北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

床屋さんでのビジネス談義~たかが床屋と言うなかれ

2015-10-24 22:50:36 | Weblog

 

 一年前から三人の理容師さんが共同経営で始めたいきつけの床屋さんへ行きました。
 今日カットしてくれたのは初めて話をする若いお兄さん。

 お店が今のところに移ってきたときからの常連なので、人気のほどが心配ですがどうしてどうして、次々にお客さんが入ってきて随分盛況です。
 私も小一時間ほど待たされるほどですが、接客の態度を眺めながら楽しそうに働いている人たちを見てちょっと安心しました。。

「随分お客さんが来ていますね。こっちも嬉しくなってきますよ」
そういうと彼は、「回転直前に店の中のペンキ塗りまで自分たちでやったことを思い出すと、なんとか一年続いてくれたのが感謝です」と謙虚な口ぶり。

 そこで床屋をめぐるいろいろな世間話が始まりました。

「僕もかつては、何人もの理容師さんが分業で安くカットしてくれる床屋さんに行っていたんですが、なんだか味気なくて段々足が遠のいてきたんです。こういうお客とのコミュニケーションにはどういう気をつけていますか?」

 ちょっと意地悪だけど、流行る床屋はコミュニケーション力が高いのではないか、という仮説を立てて反応を見ることにしました。

 すると彼は、「僕は過去にホームセンターでアルバイトでお客様対応をしていたのと、床屋になってからついた師匠が良かったので、お客さんへの対応はいろいろと教えられました」
「ほう、たとえば?」

「お客様が入店してきたら、まずは目を見て挨拶をするということは基本ですが、たとえば服を預かってハンガーにかけるときでもその服が冬なら冷たいか、夏なら熱いかを感じて、寒ければ頭を蒸すときにより暖かくするとか、そういう工夫をしています」

「おお、奥が深い」
「それにお客様が感じたことを全て口にしてくれるわけではないし、逆に言った事で全ての思いが伝え切れているわけでもない。だからいろいろなことを感じることだ、とも言われました」

「でも話しかけられてそれに応対することで、この床屋のファンになってくれる人が増えるのじゃないですか?」
「そこは難しいところで、ある日何回か親しく会話をしてくれたお客様がいらしたので、軽く話しかけてみたところとても不機嫌な感じでだんまりを決め込んでしまわれました。同じ人でもその日の気持ちの有り様は同じではありません。そのあたりも気をつけて、様子を見るために最初はそっとはいるようにしています(笑)」

「こちらのお店は総合調髪で2千円程度でしょう?他へ行くと1600円くらいで素早くやってくれるところもある。そういうお店はどう思っているの?」
「でもお客様はあの手のお店をどう思います?」

「うーん、淡々と安く仕上げてくれるのだけが取り柄ってところかね。知っている理容師さんもいないし」
「そうなんです。あの手のお店は、『お客さんから話しかけられたときには会話は軽く受け流す程度にすること』というマニュアルがあるって聞いたことがあるんです」

「ええ?どういうこと?」
「お客さんと会話が弾むとつい丁寧にやろうかという気になるのと、お客様から『このあたりはもう少し短くしてくれないかな』などといった注文が気安くなるんです。しかしそれをやっていたらどんどん速いペースで次へ進めません。だからお客さんが話しかけにくい雰囲気を作るんです。カットや髭剃り、シャンプーのたびに担当者が変わるのも、話しかけにくい雰囲気を保つためなんですよ。それに仲の良いお客さんがついた理容師は同じ系列の他店へ転勤させると聞いたこともあります。つながりが深まると独立されてしまうから、とも聞きました」

「本当かなあ。でも言われてみるとそういう面もあるかなあ」
「僕は、決してそういうお店を馬鹿にしているわけではありません。そういう安くて早いところがいいと思って続けて通う方もたくさんいらっしゃいます。そういう雰囲気よりはうちのほうが良いと思ってくださるお客様もいます。
 しかしお客様が『これこれこういうところが良いから来ている』とか『こういうところが気に入らないからもうこないよ』などとおっしゃる方はいません。
 僕は、床屋へ来て大満足を与えられるなんて方は十人に一人もいないと思いますが、せめて『来る前の不満はなくなった』と感じてお帰りいただけるようにと思いながら髪を切らせてもらっています」

「料金がもっと安いところと比べて高いと不利だ、とは思わないの?」
「20年位前は今より少し高いくらいの料金だったのが15年位前に、景気がぐんと上がったときに、安い床屋より料金の高い床屋の方がステータスが高いと思われるという変な雰囲気になったことがあるんです。そのときに床屋の値段はぐんと高くなって、一人4千円くらいに上がりました。
 しかし十年位前から分業で安くやるという業態の床屋が出始めて急速に人気が出て、高いだけの床屋がどんどん減っていきました。ところがその安くて早いという業態のところも弟子が独立したり分派したりして数を増やしていたものの数年前くらいから飽きられたというか、人気が下降気味になっているように感じています。
 床屋って、やっぱり一ヶ月に一度くらい払っても許せるという程度の料金じゃないといけないんじゃないかと思います。高い料金で三ヶ月も来ないよりは、髪はとにかく伸びるんですから一ヶ月に一度くらい整える。それがリズナブルだと思えるくらいの値段ならなんとかやっていけると思いますし、僕は今楽しく仕事をしています」

「どうしてこの当たりにお店を開いたの?」
「この当たりは床屋さんが多かったということが一つのねらい目でした。床屋さんが少ない地域には床屋に来るという人が少ないということですからね。激戦区の方がお客様の数が多いので、そこで勝負してみたいと思っています」


      ◆   ◆  


 床屋さんに行って髪がさっぱりしたのも気持ちが良かったけれど、床屋談義の中でちょっとした、いや実に深みのあるビジネス論が聞けたものだと感心して帰ってきました。

 ただやみくもに低料金にするわけでもなく、単なる効率化をねらうわけでもない。お客の不満や満足を見極めながら良い気分にさせて返そうという心根が響きました。

 たかが床屋、されど床屋。ここにビジネスマインドあり、なのであります。

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