今年のノーベル医学・生理学賞を京都大学の本庶佑先生が受賞した。私たち病理医の間でも、PD-L1免疫染色の判定がどうのこうのと、ここ数年で急速に研究成果が実臨床に応用されていることであり、ノーベル賞の受賞も間違いないと言われていた。ものすごく遠いところでのかすかなつながりであっても、ちょっとでも自分の仕事に関係する事がノーベル賞を受賞することはとても嬉しい。
免疫のことは私はあまり得意ではない。
免疫染色という細胞それぞれが持っている様々なタンパクを可視化する手法を用いて日常診断を行っているが、ことマクロファージとかリンパ球といった免疫細胞の”働き”となるとどうにも難しい。炎症巣にいるそれぞれの細胞を1個1個同定するのが大変なのだ。さらにその機能となるとなおさらで、B細胞のようにある程度進む方向が決まっている細胞ですらよくわからないのに、T細胞のようにより高度な機能を有する細胞となると頭がこんがらがってしまう。
今のところ、日常業務診断では悪性リンパ腫の診断を行うのが精一杯で、それぞれの癌細胞におけるPD-L1の染色評価を私はやっていない。乳がん・胃がんのHER2遺伝子発現の評価と同じで、何例も診たらそのうち慣れてやれるようになるだろうけど、今のところそういう立場になりし、がんの病理診断は私の主戦場ではない。
免疫機構は生体各所で重要な役割を果たしている。もちろん、体に対して何も悪いことが起きていなければ免疫細胞はおとなしくしているけど、一朝事が行った時には体中が反応して、体外からの侵略者に対抗する。(開店休業に近いが)不妊・不育の研究を行っている人間としては、妊娠というやはり体外からの受精卵の侵入が免疫学的に上手くいっていない可能性を可視化したいと考えている。マクロファージだけかと思っていたら、T細胞も関与しているという事がわかって、その機構の足がかりを掴みかけたところで、以前の職場を辞めることになったので、それっきりになってしまっている。あの辺りの研究は今、どの辺にあるのだろう。
研究は才能と努力でその活躍の場を勝ち取っていかなくてはいけない。急に裏切られたり、いつ梯子を外されたりするかなどわかったものではない。本庶先生が受賞の記者会見のコメントの中で、”幸運”という言葉を使っておられたが、その自覚を持つという謙虚さこそがこの偉大な研究成果に結びついたのだと思う。そのような意味で、とても印象深いコメントだった。
細々とでも諦めずに