尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「ウィンターズ・ボーン」と「春の山脈」

2011年11月04日 21時58分48秒 |  〃  (新作外国映画)
 最近は新作ではなく、古い日本映画ばっかり見てるんだけど、今日神保町シアターの川本三郎編「東北映画紀行」で、「春の山脈」(1962、松竹、野村芳太郎監督)を見ました。舞台は福島県会津若松市。東京の親戚の家から高校へ通っていた鰐淵晴子は故郷に帰る。帰りの汽車の中で酒造会社の社長と出会う。一方、中学の同級生十朱幸代は東山温泉で芸者になっている。この二人に酒造会社の息子や社員、親世代も絡み…、という源氏鶏太原作の青春ドラマ。昔のどうってことない日本映画の技術陣の素晴らしさ。野村芳太郎監督は戦前活躍した野村芳亭監督の子供で、松本清張原作の「張り込み」「砂の器」などで有名。喜劇作品も多いけど、作品が多数にのぼり、ほとんど注目されていない小品が埋もれている。東山温泉街でロケしていて、有名な「向瀧」で実際に撮影されている(と思う)。ということもあるんだけど、この映画にわざわざ触れたのは、そういう点(福島とか温泉とか)ではなくて、鰐淵晴子の履歴書。映画の中に出てくるんだけど、なんと東京都立城南高等学校卒業。これ、六本木高校の前身の高校名じゃやないですか。テキトーに作ったら実在してただけかもしれないけど、実は城南は松竹ヌーベルバーグの一人、吉田喜重監督の卒業した高校です。だから知ってて使った可能性もある。(原作を確かめる気まではないけれど。)

 で、アメリカ映画「ウィンターズ・ボーン」。10月末から東京では日比谷シャンテ、新宿武蔵野館で上映中。いつも終了ギリギリで見るのに、今回は事情あってすぐに見ました。インディーズ作品でサンダンス映画祭グランプリ。アカデミー賞作品賞他4部門ノミネート作品賞ノミネート映画10本中、公開が最後になった映画だそうです。他の9本をあげると、受賞「英国王のスピーチ」。他は、ブラック・スワン、ザ・ファイター、インセプション、キッズ・オールライト、127時間、ソーシャル・ネットワーク、トイ・ストーリー3、トゥルー・グリット。なるほど。これらの中にも結構大変な映画もあるけど、まあ、「ウィンターズ・ボーン」は暗さ、縁遠さでは一番かも。それだけで、なんだか僕好みかもという期待が深まります。

 実際に見ると、確かに、何だ、これは、アメリカのどこかにこんなところがあるのかという感じだけど、「頑張る17歳少女」のたくましい生命力、あまりにも大変な状況を一人で背負ってしまった少女の孤独と痛みがヒリヒリと伝わります。画面も暗いけど美しい。小説の映画化らしいけど、「ウィンターズ・ボーン」は「冬の骨」ですね。舞台はどこかと言うと、プログラムを見るとミズーリ州南部のオザーク高原と言うところだそうです。アメリカの真ん中あたりです。貧しい農業地帯で、カントリー音楽の故郷みたいなところ。(映画音楽も素晴らしい。)血族関係が強く、暴力と犯罪と貧困が満ち満ちている。いつの話かと思うけど、まさに現代の映画。絶対ここには生まれたくない。

 父は不在、母は精神を病み、幼い子供二人の面倒を見るのはリーしかいない。そこに保安官が現れ、父は逮捕・起訴されて保釈中だが、行方不明である、家と土地が保釈金の担保になってるから来週の裁判に来ないと家を追い出されるという。父親捜しに親戚中を駆け回るが、みんな力になってくれるどころか、暴力で脅され、一体真実はどこにあるのか。父は生きてるの?それとも、殺されてるの?私たちの家はどうなるの?過酷な運命と暴力を17歳の少女リーは行き抜くことは出来るのか。というような話。
 主演のジェニファー・ローレンスがホント、素晴らしい。ヴェネチア映画祭で新人賞受賞。監督は女性のデブラ・グラニック。2作目だそうだが、確かな演出力が見事。撮影、音楽もいい。暗いけど、若い主人公の全力疾走力は見所あり。「運命の変転を骨太に展開し、人間の内面を詩的に描くカントリー・ノワール」(by黒原敏行)。しかし、アメリカの田舎の方は怖いです。ジェニファーもしっかり銃を撃ってます。
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