<少し前に訪問した老舗覚え書き・4>
浅草で明治36(1903)年という創業100年以上の老舗でありながら、メディアへの露出は割と少ないお店。自分がこの店を知ったのは先代の関谷文吉氏の著書「魚味礼讃」を読んだことがあったから。この本の、ただの鮨屋の主人とは思えない、下地としてある(魚に限らない)驚くほどの知識、魚の味を言葉にして表す表現力、それに驚くような様々な例えに驚愕した覚えがある。こんな鮨屋の主人がいるのか…。是非そんな人が握る店を訪ねてみたいと思っていたが、調べてみると関谷氏はは若くして亡くなったようだった。現在はその関谷氏の兄がやっていると聞いた事がある(でもよく知らない)。
休日の昼時だったのでこの界隈はかなり人通りが多く、有名店は並んでいる客が目立ったりもしているが、角に立つこの店の佇まいはまるで時空が違うよう。店に入ってもホワイトボードを除いて平成の世を感じさせるものがほとんど無い(笑)。昔盛り込みに使ったであろう大きな寿司桶が飾られている。小上がりもあり、想像していたより広いつけ場には常連客と談笑する初老の方と若い衆。初老の方がかの関谷氏の兄だろうか。自分は寡黙な若い方に握ってもらう。
特上のおきまりを注文。おきまりは皿盛りではなく1つづつ握ってくれた。どれも江戸前鮨らしい仕事がなされた握り。握り手は若いが、決して今流行っているようなスタイリッシュな鮨ではなく、やや大きめの昔からこうだったであろう古いタイプだ。小肌や穴子あたりのタネが昔の鮨を彷彿とさせる。あっけないほど短い時間で食べ終わってしまったのが惜しくなるくらいだった。満足。でももっとこの店の雰囲気に飲まれていたかった。たぶんこの店ではゆっくり腰を落ち着けて食べてもびっくりするような値段にはならないんじゃないかな。(勘定は¥3,570)
東京都台東区浅草1-17-10
(紀文 きぶんずし きぶんすし)