
p.128 一人は、一人で生きて一 人で死ぬ孤独な動物です。
そして人生というのは理屈ではない。その人が置かれている境遇、
その境遇に対する気の持ち方ややり方で、その人の人生は決まる。
そういうことだと思います。
私の仕事は一見、同じことの繰 り返しのように見えます。
墨の線を引いて、かたちをつくっていますから。でも、繰り返しでは
ありません。昨日引いた線と、今日引いた線は違います。一本一本の
線を創造しています。創造する喜び、ありがたさは私にとって
かけがえのないもので、線には日々新たなものが宿ります。
百歳過ぎると、生物としては衰えていく一方。歳とともに私の線も
変化しています。線の力強さは体力とともに衰え、その代わり、歳を
経たからこそ深まった思考などが、線に深遠さを増しているように思います。
とは言っても、老いることにあまりたくさんのいい点はない。
不自由で困ることのほうが多い。だからこそ、老いて初めて得られるものは
非常に貴重です。ありがたいと思わなくては。
人は無駄に歳をとっているわけではないと思えます。