<少し前に訪問した老舗覚え書き・3>
江戸前鮨にこだわった鮨を握る「弁天山美家古寿司」。創業は1866年(慶応2年)という老舗中の老舗。主人(5代目)も先代もそれぞれ著書があり読んでいたので(本棚を見たら3冊あった)、一度伺ってみたいと思っていたが、なかなか機会がなく、たまたま近くに居た際にダメモトの飛び込みで入ってみた。
建物は新しく、店構えも店内もきれい。すっきりとしていて、手前にカウンターと奥にテーブル席がある。カウンターの上には噂通り、懇意にしているらしい自分の嫌いな俳優(この方食べ物についてあれこれ厳しく言う割には箸さえまともに持てないんだもの)の描いたのれんが掛かっている(笑)。早い時間とあって、先客は常連のご夫婦が2人のみだったが、すぐに席を用意していただいた。雑誌やテレビで何度も拝見したことのある主人が1人で漬け場に立っていて、あとは給仕の女性がひとり。自分はとても緊張していたが、主人はとても丁寧な口調で注文を聞いてくれ、お決まりのメニューから「弁天山」を注文。カウンターで一見でもこうしてお決まりがあるので、とても都合がいい。この日はお酒なし。
握りは2種類づつ出された。白身、光物、貝、海老、漬け鮪、煮烏賊、きれいに捻じられた穴子、鞍がけの玉子などどれも仕事をしたタネばかり12貫と巻物。ずっと受け継いできたであろう仕事のなされた握りはどれも口の中で一体となって完結するというか、飯の上に刺身を乗せて握っただけでは断じてない握り鮨。軍艦巻きはもちろん出てこない。多分切っただけのタネはひとつもないんじゃないかな。今流行りの鮨とはベクトルを異にするが本当に旨い鮨だ。どの握りが置かれる時も主人は丁寧な言葉で説明してくれる。驕った所が全くなく清々しい。この日は雲が厚くあいにくの天気で、スカイツリー上部のみが雲に隠れていたが、そんな他愛もない話を一見の自分や常連さんとしながらも丁寧な口調を崩さない主人。いいなぁ、こういう凛とした空気。(勘定は¥7,350)
弁天山美家古寿司総本店 (べんてんやまみやこずし)
東京都台東区浅草2-1-16
(みやこずし べんてんやまみやこずし 美家古)