちち ちちちちちちち

つつつつつ つつつつつつつ つつつつつ つつつつつつつ つつつつつつつ
ててててて ててててててて ててててて ててててててて ててててててて

ととととと ととととととと ととととと ととととととと ととととととと

ななななな ななななななな ななななな ななななななな ななななななな

にににに にににににに にににに にににににに にににににに

ぬぬぬぬぬ ぬぬぬぬぬぬぬ ぬぬぬぬぬ ぬぬぬぬぬぬぬ ぬぬぬぬぬぬぬ

ねねねねね ねねねねねねね ねねねねね ねねねねねねね ねねねねねねね

ののののの ののののののの ののののの ののののののの ののののののの

ははははは ははははははは ははははは ははははははは ははははははは

ひひひひひ ひひひひひひひ ひひひひひ ひひひひひひひ ひひひひひひひ

ふふふふふ ふふふふふふふ ふふふふふ ふふふふふふふ ふふふふふふふ

へへへへへ へへへへへへへ へへへへへ へへへへへへへ へへへへへへへ

ほほほほほ ほほほほほほほ ほほほほほ ほほほほほほほ ほほほほほほほ

ままままま ままままままま ままままま ままままままま ままままままま

どんとぽっちい

みみみみみ みみみみみみみ みみみみみ みみみみみみみ みみみみみみみ

むむむむむ むむむむむむむ むむむむむ むむむむむむむ むむむむむむむ

めめめめめ めめめめめめめ めめめめめ めめめめめめめ めめめめめめめ

ももももも ももももももも ももももも ももももももも ももももももも

ややややや ややややややや ややややや ややややややや ややややややや

ららららら ららららららら ららららら ららららららら ららららららら

りりりりり りりりりりりり りりりりり りりりりりりり りりりりりりり

るるるるる るるるるるるる るるるるる るるるるるるる るるるるるるる

れれれれれ れれれれれれれ れれれれれ れれれれれれれ れれれれれれれ

ろろろろろ ろろろろろろろ ろろろろろ ろろろろろろろ ろろろろろろろ

わわわわわ わわわわわわわ わわわわわ わわわわわわわ わわわわわわわ

んんんんん んんんんんんん んんんんん んんんんんんん んんんんんんん



        飛びたてぬ蝶に死に水葉月尽 蝶人

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