尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「政権交代」という新書本

2012年11月16日 23時47分15秒 | 政治
 中公新書で、小林良彰「政権交代」という本が9月に出た。この本を紹介しながら、解散・総選挙を迎えた日本の政治を考えてみたい。


 2009年に自公連立政権が敗れて、民主党中心の内閣が誕生した。それは突然起こったわけではなく、それ以前の自民党政権を考えておかないと理解できない。どこまで振り返ってもキリがないが、この本ではとりあえず2005年の小泉政権の郵政民営化解散と自民圧勝から書き起こしている。今回初めて選挙権を得た若い世代は、まだ中学生だった頃のことである。大人でも首相が次々と変わったこの7年間、順番にその首相を言えない人がかなり多いのではないか。小泉から始まり、7人に及ぶ。一応書いておくと、小泉→安倍→福田康夫→麻生→鳩山由紀夫→菅→野田、となる。(福田と鳩山は、それぞれ父と祖父も首相だから、名前を書いておく。)

 この程度の問題がクリアーできない人、いやあ忘れちゃったなあというような人は、選挙前にこの本を読んでおいたほうがいい。そして、2009年からの3年間、これももう覚えていないという人もいるのではないかと思う。結構いろんなことがあったし、東日本大震災があって、なんだかそれ以前のことは大昔みたいな気がする人が多いだろう。この本を読んで思い出しておこう。(なお、39頁「総選挙では沖縄県の4つの小選挙区のすべてで自民党は敗退し、民主党が三議席、国民新党が一議席を獲得する。」と書いてあるが、間違いである。前段は正しいが、後半の民主は二議席。沖縄2区は社民党の照屋寛徳氏である。民主党の推薦であるが、明確に社民党所属である。なお、民主の玉城デニー、瑞慶覧長敏(ずけらん・ちょうびん)両代議士は民主を離党しているので、現在沖縄選出で与党にいるのは下地郵政民営化担当相(国民新党)だけである。このような基礎的データが校正でも治らないのは問題。)

 この間の3年間で民主党政権にとって最大の問題は、僕に言わせれば「沖縄の普天間基地問題」である。「最低でも県外」の鳩山首相の当初方針がもし実現していれば、2010参院選は鳩山首相で、社民党も政権内にいて迎えたことになる。民主党が勝利していたのではないか。「普天間問題」で鳩山首相の支持率が下がり、菅内閣に代わる。普天間問題で対米関係は「悪化」したとされ、マスコミは対米関係が心配であるという論調でキャンペーンをした。菅、野田内閣は「沖縄を犠牲にして、アメリカ従属を認める」という方針を取らざるを得なかった。この民主党政権における対米関係悪化、政権の不安定化こそが、それぞれの国の国内事情もありつつ、ロシアのメドヴェージェフ大統領(当時)の北方領土訪問、韓国の李明博大統領の竹島訪問、中国の尖閣問題強硬方針(今年というよりも、むしろ2010年秋の段階の)などを呼び込んでしまったのではないか。そして、それを受けて日本国内で「反民主政権」を主目的とした「ナショナリズム」が高まる。そういう中で、アメリカで石原都知事(当時)が尖閣諸島購入を打ち出した。都民の金で買おうという話を、東京で発信するのではなく、よりによってアメリカで行ったのである。このあたりの裏にあった事情は、まだ不明なことが多い。

 参院選で敗北し、民主党の独自政策は通らなくなってしまった。今自民党が「民主党はマニフェストを守らなかった」などと批判しているが、自民がジャマをしたのだから当然ではないかと思う。自民は「子ども手当」はいらないという方針なんだろうし、それで参院で反対したから通らない。自民党が「民主党はマニフェストを守らなかった」というのはおかしい。「わが党が民主党のマニフェスト実現を阻止した」というべきである。それがいいか、悪いかは国民の判断するところである。自民の協力がないと何も決まらない以上、民主と自民が一致できるテーマしか実現できない。それが「社会保障と税の一体改革」、つまりは消費税増税である。そういう国会構成にしてしまったのは、国民自らであって、国民の側が民主党に「失望した」とばかり言うのは僕には理解できない。この「決まらない国会」が大震災時であったということは、歴史的な不幸だった。僕は原子力規制委員会は、民主党当初案の方が良かったと思うし、それで2012年4月発足をするべきだった。(民主党案は環境庁の外局として規制庁を置くという方針だった。しかし、自民党は「菅首相が介入したから事故対応が遅れた」と主張して、「菅リスク」をなくせと「3条委員会」にせよと主張した。原発をずっと維持するならば、政府と距離を置いた独立委員会のほうがいい。しかし、原発の存廃を政策判断するのなら政府の中に置かないといけない。そういう委員会になったため、今大飯原発の再稼働を止めるのも(活断層問題をどう判断するかも)、逆に他の原発を再稼働するのも、どこがいつ判断するのか判らない。原発を持ちつづけたい自民党の策謀なんだろうと思う。)とにかく、もめるものは自民、公明案を丸のみするしかないまま、野田内閣が消費増税のためにのみ延命してきて、それもついに尽きてしまった。

 選挙戦については、また構図がはっきりしてから書きたいと思う。民主党は今の段階では離党、引退議員がいるため、民主から立候補しようという人が全員当選しても過半数にならない。まあ、今後もう少し各選挙区で決まっていくのだろうが、解散当日にこれでは「政権維持」を口にするのも恥ずかしい。安倍自民に「石原+橋下」では、困ったもんだと思うが、社民党の福島党首はこういう状況に待ったを掛けるのは社民の躍進だと言っていた。だったら、各選挙区で候補を立ててから言ってくれ。今後、維新・みんななどがどのような候補を立てるかによって変わっても来るだろうが、ちょうど一か月前になっても決まってない落下傘候補が、仮に党首人気や政策が受けたとしても当選できるものだろうか。05年の自民の「刺客」は確かに当選した人もいたけれど。今の段階では、前回落ちた自民候補がいるところは、自民が強いと考えられる。しかし、必ず自民・公明で過半数を取ると決まっているわけではない。今後の動向次第。ということで一端終わり。
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