尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

すべての自治体に「子どもオンブズ」を!

2012年08月25日 23時50分52秒 | 教育 (いじめ・体罰問題)
 「減いじめ」の具体的な話を書いて行きたい。もっとも「いじめをなくすために、どうすればいいのか」という発想自体が間違っている。どういう問いならいいのかは次回にして、まずは本の紹介。

 今回いろいろ考えた中で一番役立ったのは、桜井智恵子「子どもの声を社会へ―子どもオンブズの挑戦」(岩波新書、2012.2)という本だった。出たときに見逃していたけど、これは教育に関わる人、特に自治体関係者などに必読の本だ。著者は教育学専攻の大阪大谷大教授。

 兵庫県川西市の「子どもの人権オンブズパーソン」制度に関わって、「オンブズパーソン」をしてきた体験が興味深く語られている本だ。最後の方は教育思想史をたどって、日本の社会のあり方自体が学校をゆがめてきた歴史がまとめられている。その部分も刺激的けど、やはり「子どもオンブズ」の紹介の意味が大きい。これを読んで、「すべての基礎自治体に、子どもの人権オンブズパーソン制度を作らなければ!!」と強く思った。

 オンブズマンという言葉は、時々マスコミにも載るから聞いたことがあるかもしれない。もとはスウェーデンの制度で、行政を監視するために議会が設置した人々である。「行政から離れた立場で、行政を監視する」という仕組みが必要だということで、世界各地に広がった。「オンブズマン」の「マン」が性差別だと、アメリカで「オンブズパーソン」という言葉ができた。でも、スウェーデン語では「マン」は両性を指しているから「オンブズマン」でいいという意見もあるらしい。それはともかく、今は公的な組織だけでなく、市民運動で行政監視をしている人も「市民オンブズマン」と名乗ることが多い。「行政組織そのものではなく、違った立場で関わる役目」として世界に広がっている。

 川西市というのは、兵庫県東南部にある人口16万弱の市。清和源氏2代目の源満仲が住みついて摂津源氏と呼ばれるようになった由緒のある町である。古田敦也や由美かおるが育った町だという。そこに90年代半ばに「子どもの権利条約」をきっかけにして、「子どもの人権オンブズパーソン」という制度ができた。仕組みや条例そのものは川西市のサイトに出ている。

 この制度では「オンブズパーソン」が一定の権限・強制力を市条例により与えられている。子ども、学校、教育委員会、保護者からの相談を受け、教委、学校に対する調査権・指導権を持ち、報告を課す権限も与え、是正指導できる機関である。子どもや保護者だけでなく、教員にとっても相談機関・対応機関になっている。子ども同士の関係がこじれたり保護者対応がもつれた場合なども多くの相談が寄せられているそうだ。

 そうなるまでには時間がかかったようだけど、今では学校で相談を勧める連絡をするようになった。オンブズパーソンには、弁護士、心理学、教育学などの専門家が選ばれ、別に相談員がいる。子どもからの相談は、いじめと交友関係の悩みが多く、二つで半数を超えている。大人からの相談では、子育ての悩みや不登校が多い。それぞれ3位には「家族関係の悩み」が入っていて、学校と関係のない子どもの悩みを受ける役割も果たしている。

 大事なことは単なる電話相談コーナーではなく、調査権限があり具体的な報告を出して現実を変えていく力を持っていることである。だから、本に出ている事例で言えば、アレルギーがある子にとっての給食の配慮の問題、高校受験校の志望変更を中学が認めなかったケース(出願後に志望変更できる制度が兵庫県にあったにも関わらず、中学校が「転居など特例がないとダメな制度」と誤認して志望校変更認めなかった)などでは具体的な制度上の取り組みがあった。

 でも、やはり「いじめ」の相談が多く寄せられる。その時は「関係に働きかける」という。「人が生きる力を取り戻すために、本人ばかりを励ますよりもむしろ、本人が力を失う元になっている関係に働きかけつつ、その関係が回復するよう支援することが最も有効」だからである。

 「川西オンブズの思想」(33ページ)
 子どもの意見をスタートに、
 敵対するのではなく、対話を重ね、
 関係に働きかけ、衝突を解決するために、
 子どもの傍らに立つ

 同書によれば、この制度はユニセフなどにも注目されている。しかし、僕は全く知らなかった。ほとんどの人はそうだと思う。まだ日本ではほとんど知られていないのではないか。でも、これは全国に必要な制度で、緊急に皆が知るべき制度だと思う。。学校が変わっても、地域の子育て全体を変えることはできない。いろいろな家庭、いろいろな子どもがいるわけだし、学校では様々な問題が起こり続ける。学校を変えることももちろん大切だし、カウンセラーなども必要だけど、実際に行政に働きかける権限を持った第三者機関を制度化するという発想はとても重要だと思う。
コメント
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