31日に、池袋の新文芸坐で岩下志麻のトークショー。司会は最近「岩下志麻という人生」を出した共同通信の立花珠樹。昨年の梶芽衣子ショーでも司会を務めていた。ここでは書かなかったが、新文芸坐では2月に八千草薫の特集があり、そこで八千草薫のトークショーがあった。八千草さんは1931年生まれでもう80歳を超えている。しかし、なんという若々しく瑞々しい感性と美貌を保ち続けているのだろうと感嘆した。近作にも出演している。
(岩下志麻)
岩下志麻は1941年生まれ。驚くほど若々しい様子に女優という職業の素晴らしさと大変さを感じる。とにかく美人で、女性映画の松竹で60年代を支えた大女優の一人である。清張ミステリーや「極道の妻たち」シリーズなどで美人に止まらない役柄をこなしてきた。でも、映画史的には篠田正浩監督と結婚、篠田映画の傑作の主演、助演をつとめたことが一番大きなことだろう。「心中天網島」、「はなれ瞽女(ごぜ)おりん」などが代表。これらは本当に素晴らしい。あまり成功していたとは思えないが「卑弥呼」とか「桜の森の満開の下」といった作品も忘れがたい。篠田作品にはほとんど出ていて、女性映画ではないと助演に回っているが、いつも重要な役柄を見事に演じてきた。
(「秋刀魚の味」)
62年に小津安二郎の遺作「秋刀魚の味」に出演した。小津作品最後のヒロインという歴史的意義がある。「テストが100回」とは今回も話に出たが、有名なエピソードである。しかし一番心に残ったのは、「はなれ瞽女おりん」の話である。水上勉の原作で、生まれたときから目が見えず「ごぜ」と呼ばれる放浪の芸人として生きる女性の話である。神と結婚したということで男との交わりは許されない。男とつきあったおりんは、集団と離れて一人「はなれごぜ」として生きなければならない。
この目が見えないという難役中の難役をどう演じたか。普段から目をつぶり、盲学校を見学に行き、視覚がない人生に近づく。人間の耳は左右で少し聞こえが違い、それで身体のバランスがずれてくるという。それを感じ取り演技に生かしたと言っていた。映画を見るときにはストーリーに入れ込んできちんと確認するのを忘れてしまった。途中で脱走兵と思われる原田芳雄とめぐり合い旅を共にする。その原田芳雄との共演の思い出があまりないという。後で聞くと、原田芳雄は目が見えない役の岩下に配慮して、撮影ではない時もできるだけ見られないように努めていたという。すごい配慮ができる人だ。
(「はなれ瞽女おりん」)
「はなれ瞽女おりん」は当日夜に再見したが、やはり素晴らしい映画だった。77年ベストテン3位。(1位は「幸福の黄色いハンカチ」、2位が新藤兼人の「竹山ひとり旅」、4位が「八甲田山」。)宮川一夫の撮影、武満徹の音楽などのスタッフが超一流。それより社会批判の志の深さが身に沁みる。大正時代の北陸から越後、信州の話である。山や海も美しい。雪も映画では美しい。しかし、人の世は厳しい。
今回「古都」も再見した。この映画は3回目か4回目で、大好きな映画である。川端康成原作で北山杉が見事。岩下志麻は一人二役で、双子の役。片方は捨てられ、帯の店の一人娘として育つ。二人が出会い、どのように交流していくか。そこに結婚や親の問題も絡みながら進んで行く。基本的に悪い人は出てこないが、話は気品を保ちながら運命を感じるという意味でスリリング。成島東一郎の撮影、武満徹の音楽も印象的で、中村登監督のていねいな演出が生きている。アカデミー賞外国語映画賞ノミネート。岩下志麻が若い時にいかに清楚で気品があったかを永遠に残す映画でもある。最近は昔の俳優のトークショーが多く、そういう機会は逃さないようにしたいと思っている。
(岩下志麻)
岩下志麻は1941年生まれ。驚くほど若々しい様子に女優という職業の素晴らしさと大変さを感じる。とにかく美人で、女性映画の松竹で60年代を支えた大女優の一人である。清張ミステリーや「極道の妻たち」シリーズなどで美人に止まらない役柄をこなしてきた。でも、映画史的には篠田正浩監督と結婚、篠田映画の傑作の主演、助演をつとめたことが一番大きなことだろう。「心中天網島」、「はなれ瞽女(ごぜ)おりん」などが代表。これらは本当に素晴らしい。あまり成功していたとは思えないが「卑弥呼」とか「桜の森の満開の下」といった作品も忘れがたい。篠田作品にはほとんど出ていて、女性映画ではないと助演に回っているが、いつも重要な役柄を見事に演じてきた。
(「秋刀魚の味」)
62年に小津安二郎の遺作「秋刀魚の味」に出演した。小津作品最後のヒロインという歴史的意義がある。「テストが100回」とは今回も話に出たが、有名なエピソードである。しかし一番心に残ったのは、「はなれ瞽女おりん」の話である。水上勉の原作で、生まれたときから目が見えず「ごぜ」と呼ばれる放浪の芸人として生きる女性の話である。神と結婚したということで男との交わりは許されない。男とつきあったおりんは、集団と離れて一人「はなれごぜ」として生きなければならない。
この目が見えないという難役中の難役をどう演じたか。普段から目をつぶり、盲学校を見学に行き、視覚がない人生に近づく。人間の耳は左右で少し聞こえが違い、それで身体のバランスがずれてくるという。それを感じ取り演技に生かしたと言っていた。映画を見るときにはストーリーに入れ込んできちんと確認するのを忘れてしまった。途中で脱走兵と思われる原田芳雄とめぐり合い旅を共にする。その原田芳雄との共演の思い出があまりないという。後で聞くと、原田芳雄は目が見えない役の岩下に配慮して、撮影ではない時もできるだけ見られないように努めていたという。すごい配慮ができる人だ。
(「はなれ瞽女おりん」)
「はなれ瞽女おりん」は当日夜に再見したが、やはり素晴らしい映画だった。77年ベストテン3位。(1位は「幸福の黄色いハンカチ」、2位が新藤兼人の「竹山ひとり旅」、4位が「八甲田山」。)宮川一夫の撮影、武満徹の音楽などのスタッフが超一流。それより社会批判の志の深さが身に沁みる。大正時代の北陸から越後、信州の話である。山や海も美しい。雪も映画では美しい。しかし、人の世は厳しい。
今回「古都」も再見した。この映画は3回目か4回目で、大好きな映画である。川端康成原作で北山杉が見事。岩下志麻は一人二役で、双子の役。片方は捨てられ、帯の店の一人娘として育つ。二人が出会い、どのように交流していくか。そこに結婚や親の問題も絡みながら進んで行く。基本的に悪い人は出てこないが、話は気品を保ちながら運命を感じるという意味でスリリング。成島東一郎の撮影、武満徹の音楽も印象的で、中村登監督のていねいな演出が生きている。アカデミー賞外国語映画賞ノミネート。岩下志麻が若い時にいかに清楚で気品があったかを永遠に残す映画でもある。最近は昔の俳優のトークショーが多く、そういう機会は逃さないようにしたいと思っている。