北海道開発協会開発調査総合研究所が主催して宗谷インバウンドセミナーが開催されました。
日本を旅行する訪日外国客をインバウンドといいます。良く言われることですが、 定住人口一人当たりの年間消費額125万円というのは、外国人旅行者9人分、国内宿泊旅行者27人、国内日帰り旅行者84人分に当たるとのこと。
地域の人口が減る中で、海外客が9人来てくれれば定住人口が一人いたのと同じだけの消費が地域にもたらされます。地域の経済活性化には単価の安い国内旅行者を数多く集めるのも良いのですが、海外からのお客様を迎えるとずいぶん効率が良さそうです。
ビジットジャパンという海外からの観光客誘致を進め始めたのは2003年のことですが、それから十年以上が経過してようやくここへきてインバウンド観光客の数が大きく伸びてきました。
その数、昨年一年で1340万人だったのが、今年は9月末現在で1448万人と大きく伸びています。
では北海道での戦略はなにか?
ビジットジャパンという国全体に海外から呼ぶことを地方レベルでも連携して行う北海道ブロック戦略には三本の柱があります。
①一つ目はスノーリゾート、ドライブ観光(二次交通が弱い)、食の魅力という三大ブランドを活かした誘客をしようというもの。
②二つ目は北海道観光の課題を解消しレベルアップを図ろうというもので、具体的には「観光入れ込みの季節平準化」、「来る観光客の広域分散化」、「(ラグジュアリー層のとりこみなどによる)稼ぐ力の強化」
③三つ目は、国ごとに差のある成熟度に応じたプロモーションを展開しようというもの。
具体的にはもう充分日本に来る価値が分かっている国とまだまだ宣伝や誘客が必要な国を分けて考えて別の対応をしようというのです。
道内の広域観光周遊ルートとしては「アジアの宝 悠久の自然美への道 ひがし北・海・道」として、札幌を中心とした都市型観光から出たところに大雪~十勝~道東~知床という手つかずの自然があるという発信をしようといいます。だんだん地域のブランド化に差がついてきたようです。
準備集中切り替える、失敗しても準備集中切り替えるでいこう
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次に、外国人から見た宗谷地域の魅力と受け入れ環境整備について、内モンゴル出身で北海道商科大学大学院博士課程のウ・ヤチュンさんから話題提供がありました。
彼女は主に中国人を相手に、訪日外国人の動向について研究をしています。
【稚内の印象】
まず「稚内の印象」としては、草原の風景で故郷を思い出した。ノシャップ岬では必ず写真を撮る。稚内駅でランチを食べたが宗谷地域オリジナルの料理があるとよいのにどこでも食べられる料理しかなかったのは残念と思った。
観光案内所が分かりづらかった。看板や矢印で誘導すべきだ。
瀬戸邸を訪問したが外国人がここへくることはほとんどなかったと。ガイドをしてくれた方は「当時の水準では地域で最も優雅な生活だという説明だったが、私の目からはそういう情報よりも『庭がとてもきれいで、家の庭に植物を植えて仕立てるという文化が日本人の美学だと強く思い印象的だった』とのこと。日本人のそういう感性や文化を説明した方が面白いと思った。
瀬戸邸には往時の目出度い席を表したお膳がならんでいる部屋があったが、文化的な背景を知りたかった。
また伊藤博文の書というものもあったが、一緒にいた韓国人の女の子は伊藤博文という名前を聞いてとてもいやな顔をした。振れない方が良い情報もあるので、相手の国に応じた説明をした方が良いのではないか。
【ウさんの個人的な感想】
北海道を宣伝するメッセージを見てピンとこない部分がある。例えば『(函館を差しているのだろうが)『エキゾチックな街並み』というが函館を出ればもうそんなことは感じられない。
『フロンティア精神』を自慢するが、クラーク像を見ないとそれが感じられない。
オホーツク海は『神秘的な海』と表現されるが、神秘的とはどういう子とかが伝わらない。犬ぞりとかトナカイ牧場などと言われるとイメージが具体的に浮かんできた。
【外国人観光客の特徴】
増えているのはアジアからのお客さんで、個人客では、『知床から登別』というゴールデンルートが、函館や旭川などに広がってきているので、宗谷地域でもビジネスチャンスは膨らんでいると思う。
中国人の爆買いが知られているがその手の人たちは国の政治で行動がすぐ変わってしまう。いつまで続くだろうか。
それよりも中国人にも旅や冒険を楽しんでいる人たちがいて自然を楽しんでいる人はいる。そういう人たちを長期的に大切にする方が良い。
爆買いをしている中国人は。しかし少人数で政策に関係なく訪日できる人をターゲットにしてゆくことが長期安定の外国人観光に繋がるだろう。
欧米の観光客は旅慣れている。日本はアジアの旅先の一つ。中国と同じとみがちなので、中国と日本は違うということをアピールすべき。彼らは個人主義だし言葉も違う。
【文化による観光のまなざしの相違】
日本人が考える美しい風景と中国人、ヨーロッパ人の見る美しさの基準は違う。名勝の名前だけ伝えても、どこがどう美しいのかは国によって受け取り方が違う。
宗谷地域で言うと、大沼で白鳥と利尻富士が写っている写真は縁起が良いのでとても受けると思う。
最北の碑は、外国人は必ず写真を撮る。そこへ行ったことが自分への達成感になりそれを証明するところだ。ぜひアピールすべき。
氷雪の門などは歴史的なバックグラウンドを話すことで大事な場所になりうる。どういう説明をするかを重視してほしい。
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ウさんの意見はとても参考になるものでしたが、セミナーが終わった後でお酒を飲みながら突っ込んだ話ができました。
その中で面白かったのは、アジア客は旅慣れていなく、日本は憧れの旅先だということ。
特に中国では親が生きているときは遠いところへは行かずに旅は近場で済ませるという文化があるのだそう。そのため日本は中国にとって永遠に気やすい旅先として喜ばれるだろうということ。
そして日本と違って親類縁者が百人以上もいたりして、皆にお土産を買ったりしないといけないのだから、そういうお土産需要への対応が必要。
中長期的な旅行のあり方を考えると、「観光は買うもの」「旅はするもの」だ。今は中国人には団体としてのビザしか発行されないが、個人でのビザが増えたら、行く先はもっとマニアックなところが増えていくでしょうね。
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最後に、(一財)北海道開発協会開発調査総合研究所の中村正さんから、「インバウンド情報の共有化と活用の重要性」という話題提供がありました。
驚いたのは、インバウンドに関する様々な組織の情報を統合したサイトがあってその充実度がすごいこと。
【Hokkaido Inbound info】 http://inbound-jp.info/
ここをぜひご覧ください。ここには様々な調査報告書や観光に関するデータ、外国人に渡せるような四か国語のガイドブックや簡単な会話集など、本当に多くの観光情報がアップされています。
これは中村さんが中心になって、情報を保持している団体にお願いや交渉をしてアドレスを貼る許可を積み重ねてきたものです。
中村さんからのお願いは、このサイトを大いに活用してほしいということと同時に、何かインバウンド観光に関する情報があったら登録して情報共有の輪を広げましょう、ということ。
恩恵を味わうだけではなく自分の情報は積極的に提供してよりよい北海道観光を実現させたいものです。
やることはたくさんありますが頑張りましょう。