ノーベル賞作家の受賞後第一作で、<お伽話>という「読みやすそう」な
イメージだったのですが、読後感想は、結構複雑なモノがあります。
「近未来のSF世界を紹介してくれて、読み手に色々考えさせる」という
手法は見事に成功しているとは思います。
が、心が洗われて、手放しで感動に浸るという感じではなく、
むしろ「なにぃ、これ?」「なんだか変よっ!」という違和感が。
結末に関してもそうですし、登場する用語に関しても不親切。
私も素人なりにミュージカルの脚本を書いているので、
もし、こんな書き方をしたら仲間たちから滅茶苦茶叩かれるはずです。
その理由は、
物語の舞台設定が分からず、主人公(語り手)が何なのかも、
頻出する「AF」とか「向上処置」、「オブロン端末」など、
かつて聞いたことのない言葉が頻出して、説明がないのです。
表表紙扉に
人工知能を踏査したロボットのクララは、
病弱の少女ジョジーと出会い、やがて二人は友情を育んでゆく。
生きることの意味を問う感動作。
愛とは、知性とは、家族とは?
と書いてあるので、AFというのは多分Artificial friendなのだろうな、
と推察しましたが、英語に馴染みのない人は推察できなそう。
「向上処置」については、未だSF映画の世界の存在らしいですが、
下記サイトに詳しく説明されていました。
(ネタばれになるかもしれません。本を読んでから眺めると、
なぁ~るほど、そうだったの・・・と、理解が進みます。)
こういう解説はとても有難い存在です。
https://www.vogue.co.jp/change/article/vogue-book-club-klara-and-the-sun
一部抜粋すると、
ゲノム編集に基づく向上処置には副作用による病が生じることがある。
つまり、向上処置の判断にはリスクが伴う。だが、向上処置なしでは
大学進学の道はほぼ閉ざされてしまう。そうなると、子どもの将来の
こともさることながら、上層階級の親の見栄から向上処置がなされることも
実際には多いことだろう。
ここには、メリトクラシー(能力・業績主義)による階層社会の正当化
という方便に対するイシグロの批判が込められていると⾒てよいだろう。
私にとって初めて接する「メリトクラシー」という言葉も、知っていると
便利だなと思います。私の読書の多くは健康関連なので、こういう分野の
読書は知的刺激にはなりますが、ちょっぴり疲れます。
最後に、「なんだか変よっ」と思ったのは、
優秀な発展能力や素晴らしい感情を持つAIロボットの扱われ方です。
昔、鉄腕アトムが悩んだアレが、もろに再現されている感じ。