シアターN渋谷という映画館が12月2日で閉館する。昔ユーロスペースがあったところで、7年前にユーロスペースがBunnkamuraの近くに移転した後に、新たな名前で映画館をやっていた。そこの最後の番組の一本として、1981年のアメリカ映画、ロバート・アルドリッチ監督作品、「カリフォルニア・ドールズ」をやっている。なんでも音楽の著作権問題でDVDが発売されていないという。公開当時見て、ものすごく面白かった記憶があって、もう一度見てみたいと行ってきた。いやあ、面白い。昔の映画だから、多分知らない人の方が多いと思うけど、だまされたと思って見て欲しい映画。ただし、女子プロレスの映画なので、格闘シーン満載である。他人が映画の中で殴られているのも耐えられないというくらいの、身体共感能力豊かな「平和主義者」には辛いかもしれないが。そうでなかったら、痛快なアクション映画で素晴らしいロード・ムーヴィーを楽しめること請け合い。

ロバート・アルドリッチ(1918~1983)という監督は、1954年の「ベラクルス」というアクション映画で知られるようになった。以後「攻撃」「何がジェーンに起こったか?」「特攻大作戦」などの映画を作った。戦争映画、西部劇、サイコ・サスペンスなどアクションを中心に多彩な娯楽映画を作った監督である。70年代になると、ホーボー(鉄道タダ乗りの放浪者)と鉄道警備員の闘いを描く「北国の帝王」(1973)、バート・レイノルズが囚人のアメリカン・フットボールチームを活躍させる「ロンゲスト・ヤード」(1974)などの忘れられない「男の闘い映画」を作った。今回同時にリバイバルされている「合衆国最後の日」(1976)も含めて、ほぼすべて男性アクション映画である。そういうアルドリッチの遺作になってしまったのが、この「カリフォルニア・ドールズ」(1981)で、82年のキネ旬ベストテン8位に選ばれた。唯一のベストテン入選であり、女性中心の映画という意味でも珍しい。
スポーツ映画はアメリカで数多く作られている。ボクシングと野球が一番多い。もう枚挙にいとまないほどの名作が作られてきた。大体パターンは決まっていて、弱い球団、年老いたボクサーなんかが人間としてのプライドを掛けて最後の闘いに挑む。しかし、やられまくって、もうダウン(引退)寸前であるが、家族とか偏屈な名監督なんかの助言で、奇跡が起こるかもしれない。頑張れ!頑張れ!起これよ、奇跡! そして大体奇跡のような勝利が舞い込むわけである。判っているけど、演出と演技で迫真のスポーツシーンになると、見てる側も熱中してしまうし、驚くような技で逆転するのがカタルシスを呼ぶわけである。
まあ、そういう意味では、この映画もスポーツ映画の定型に当てはまっている。ただし、女子プロレスというジャンルが珍しい。そしてマネージャー役の男性と3人組でアメリカ各地をおんぼろ車でドサ回りする。このマネージャーがピーター・フォーク。オペラを流しながら、小金を求めてさすらいの旅を続けながら、なんとか這い上がろうとする落ちぶれた男を大変印象的に演じている。正直言って、もう刑事コロンボと「ベルリン・天使の詩」しか覚えていなかったんだけど、この映画も記憶しておかないといけない。「誇り高き頑固者」を全身で演じている。
ピーター・フォークがなんとかして取ってきた「トレドの虎」というチャンピオンとのノンタイトル・マッチ。敵地の試合なので当然負けるべきところ、「カリフォルニア・ドールズ」は本気出してアウェイで勝ってしまう。以後宿敵となった両者が合計3度闘う。泥んこになって裸になっちゃうアトラクションなんかに嫌々出ながら、だんだんレスラーの階段を上っていく「ドールズ」の二人。嫌味な興行師と泣く泣く付き合って「トレドの虎」とタイトルマッチ。雌雄を決する最後の決戦は、荒れに荒れ、もう残り一分、負けに決まってるんだけど…。この最後のプロレスシーンは、とても見応えがあって、興奮必至。
ボクシング映画だと大体、八百長を持ちかけるギャング組織が敵役になるんだけど、この映画ではそれはない。まあ、プロレスは興行色が強く、いまさら八百長を仕掛けるようなものではないのかもしれない。女子プロレスには、八百長ではなくセクハラ。高校中退で今さら仕事するにも大した仕事はない。なんとか2人+男1人で、プロレスで頂上を目指すのだという、そのど根性。そして最後の闘いにかけた秘策とは…。これは紅白歌合戦かと思うシーンにボー然。観客はほとんどドールズの応援になってしまう。
男のプロレス映画では、「レスラー」という名作映画が数年前にあった。韓国で作られた「力道山」も忘れがたい。女子大生のプロレス(学生だからプロじゃないけど)を扱った日活ロマンポルノ「美少女プロレス 失神10秒前」というのも今年見たけど…。またプロレスの記録映画も数多い。しかし、プロレス映画の最高傑作は「カリフォルニア・ドールズ」にとどめを指すと思う。これはスポーツ映画というジャンルではあるが、同時に「元気で頑張る女性映画」というジャンルの傑作でもある。「テルマ&ルイーズ」(1991)とか。あるいは「ビッグ・バッド・ママ」(1975)というトンデモナイ女性ギャング映画があった。「フライドグリーントマト」(1991)なんかも南部を生き抜く女性の強さが印象的だった。アメリカの大衆映画の中に脈々と続く、「元気な女たち」の映画というジャンルの一本でもあるだろう。面白くて元気になる映画を見たい人は是非。
なお、「ロンゲスト・ヤード」も「午前10時の映画祭」でやっている。これからあちこちで見られる可能性があるが、是非見ておきたい傑作である。ちょっと「お下品」なとこもあるけど。「もう一度見てみたい」って、「ロンゲスト・ヤード」を公開の時に見た人はそれほど多いわけでもないでしょうに。よく「午前10時の映画祭」に入ったもんだ。誰か大ファンがいたのか。僕は大学に入ったばかりの時に、蓮見重彦さんの「映画表現論」を取ってしまった。立教大学に来ていたのである。蓮見氏は「ロンゲスト・ヤード」とドン・シーゲルの「ドラブル」を見に行くようにと指示を出した。まあアート映画ではなくて、この両作を見せたいというところに特徴があるが、学生がロードショーを見るのは大変である。なんで見せられたんだと思いながら見た記憶があるのが、「ロンゲスト・ヤード」である。面白かったですけど、名画座で見ればいいような気がしたのも事実である。これもスポーツ映画の代表作と言える。
シアターN渋谷は、ユーロスペース時代というか、その前の「欧日協会」の時代から映画を見てきた。世界の珍しい映画を見ることが多かった。スイスの映画監督アラン・タネールの「ジョナスは2000年に25歳になる」「光年のかなた」の連続上映というのが思い出に残っている。ドイツの「鉛の時代」「秋のドイツ」もここで見た。ペドロ。アルモドバルの初期作品もここで知られていった。ヒットしたのは何と言っても「ゆきゆきて神軍」だろうか。80年代、90年代の名作、問題作の多くをこの場所で見た思い出の場所だったのだが。


ロバート・アルドリッチ(1918~1983)という監督は、1954年の「ベラクルス」というアクション映画で知られるようになった。以後「攻撃」「何がジェーンに起こったか?」「特攻大作戦」などの映画を作った。戦争映画、西部劇、サイコ・サスペンスなどアクションを中心に多彩な娯楽映画を作った監督である。70年代になると、ホーボー(鉄道タダ乗りの放浪者)と鉄道警備員の闘いを描く「北国の帝王」(1973)、バート・レイノルズが囚人のアメリカン・フットボールチームを活躍させる「ロンゲスト・ヤード」(1974)などの忘れられない「男の闘い映画」を作った。今回同時にリバイバルされている「合衆国最後の日」(1976)も含めて、ほぼすべて男性アクション映画である。そういうアルドリッチの遺作になってしまったのが、この「カリフォルニア・ドールズ」(1981)で、82年のキネ旬ベストテン8位に選ばれた。唯一のベストテン入選であり、女性中心の映画という意味でも珍しい。
スポーツ映画はアメリカで数多く作られている。ボクシングと野球が一番多い。もう枚挙にいとまないほどの名作が作られてきた。大体パターンは決まっていて、弱い球団、年老いたボクサーなんかが人間としてのプライドを掛けて最後の闘いに挑む。しかし、やられまくって、もうダウン(引退)寸前であるが、家族とか偏屈な名監督なんかの助言で、奇跡が起こるかもしれない。頑張れ!頑張れ!起これよ、奇跡! そして大体奇跡のような勝利が舞い込むわけである。判っているけど、演出と演技で迫真のスポーツシーンになると、見てる側も熱中してしまうし、驚くような技で逆転するのがカタルシスを呼ぶわけである。
まあ、そういう意味では、この映画もスポーツ映画の定型に当てはまっている。ただし、女子プロレスというジャンルが珍しい。そしてマネージャー役の男性と3人組でアメリカ各地をおんぼろ車でドサ回りする。このマネージャーがピーター・フォーク。オペラを流しながら、小金を求めてさすらいの旅を続けながら、なんとか這い上がろうとする落ちぶれた男を大変印象的に演じている。正直言って、もう刑事コロンボと「ベルリン・天使の詩」しか覚えていなかったんだけど、この映画も記憶しておかないといけない。「誇り高き頑固者」を全身で演じている。
ピーター・フォークがなんとかして取ってきた「トレドの虎」というチャンピオンとのノンタイトル・マッチ。敵地の試合なので当然負けるべきところ、「カリフォルニア・ドールズ」は本気出してアウェイで勝ってしまう。以後宿敵となった両者が合計3度闘う。泥んこになって裸になっちゃうアトラクションなんかに嫌々出ながら、だんだんレスラーの階段を上っていく「ドールズ」の二人。嫌味な興行師と泣く泣く付き合って「トレドの虎」とタイトルマッチ。雌雄を決する最後の決戦は、荒れに荒れ、もう残り一分、負けに決まってるんだけど…。この最後のプロレスシーンは、とても見応えがあって、興奮必至。
ボクシング映画だと大体、八百長を持ちかけるギャング組織が敵役になるんだけど、この映画ではそれはない。まあ、プロレスは興行色が強く、いまさら八百長を仕掛けるようなものではないのかもしれない。女子プロレスには、八百長ではなくセクハラ。高校中退で今さら仕事するにも大した仕事はない。なんとか2人+男1人で、プロレスで頂上を目指すのだという、そのど根性。そして最後の闘いにかけた秘策とは…。これは紅白歌合戦かと思うシーンにボー然。観客はほとんどドールズの応援になってしまう。
男のプロレス映画では、「レスラー」という名作映画が数年前にあった。韓国で作られた「力道山」も忘れがたい。女子大生のプロレス(学生だからプロじゃないけど)を扱った日活ロマンポルノ「美少女プロレス 失神10秒前」というのも今年見たけど…。またプロレスの記録映画も数多い。しかし、プロレス映画の最高傑作は「カリフォルニア・ドールズ」にとどめを指すと思う。これはスポーツ映画というジャンルではあるが、同時に「元気で頑張る女性映画」というジャンルの傑作でもある。「テルマ&ルイーズ」(1991)とか。あるいは「ビッグ・バッド・ママ」(1975)というトンデモナイ女性ギャング映画があった。「フライドグリーントマト」(1991)なんかも南部を生き抜く女性の強さが印象的だった。アメリカの大衆映画の中に脈々と続く、「元気な女たち」の映画というジャンルの一本でもあるだろう。面白くて元気になる映画を見たい人は是非。
なお、「ロンゲスト・ヤード」も「午前10時の映画祭」でやっている。これからあちこちで見られる可能性があるが、是非見ておきたい傑作である。ちょっと「お下品」なとこもあるけど。「もう一度見てみたい」って、「ロンゲスト・ヤード」を公開の時に見た人はそれほど多いわけでもないでしょうに。よく「午前10時の映画祭」に入ったもんだ。誰か大ファンがいたのか。僕は大学に入ったばかりの時に、蓮見重彦さんの「映画表現論」を取ってしまった。立教大学に来ていたのである。蓮見氏は「ロンゲスト・ヤード」とドン・シーゲルの「ドラブル」を見に行くようにと指示を出した。まあアート映画ではなくて、この両作を見せたいというところに特徴があるが、学生がロードショーを見るのは大変である。なんで見せられたんだと思いながら見た記憶があるのが、「ロンゲスト・ヤード」である。面白かったですけど、名画座で見ればいいような気がしたのも事実である。これもスポーツ映画の代表作と言える。
シアターN渋谷は、ユーロスペース時代というか、その前の「欧日協会」の時代から映画を見てきた。世界の珍しい映画を見ることが多かった。スイスの映画監督アラン・タネールの「ジョナスは2000年に25歳になる」「光年のかなた」の連続上映というのが思い出に残っている。ドイツの「鉛の時代」「秋のドイツ」もここで見た。ペドロ。アルモドバルの初期作品もここで知られていった。ヒットしたのは何と言っても「ゆきゆきて神軍」だろうか。80年代、90年代の名作、問題作の多くをこの場所で見た思い出の場所だったのだが。